つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、「瀬戸内の空から、離島の生活に革命を」のミッションを掲げる株式会社かもめやの宮武周平さんが登場。世界初(※)のドローンで海を渡る長期定期航路開設を皮切りに、離島地域における物資輸送のハードルを下げる挑戦を続けている。地道に島に通いながら最新の技術を扱う、日々の仕事について聞いた。
※2021年6月時点かもめや調べ

※この記事は『季刊ritokei』37号(2022年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・小野民 写真・坂口佑(メイン)

お話を聞かせてくれた株式会社かもめや 取締役COO 宮武周平さん

離島暮らしの実感が出発点「届ける」ために最新技術を

「365日どこに住んでいても、いつでもモノが届く日常を目指して。」香川県高松市に本拠地を置く株式会社かもめやは、男木島(おぎじま|香川県)移住の経験をもつ小野正人さんの切実な想いで創業した。当時、たった1年の間に長く住み慣れた3世帯が島を離れた。その理由はさまざまだが、小野さんは、物資はもちろん、人がいつでも気軽に行き来できる環境が整えば、暮らし続けられる人や新たに島で暮らしたいと考える人も増えるだろうと考えたのだ。

ゴールに向かう手段は、陸海空を網羅すること。同社は、三豊市須田港で1キログラムまでの荷物を積み込み、粟島(あわしま|香川県)まで約4キロメートルの距離を7分半で運ぶ無人ドローンサービスを実用化。2021年8月から始まったこのサービスは、世界初の海を越える無人定期輸送航路になった。他にも、男木島では「オンバ」と呼ばれる手押し車を全自動化した「Smart.ONBA(スマートオンバ)」や、無人輸送船「Donbura.co(ドンブラコ)」など、「運ぶ」に特化したプロダクトを開発。

本当の「地方創生」はどこ?故郷のベンチャーとの出合い

少し時計の針を戻す。まだドローン輸送が実証実験中だった2020年末、かもめやの仲間に加わったのが、今回お話を伺ったCOOの宮武周平さんだ。東京で働きながら「地方創生」とよく聞くようになったが、言葉だけが一人歩きしているように感じられた宮武さんは、実を伴った地方創生の実例を求めて全国を巡った。そのとき、強く惹かれたのが故郷香川県の会社かもめやだった。

「ビジョンと、その実現のために使おうとしている技術にワクワクしました。だけど、戦略はぼろぼろ(笑)。持続可能な取り組みにするためには利益も必要で、その部分は自分のこれまでの仕事を活かせると思ったんです」

図らずもUターンし、現在は高松市内で暮らしながら週に2、3回はドローン定期航路の発着場所である粟島に足を運ぶ生活をしている。仕事の内容は、戦略、広報、採用、人材育成など多岐に渡り多忙を極めるが、そんななかでも島での住民との接点を大切にしている。

「つい数週間前には、粟島の全戸訪問をしてきました。これまでも島で会う方たちと雑談をするなかでかもめやのドローン宅配便の認知は高まっていて、90歳の方でもドローンを知っています。新しい技術を実装していく過程で重要な『社会受容』は高まってきているので、もっと生活に浸透させていきたいですね」現在は重量制限もあり、ドローンで運べるのは菓子やインスタント食品、ドックフードなど。午前中に注文すれば、品代プラス500円で当日中に届けられる。まだ黒字化には至らないが、「毎日弁当を届けてほしい」との利用者もいて、「サービスが必要とされている実感がある」と言う。

日進月歩のハイテク技術は島や山間部でこそ生きてくる

現在の課題は、ドローンが運べる重量上限が1キログラムしかないこと。注文分を運べず、かもめやの社員が船に乗って人力で届けることもあるが、「いつでもモノが届く日常」のためなら、今はその手間も惜しまない。近々5キログラムまで輸送できるドローンを導入する見通しで、今後さらに積載重量の上限が上がれば、採算が取れる見込みだと言う。2025年までには、自動運転で人が乗れるドローン、いわゆる「空飛ぶクルマ」を実装し、誰でも本土と離島を自由に行き来できるようにしたいと宮武さんは意気込む。

日本の政策としても、島しょ部や山間部におけるドローン活用の期待は高く、予想以上のスピードで法整備や実証実験が行われている背景がある。宮武さんは民間人としてその最前線に立ち、瀬戸内海の島以外で実験に参加する機会も増えているという。宮武さんの仕事は、最先端の技術を扱いながら、島へ足を運び島の住民とおしゃべりすること。そんな両輪で走る日々を、「目指すゴールが半端じゃないから大変ですが、毎日めちゃめちゃ楽しいです」とやる気に満ちた笑顔で語ってくれた。


宮武周平(みやたけ・しゅうへい)さん
香川県出身。東京の大学に進学後、サイバーエージェント、複数社のITベンチャー企業の立ち上げ、リクルートを経て、2021年にUターンののち、現職。

【関連サイト】
株式会社かもめや
2014年に現在代表取締役である小野正人さんが男木島で創業。その後高松市内に事務所を移し、2016年に株式会社化。2019年、長崎県五島市ドローン離島間無人物流事業、国土交通省「令和2年度スマートアイランド推進実証調査業務(三豊市)」参加。2021年、粟島へのドローン宅配を定期航路として開始した。

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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