つくろう、島の未来

2024年03月29日 金曜日

つくろう、島の未来

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「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は東京から南へ287km、伊豆諸島・八丈島(はちじょうじま)を基点に南は青ケ島(あおがしま)、北上して御蔵島(みくらしま)、三宅島(みやけじま)、利島(としま)、伊豆大島(いずおおしま)の6島を結ぶ、国内唯一のヘリコプターによる定期航空路線「東京愛らんどシャトル」のパイロットを務める小野寺剛志さんです。

かけがえのない島の交通手段

伊豆諸島を1日1往復、合計10便運行している「東京愛らんどシャトル」は、1993年の運行開始以来、延べ人数で約34万人(2015年9月末現在)、年間平均約1万5,000人が利用するヘリコプター。天候によって船や飛行機が欠航し、島内〜島外の移動に時間がかかるなど、気象条件や物理的な制約により交通手段が限られる東京の島々で、おもに生活・ビジネスの貴重な足として利用されている。

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「三宅島から大島に行かれるお客様を乗せた際に、大島空港の天候が悪く、上空でしばらく待機したことがありました。ある程度待機した後、降りられないという判断をして戻る寸前でしたが、ほんの一瞬、降りられる瞬間があって何とか着陸できました。降機されるお客様に『本当にありがとうございました!』と突然握手をされて。どんな事情があったのかは分かりませんが、島々の皆さんにとって、かけがえのない交通手段なのだと強く感じました」と話す小野寺さん。かけがえのないものだからこそ、人一倍責任感を持って乗務に臨んでいるという。「東京愛らんどシャトルのパイロットは私を含めて4名。その4名が5泊6日ずつ、シフトを組んで八丈島の寮に寝泊まりして運行しています。その間、自分に何かあってもすぐに交代という訳にはいきません。シフトが明けるまで、一人で1日10便を滞りなく運行できるように、常日頃から徹底した体調管理を心掛けています」。

島に触れ、海の青さと島の暮らしに魅せられて

島々をつなぐ空を飛び始めて10年目を迎える小野寺さんだが、もともとは小型飛行機のパイロットだった。「ヘリの免許は入社してから取得しました。飛行機もヘリもスピードがついて動いてしまえば変わらないのですが、低速で飛行できる点や風に強く、ホバリングができることなど、島に適した特性がありますよね。あとは視界の広さも飛行機にはない特性ですね。初めて東京愛らんどシャトルに乗務した時、それまで市街地や山間部での業務に従事していたので、島々の間に広がる大海原と青い空、白い雲、ヘリからしか見られない、この景色に驚きました」。

小型飛行機からヘリコプターへ。そして東京愛らんどシャトルの担当パイロットになったことで、それまで島と関わりがなかった小野寺さんにとって、島に触れるきっかけが生まれた。「青ヶ島や御蔵島では、3月や4月など人の出入りが多い時期には、島を離れる人を、ヘリポートの脇で太鼓を叩いてみんなで見送ったり、横断幕をかかげたり。出て行かれる人も泣きながら乗ってきたりして。みんなで送り出して、みんなで迎え入れてくれるという、島ならではの心あったまる瞬間を目にした時はジーンときました」。八丈島では、スキューバダイビングのライセンスも取得し、3年前には小笠原諸島にもプライベートで訪れた。「海の青さ、人との距離感、そういった島での暮らしに魅せられますよね」。

島からの『ありがとう』の声に応えたい

島に触れ、その魅力を感じる一方、島と島をつなぐ交通ならではの難しさも多々あるという。「一番は自然を相手にするところ。有視界飛行(※)をしているので、出発前に飛行できると判断しても、行った先で予想を上回る悪天候だったり、飛行中に乱気流に遭遇したり。365日・1日10便を運行しているので定時性も重要ですし、かといってお客様の安全はもちろんのこと、快適性も追求しなければいけません」。

※有視界飛行……厳密には「有視界飛行方式による飛行」。離陸後に目視で位置を判断する飛行を指す

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東京愛らんどシャトルが運行する島々では、特に冬場は船が欠航することも多く、その日数によっては臨時便・チャーター便として生活物資を運ぶことも。「言葉には出さなくても『ありがとう』と思ってくれている島の人がいるはず。そういう声に応えたい。もちろん私だけでなく、さまざまな担当者が同じ想いで働いています。チケット受付や販売、荷物のやり取り、お客様の案内、機体整備など、たくさんの人がそれぞれの職務をこなして、初めて安全に快適にヘリを飛ばすことができる。そういった人たちの想いも一緒に背負って、これからも島と島を結ぶ、この仕事を続けていきたいです」。小野寺さんは力強く語った。

(文・写真/大久保昌宏)


プロフィール/
小野寺剛志(おのでら・たかし)
東邦航空株式会社東北営業所 飛行課課長。静岡県出身。1967年11月15日生まれ(48歳)。1989年11月入社。2005年から東京愛らんどシャトルに乗務している。

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

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