つくろう、島の未来

2025年07月14日 月曜日

つくろう、島の未来

2024年に開催された「未来のシマ共創アワード」で高評価を得た取り組みには、多様な「八方よし」 が隠れています。地球1個分の暮らし部門(小中高生対象) で最優秀賞を受賞した、屋久島の高校生たちによる「屋久高環境フェスタ」運営の中心を担う、屋久島高校3年情報ビジネス科の大木咲愛(おおきささら)さんと、斉藤武先生に話を聞きました。

※この記事は『季刊ritokei』48号(2024年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

課題と魅力を周知するべく30以上の企業や大学が連携

189人(2024年度時点)が通う屋久島高等学校で、2021年度から毎年開催されている「屋久高環境フェスタ」の趣旨は、世界自然遺産である屋久島の課題や魅力を見つめ直す機会をつくること。

生徒を中心に、トークセッションや出店では30以上の島内外の企業・団体と連携。参加者数は第1回の約200人に始まり、第5回では約700人までに増え、多くの人を巻き込むイベントとして継続している。

島内外から30以上の企業や大学が参加。屋久島版の環境展示会となっている

1993年に日本初の世界自然遺産に登録された屋久島は、樹齢二千年を超える縄文杉が奥深くに眠る山や、世界屈指の上陸数であるウミガメの産卵地の浜など、 植物と生物がともに豊かな多様性に満ちている。

国内外から多くの観光客が訪れ、島の経済を支える産業となった一方、深刻化しているのがオーバーツーリズムだ。観光客が歩く山では苔が剥がれ、登山客の排泄物も問題に。捨てられたごみが川を下り海底に溜まる状況も起こっている。だが、その危機も、島民が知っているとは限らない。

「屋久高環境フェスタ」は、そうした環境問題と屋久島が持つ資源の魅力を再認識してもらうべく、2021年に同校の課題研究の成果としてスタート。その後、5年間にわたって先輩から後輩へとバトンが渡され、島全体を巻き込んだイベントへと成長してきた。

高校生の活躍を島の大人たちがサポート

生徒たちは物販・体験ブース・ステージの3チームに分かれ、企画運営を担当する。情報ビジネス科3年生の大木さんは、物販チームの一員として「オーガニックマーケット」というマルシェ企画を担当した。

斉藤先生曰く「イベント運営会社がやるようなことを経験している」レベル。生徒たちは自ら島内の事業者の元へ出向き、イベントの趣旨を説明しながら交渉を行っているという。屋久島高校では民間の地域コーディネーターが活動しているため、島の事情に明るいコーディネーターのサポートを受けられることも大きい。

「屋久高環境フェスタ」 の運営は生徒が中心

2024年のオーガニックマーケットで大木さんが印象に残っているものは、「屋久鹿ジビエ王国」の鹿スープだ。個体数の増加が問題となっているヤクシカを捕獲し、卸売や加工販売などを行う同社。スープを口にしたお客さんからは「鹿は臭みがあるイメージだったが、 こんなにおいしいとはおどろいた」という声が挙がったという。「ヤクシカの魅力を伝えられてよかった」と大木さんは振り返る。

もちろん、ただ食べておいしかっただけでは終わらない。屋久鹿ジビエ王国であれば「ヤクシカの食文化を定着させることで自然保護と利用開発の調和を目指す」という理念についても、ポスターやPOPなどを使って丁寧に説明し、「屋久島の課題や魅力の再認識」というゴールまで持っていく。

なお、「屋久高環境フェスタ」では売上の10%をテナント料として預かる他は、協力先に分配する。関係者に対する「八方よし」の姿勢もまた、生徒が代替わりしても持続するイベントに足らしめているのかもしれない。

純粋な想いと経済社会が連動新たな「八方よし」に期待

そんな屋久高環境フェスタを、第1回から見守り、サポートし続けてきた大人の一人が、斉藤先生だ。「回を重ねるごとに参加人数も増えていきました。 今回も開催後に『参加したかった』という声をいただいており、少しずつ成長していると感じます」(斉藤先生)。

第1回目はなかなか趣旨が伝わりきれず、ただのお祭りというイメージを持たれていたという。そこで毎年工夫を凝らし、第5回では環境問題に取り組む企業や研究者のトークセッションや、生徒自身が環境問題を絡めたワークショップを開催。趣旨を全面に押し出した。

トークセッションでは、「屋久島の資本」をテーマに、環境問題に取り組む企業や研究者などのその分野の専門家たちに交じり、大木さんも登壇した。「緊張しましたが、前日に登壇者の方と『屋久島の日常の裏側を知る』というテーマで島民の想いなどを一緒に聞ける時間があったので、当日は慌てず自分の想いを伝えることができました」(大木さん)。

2024年に開催された第5回には子どもからお年寄りまで700名以上が参加した

同イベントに関わる東京の企業・リファインホールディングスは、同社が持つ技術を活用しながら屋久島の経産牛をブランド化する事業を展開している。そこで生まれた「縄文牛」の商品開発で屋久島高校の生徒たちと連携。2025年3月には、高校生ならではのユニークなアイデアが詰まった「縄文牛 ® チップス『カウップス』」「縄文牛弁当」「縄文牛®抱き枕」がお披露目される。

島の環境問題と資源の魅力を伝えたいと願う純粋な取り組みは、島内外の企業団体へと広がり、さらに多くの「八方よし」を生み出していくことだろう。





     

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八方よしのシマづくり

近江商人が掲げた理念 「三方よし」は「買い手よし、売り手よし、世間よし」を意味します。そして三方のみならず、四方八方あらゆる方面に 「良し」とする 「八方よし」。『持続可能な資本主義-100年後も生き残る会社の「八方よし」 の経営哲学』(ディスカヴァー携書)によると、経営者、株主、社員だけでなく、国や地球に対しても利益のある経営を指します。

経営も、地域づくりも、究極の理想はあらゆる方面を笑顔にする 「八方よし」。この特集では、 2024年に開催された「第1回未来のシマ共創アワード」で高評価を得た団体を例に、八方よしのヒントをお届けします。今日、あなたは誰を笑顔にしましたか? ご自身の取り組みと重ねてご覧ください。

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