つくろう、島の未来

2024年05月19日 日曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、日本一小さな航空会社・天草エアライン株式会社の川﨑茂雄さんに取材。空港の安全確保からイベント企画、旅行業、ラジオパーソナリティまで、空港の枠を越えて活動する地域の仕掛け人です。

※この記事は『季刊ritokei』42号(2023年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・中城明日香 写真・仲次達也

大人気のみぞか号の前で微笑む株式会社天草エアラインの川﨑茂雄さん。「みぞか」とは、天草の方言で「かわいい」の意。

日本最小の航空会社を支える「みぞか号」は島を結ぶ家族

青いボディに愛くるしい表情を浮かべる親イルカが、両脇に2匹の子イルカを抱えたユニークなデザインの機体。熊本の島・天草から熊本を経由し1日1便が発着する大阪・伊丹空港では、その姿をひと目見ようと熱心なファンが詰め寄せる。

天草〜福岡線を1日3往復、天草〜熊本線と熊本〜伊丹線を1日1往復、計10便を担うみぞか号。2016年に新しく導入した48人乗りのプロペラ機だ。天草の海に自生するイルカになぞらえ、機体は親イルカの「みぞか」、両翼を担うエンジンの左側を「はるちゃん」、右側を「かいくん」と名付けた。

発着を見守る空港スタッフは「行ってらっしゃい」、「おかえりなさい」と書かれたお手製のメッセージボードを掲げ、旅の安全を期す。日本一小さな航空会社の大黒柱であるみぞか号は、家族のように大切にされている存在だ。

1998年から就航に向けて綿密な体制を整え、天草空港が決死の思いで開港したのは2000年のこと。空港には、多くの来賓や乗客が押し寄せ、ハイヤの踊り子たちが練り歩く街は、この上ない期待感に満ちていた。「みんなが笑顔で空港に集う。あの日の光景を私は忘れられませんし、これからも一生忘れることはないと思います」。そう当時を振り返るのは、天草空港エアライン株式会社の川﨑さんだ。

空港から15分ほどの距離にある五和町に生まれ育ち、空港設立当初から関わってきた主要メンバーの1人だ。「飛行機は、安全に運航することが一番の仕事」と話す川﨑さんは、手荷物検査からカウンター業務、地域を巻き込んだイベントの企画・運営、ラジオのパーソナリティまでこなすマルチプレーヤーだ。

地域の魅力をすくい上げる旅で飛行機の利用促進を

2022年度からは、新たに旅行部門を設立。プランの企画から造成、アテンドまで担っているという。天草の伝統的な祭り「牛深ハイヤ祭り」や「プロレス殿堂館」の地域イベントに応じて、少人数でも催行する多彩な旅のプランを考案している。

「小さな地域の祭りやイベントは、1日しかない。そのような地域のイベントは旅行代理店では商品化しづらい面があるので、もれてしまう旅を拾い上げたい。わずかでも島に人を呼び込めれば、と会社を説得して始めました」と川﨑さん。

困難を希望に換えて島の命を未来につなぐ

一方で、日本一小さな航空会社が抱える課題は少なくない。小さな航空会社に予備機を保持する余力はなく、すべてのフライトを1機で賄ってきたため、トラブルがあった際は、欠航を余儀なくされてきた。

「どんなに小さな航空会社であっても、世界基準の安全性を確保することは大前提。現在は日本エアコミューターと連携し、共通事業機を確保し、長期的な整備作業でも運休しないよう努力してます」と話す川﨑さんは「1機しかない大事な機体。だからこそ出来る限りのことを続けたい」と続けた。

島を出る人も多い中、エアラインを次世代につなぐという大きな責任も自負している。天草五橋で九州本島と繫がっているものの、緊急時に片道1車線を走る車での道のりはあまりに遠い。航空機なら福岡まで35分という利便性は、医療、経済、そして観光の面でも島の重要なライフラインだ。

「島内における医師確保には、欠かせない路線です。島を出て行く人も多いけれど、いつでも戻って来てもらえるように、何としてでも線をつないでいきたいです」。どんな時でも前向きに乗り越えようとする川﨑さん。その笑顔は、両翼にたくさんの希望を乗せて風を切るみぞか号の姿と重なって見えた。


川﨑茂雄(かわさき・しげお)さん
熊本県天草市出身。地元の農協等を経て、2000年に天草空港エアライン株式会社に入社。営業職として地域のイベントや利用促進に努める。2022年には旅行部門を設立するなど精力的に活動中。

【関連サイト】
天草エアライン株式会社
2000年開港。福岡、熊本、大阪を結ぶ1日10便を運行する日本一小さな航空会社。同社を舞台にしたノンフィクション小説『島のエアライン』では、その奮闘ぶりが全国的に注目を集めた。

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

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