野宿で日本各地の島を旅していた10年前、偶然出会った島の祭に魅せられたカメラマンの島祭コラム。島々に息衝く、祭の魅力をお届けします。今回は愛媛県東北端にある生名島の「ハンジキ踊り」。歴史上の故事に由来するこの盆踊りは、櫓(やぐら)の前に祭壇がつくられ、独特の振付も印象的な盆踊りです。
愛媛・生名島のハンジキ踊り
広島県・因島のすぐ西に位置し、愛媛県の東北端にあたる生名島(いきなじま|愛媛県上島町)。日本各地で行われる盆踊りの中で、生名島には「ハンジキ踊り」と呼ばれる独特な盆踊りがある。この踊りの起源は、1600年(慶長5年)の関ヶ原の戦いまでさかのぼる。当時西軍に属していた村上水軍は、東軍の松山を攻めようとして三津浜に上陸するも、敵の罠に陥り敗退。その故事にちなんだ盆踊りがこの「ハンジキ踊り」である。
因島からフェリーでわずか3分で生名島・立石港に渡ることができ、まるで渡し船の感覚だ。実際に、地元の人はフェリーのことを「渡し」と呼んでいる。そんな渡しに乗って、ハンジキ踊りが行われる8月14日の夜、生名島へと渡った。
島に入ると、会場となる生名中学校には、浴衣姿の人々の中に、位牌や遺影を抱えた人も集まり、踊りの開始を待っていた。このハンジキ踊りの名前の由来になったハンジキとは、磯の泥池の穴の中に住んでいる体長5~6cmほどのシャコのような節足動物で、後退する習性を持っている。前述の故事に由来し、位牌を背負い後退りする様を彷彿とさせるような、後に下がりながら踊る独特な踊りになったといわれている。
音頭に合わせ、位牌や遺影を抱く島人達の踊りは、故人への想いが溢れている。祈りの踊りは夜更けまで続き、島には盆踊りの音色が流れていった。
◆祭情報◆
日程 毎年8月14日
場所 生名島(愛媛県上島町)