つくろう、島の未来

2024年12月07日 土曜日

つくろう、島の未来

野宿で日本各地の島を旅していた10年前、偶然出会った島の祭に魅せられたカメラマンの島祭コラム。島々に息衝く、祭の魅力をお届けします。

岡山・北木島の流し雛 2

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満潮の時刻が近づいた午前11時30分過ぎ、大浦の海岸には島の女性達やツアー参加者が集まり、雛に悩みや病気を託し、また家族の安全や子どもの健やかな成長を願って、引き潮とともに「加太へ無事にお帰りください」「淡島様へお帰りください」と祈りながら流す。人々の願いを乗せたうつろぶねは、波に揺られ、時に押し戻されながら、ゆっくりと沖へと進んでいく。

余談だが、祭のクライマックスをきちんとカメラに収めようとすると、海側からの撮影となる。多くのカメラマンが海に入り撮影していたので、それに負けじと自分もズボンを捲り上げ、まだ肌寒い春の海に入った。想像以上の波に腰まで濡れてしまったのだが、ここでズボンのポケットに携帯電話が入っている事を思い出し、慌てて浜に上がるも完全に水没。自分の不注意で悲しい結果となってしまった。

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撮影時の反省点もあったが、正午過ぎには雛を流し終わり、沖には多くのうつろぶねが漂っていた。これで今年も島の女性達をはじめ、うつろぶねを流した人々は、無病息災で一年を過ごせるはずだ。

この流し雛、『源氏物語』須磨の巻に光源氏がお祓いした人形(ひとかた)を舟に乗せて須磨の海へ流すという著述があり、原型は遠く平安時代にさかのぼるといわれている。かつては全国各地で行われていた行事というが、今ではほとんど姿を消し、笠岡市役所の方曰く、岡山県では北木島のみとなってしまったそうだ。300年近く続く伝統行事である北木島の流し雛、淡島神社のある和歌山出身者として、これからも大切に続いていってほしいと願う祭だった。

◆祭情報◆

日程 旧暦3月3日直前の日曜日(2014年は3月30日)

場所 北木島(岡山県笠岡市)

     

離島経済新聞 目次

【連載】百島百祭

野宿で日本各地の島を旅していた10年前、偶然出会った島の祭に魅せられたカメラマンの島祭コラム。島々に息衝く、祭の魅力をお届けします。

黒岩正和(くろいわ・まさかず)
写真家。21歳より、日本の島の風俗・祭事を撮影(2013年現在300島以上を撮影)。主な撮影テーマは、日本の島・山岳少数民族の風俗・メコン河流域の風俗・ 棚田などの稲作文化・戦国史跡など。
http://kuroiwamasakazu.com/

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