私が島に通い始めたきっかけは、ほんの気まぐれな「観光」からでした。仕事や人間関係に疲れ、頭を空っぽにしたい。当時の目的はただそれだけでした。
通ううちに、旅の意味は変わっていきました。小さな商店で交わした会話、集落の道端での「また来たんか」の言葉。そうした出来事の積み重ねが、観光ではなく関係を築く旅へと変えていきました。気づけば別の島へも足を運ぶようになり、新しい出会いとつながりが増えていきました。
島では、小さなアクションでも波紋のように広がり、思いがけない変化を生みます。何かを手伝えば「助かったよ」と感謝され、何気ない会話から新しい試みが生まれる。自分の存在が誰かの役に立っているという実感がありました。
もちろん、島には課題も少なくありません。それでも人々は諦めず、暮らしを守る工夫を日々重ねています。港で漁網を修理する手、炎天下で草を刈る姿、祭りを絶やさぬよう奔走する背中。その営みの一つひとつが未来をつないでいるのです。
だから私は、その営みを「音」に残しています。 船の汽笛や港のざわめき、作業の音や鳥の声など、島の息づかいをそのまま切り取り、『kiteki records』というポッドキャストで発信しています。
たとえ小さな存在でも、島にとっての“ひとり”は決して小さくない。 その手応えと温かい循環、音として刻まれる島の日々が、これからも続くことを願っています。
河内佑真(かわち・ゆうま)
山口県出身。島と船を愛する広島県在住のサラリーマン。 本業のほか、研究員やリトケイうみねこ組など様々な肩書を使い分け、会いたい人に会いに行くことがライフワーク。過去一番通った島は伊豆諸島・利島。元地域おこし協力隊
ポッドキャスト『kiteki records』
※この記事は『季刊ritokei』50号(2025年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。