島の祭に魅せられたカメラマンの島祭コラム「百島百祭」。今回は、芸予諸島の中心・生口島(いくちじま|広島県)の、古き良き伝統に素朴さが交わる「名荷神楽」を3回にわたりお届けします。
(名荷神楽1はこちらから)
室町時代、生口島一帯では疫病が流行。加えて干ばつも起き、島民は凶作に苦しんだという。名荷神楽は、当時の名荷神社の世話役が、氏子の苦難を救い給えと、神前で幣(へい)と扇子を持って神楽を舞い、病魔退散と豊作を祈念したのが起源という由緒正しき神楽だ。
演目のひとつである「岩戸」には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、弟、須佐之男命(すさのおのみこと)の乱暴に困り、天の岩戸の中に隠れて、世の中すべてが闇夜となるという場面がある。この演目では、須佐之男命のアクロバットな動きに観客から歓声が上がり、アットホームな雰囲気と瀬戸内の陽気が穏やかな気分にさせてくれる。
そんな中、名荷神楽でぜひ見たいと思っていた「三宝荒神(さんぽうこうじん)」が始まった。白の紙衣を着せた人形に御神酒を注ぎ、その色のにじみ方で神意をうかがうもので、託宣神事の一部を伝えるものと思われる。
御神酒を注いで、少しずつ顔を赤らめていく様は、さも人形が御神酒を飲んでいるように思えて、とてもユーモラスでおもしろい。だんだんと赤ら顔になっていく人形に、酒好きの自分を重ねてしまいそうになる。
境内に集まった氏子たちに思う存分、御神酒を注いでもらった人形は、誇らしげな姿となる。その姿は観客たちの笑顔を誘い、春の暖かな日差しの中、境内には優しい笑い声が響いていた。演者と観客が一体となって繰り広げられる神楽に、撮影しているこちらも、みるみる引き込まれていく。
●広島県生口島・名荷神楽3へと続く
◆祭情報◆
日程 毎年4月第一日曜日
場所 生口島(広島県尾道市)