2024年に開催された「未来のシマ共創アワード」で高評価を得た取り組みには、多様な「八方よし」 が隠れています。サステナブル経営部門にてエンデバー賞を受賞した島田広之さんは、 大阪の大学で研究員として働く一方、 工務店として隠岐諸島(島後ほか)での住宅や店舗のリノベーションにも携わります。二拠点かつ副業で八方よしをつくる活動について聞きました。
※この記事は『季刊ritokei』48号(2024年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
あえて大工を選んだ理由「競争よりも共創」
島田さんは建築系の大学で学んだのち、大工の道に進んだ。同期の多くが花形とされる建築士を目指すなか、あえて大工を選んだ理由は「工務店でアルバイトしていたときに現場が楽しかった」ことに加え、「競争したくなかったことと、 同期が活躍したときに仕事がもらえると思ったから」。 競争よりも共創を選ぶ選択にも、持続可能な働き方のヒントがある。
大学の研究員としても働く島田さんはある時、授業プログラムを開発するために隠岐の島を訪れた。住民と対話するなか、島田さんが大工だと知った地域住民から相談を受けたことをきっかけに、施工を請け負うことに。そこで手掛けたリノベーション案件が評価され、隠岐諸島の案件が舞い込むようになった。
隠岐の島でリノベーションを手掛けたワークスペース 「京見屋分店 風待ち office」
人口減少が進む離島では土木建築業者も減っており、住宅建築や改修を行いたくてもすぐに着工するのは難しい場合も多い。需要に対応できなければ移住や開業をあきらめる人も増えてしまう。地元業者の手がまわらない案件に対応できる工務店は、島にとってもありがたい存在だ。
隠岐諸島の案件が増えるにつれて「隠岐に住んだら」と声を掛けられる島田さんだが、2拠点での事業展開は利点は多い。離島への送料を考えると、本土でまとめて仕入れる方が安い場合もあり、大阪からフェリーを乗り継ぎ隠岐へ車移動すれば、全体の費用を低く抑えられる。「隠岐へ向かう車に、隠岐に行きたい若者を相乗りさせることもできる」のも利点だ。
隠岐の現場での作業風景
1年間のうち前期は大学で働くため、工務店は後期が中心で年商は約3,000万円。「一生のうち携われる案件が100件くらいなので、案件にもこだわりたい」という島田さんは、「競争したくないと言ったけど……」と前置きした上で、「(この働き方をする人が)あと10〜20人増えても競合しないので、こうした働き方が増えるといいと思います」と語った。
日本では2024年11月に二地域居住促進法も施行されている。島田さんの働き方は国や未来にとっても「良し」である。
大阪市と隠岐諸島を拠点に活動する島田さん