野宿で日本各地の島を旅していた10年前、偶然出会った島の祭に魅せられたカメラマンの島祭コラム。島々に息衝く、祭の魅力をお届けします。
和歌山・紀伊大島の水門祭3(本祭)
勇壮な櫂伝馬競争が終了すると、「お山」に設けられた舞台「つる」で、「つるの儀」が行われる。様々な役者に扮した島人達が、「つる」を3巡し、神事を終えた当船の到着を待つのだが、この役者たちが面白い。
中でも、商人(売り子)は「つる」を1巡しかせず、「お山」の裏側で、魚の市を開くのだが、商売が成立した時に紙吹雪が舞い、歓声が上がる様子は、滑稽な中にも漁師の島の誇りを感じ、強く胸を打たれた。
役者達が「つる」を3巡した頃、苗我島(みょうがじま)での神事を終えた当船が帰ってきた。「つる」の役者達は、軍配や扇を振って手招きをしながら、当船を迎える。当船が「お山」の下に接岸すると、御鏡に御神景を映し、「お山」を水門神社側に倒すと、待ち構えていた漁師の若衆が一斉に御鏡に突進し、御鏡の奪い合いが始まる。
「御鏡を取ったら、豊漁が続く」と言い伝えられ、漁師の若衆にとっては、意地と誇りをかけた凄まじい争奪戦となる。かなりの時間、奪い合いが続いたが、ホラ貝が吹かれ、勝負つかずとなった(この場合、御鏡は漁業組合長の預かりとなる)。鏡取りが終わると大島港の出入り口に設けられたアーチ付近で、獅子屋台の練り合いが始まる。櫂伝馬競争で負けた「鳳」がアーチに向かって押し込み、勝った「隼」がそれを防ぐのだが、笛や太鼓の調子にのせて見物人が囃し立てる意地と根性の力比べは見応え十分。
「鳳」が見事アーチまで押し込むと、拍手が飛び交い「伝馬に負けたが、屋台で勝った」、「今年の勝負は勝ち負けなしや」という声が聞こえ、祭後のいがみ合いもなく、また一年仲良く暮らせるのだという。
祭と共に生きる島人の粋が見えた瞬間だった。
◆祭情報◆
日程 2月11日(櫂伝馬競争など)
場所 紀伊大島(和歌山県串本町)