つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

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「島々仕事人」は島に関わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、香川県丸亀市の讃岐広島で、島の人たちとともにゲストハウス「ひるねこ」をオープンした、旅作家の小林希さんです。

※この記事は『季刊ritokei』16号(2016年2月発行号)掲載記事になります。

聞き手・甲斐かおり 写真・大久保昌宏

古き良き原風景にのんびりできるゲストハウスを

香川県の北に位置する海域、備讃瀬戸に浮かぶ塩飽諸島。その中でもっとも大きいのが讃岐広島だ。旅ライターの小林希さんは、初めてこの島を訪れたとき「本当に何もない島だな」と思う一方で、日本の原風景とも言える眺めに魅せられたという。ひっそり佇む古い家屋や段々畑が、緑に埋もれるように息づいていた。

2015年3月、この讃岐広島にオープンしたゲストハウス「ひるねこ」は、小林さんが「島プロジェクト」として島の人びとに提案し、住民がそれに応える形で運営に携わり、ゆっくりと動き始めた素泊まりの宿だ。素泊まりといっても、宿泊客が食材に困らないようにと島の人たちが丹精した畑もあり、季節の野菜が採り放題。運がよければ島の人たちの手料理のご相伴にもあずかれる、アットホームな宿だ。「ネコが縁側でお昼寝するようにくつろげる、癒しの宿になったらいいなと思って、ひるねこと名付けました」。

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お世話になった人たちへ。恩返しの意を込めて

小林さんは、これまでに海外14カ国をめぐり、本や雑誌などで執筆してきた旅作家。旅の舞台はもっぱら海外だったが、2014年の春に瀬戸内海の島々を旅したのがきっかけで、讃岐広島に訪れた。

当初は旅の予定になかったこの島に立ち寄ったのは、知人であり旅作家の斎藤潤さんに勧められてのこと。半信半疑で港に降り立った小林さんに「おーい!こっちこっち」と無邪気に手を振っていたのが、島に7つある集落のひとつ、茂浦の自治会長・平井明さん、後に「ひるねこ」運営の中心となる人物だった。

港から車で約15分島を北上すると、30人ばかりのお年寄りが暮らす茂浦集落がある。初対面で平井さん夫婦とすぐに打ちとけた小林さんは、島の置かれた状況を聞いた。人口は300人足らずで平均年齢は70歳前後。特別な観光名所もなければ、食堂や宿泊所、商店もない。空き家は増える一方で、このままでは無人島化するかもしれないという。

「でもそれではいかんのじゃ。自分たちが動けるうちに、何とかしなきゃいけん」。島ではまだ若手に入る60代の平井さんは、そう語った。

悶々とした気持を抱えたまま島を後にした小林さんは、東京に戻ってからも居てもたってもいられず、それから2カ月後にゲストハウス開業の案をもって、再び島を訪れる。

「使われていない古民家を生かして宿を始めてはどうか、ただしお金はかけられないので出来る範囲で」という小林さんの提案に、茂浦の人たちは賛同。手頃な空き家もすぐに見つかった。

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それからの10カ月間、小林さんは毎月のように仲間を連れて島を訪れ、空き家の掃除や看板づくりなど準備を手伝った。

「これまで色々な場所を旅してきて、お世話になった人たちがいます。その恩返しをここで果たせたら、というような気持もありました」。

3月末に行われたお披露目会には、周辺の島々や岡山、東京からも多くの人が集まり、島に唯一の宿泊施設ができたことを喜び合った。

島の人びとが主役の宿が未来への小さな希望に

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ゲストハウス開業に協力してくれた島の人たちを「明さん」「たもっちゃん」と親しみを込めて呼ぶ小林さんだが、宿のオープンまでは泣いたり笑ったりの連続だった。

「島の人たちとは時間の感覚にずれがあったり、私の役割を越えて求められることもあったりして」。ゲストハウスを提案したのは小林さんでも、実際に運営するのは島の人たち。それが初めからの約束だった。「主役はあくまで島のみなさん。みなさんが無理なく進められる範囲でやりましょう」。何かあるたびに、小林さんは確かめるようにそう口にした。

それでも毎月島を訪れるたびに、空き家はどんどん宿らしくなり、人びとの関わり方も主体的になっていった。平井さん夫婦は旅館営業許可を取得。ご近所の漁師の保さんは自らゲストハウスのフェイスブックを始めたいと言ってきた。小林さんはアカウントをつくる手伝いをして、「管理人はあなたですよ」と伝えた。

宿のオープン以来、島にはさまざまな人が訪れるようになり、すっかりこの取り組みを気に入った平井さんは、新たに丸亀市と組んで第2号の宿泊施設を建てようとしている。

小林さんの提案は、ゲストハウスをつくるきっかけになっただけでなく、島の人たちの心に火を灯した。いま一軒の宿が、島の小さな希望になっている。

プロフィール/
小林希(こばやし・のぞみ)
1982年東京都出身。2011年末にサイバーエージェントを退社。その日の夜から旅に出て1年後『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎刊)でデビュー。近著に『女ふたり、台湾行ってきた。』(共著・ダイヤモンド社)

ゲストハウスひるねこ
香川県丸亀市広島町茂浦271
電話:0877-29-2734
料金:素泊まり大人3,000円・子ども1,000円

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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