東京23区で育った私が、伊豆大島で椿炭の生産を始めたきっかけは10年前、大学で「地域を決め、そこの課題を解決する事業を考えなさい」という課題が与えられたことでした。そこで、「大島の人口減少に対し、椿を資源に新しい産業をつくる」と課題を設定し、椿炭事業を提案しました。
この時の構想が自分の中で時間とともに大きくなり、起業へと至りました。高知県での1年間の備長炭修行を経て、2024年6月に大島に移住し、事業を開始しました。事業を開始してから、設計図のない炭窯づくり、炭焼きにしか通じない道具の加工依頼、現在進行形で、師匠の経験に頼れない一人での炭づくりと、いつ抜けてもおかしくない足場を進むような毎日を送っています。
そんな中でも、島の大先輩方が毎日のように窯に寄ってくださり、「それでこそ仕事だ」と言って、仕事の作法を教えてくださいます。ある日、私が炭焼きの工程で一人悩んでいると、顔馴染みの大工の親方が「それでおもしろいと思えたらこっち(職人)の世界だぞ」と嬉しそうに話してくださいました。
少しずつ椿炭を使っていただける機会が増えてきました。バーベキューの炭を変えるだけでこんなに味が変わるものかと驚いていただくことで、大変な仕事が報われる気がします。備長炭でなぜおいしくなるのかもとても興味深いのですが、今回は割愛せざるを得ません。株式会社東京備長の成長に今後ともご注目頂けましたら幸いです。
平井雄之(ひらい・ゆうじ)
2023年まで東京工業大学大学院で研究員として、 持続可能な開発に関する研究に従事。並行して、東工大リーディング大学院プログラムに所属し、大島での椿炭プロジェクトを立ち上げる。2024年3月に株式会社東京備長を創業。