つくろう、島の未来

2024年10月03日 木曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、2017年に「サンゴに優しい日焼け止め」を開発・販売して話題を呼び、2019年には誰でも気軽にビーチクリーンができるプロジェクト「マナティ」をスタートさせたジーエルイー合同会社の代表・呉屋由希乃さんが登場。パワフルな活動とその背景にある想いについて伺いました。

※この記事は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDGs」掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・離島経済新聞社

お話を聞かせてくれたジーエルイー合同会社代表 呉屋由希乃さん

「サンゴが死んじゃうよ」その一言から日焼け止めを開発

2016年、インターネット上で「サンゴに優しい日焼け止めをつくりたい!」と願う女性が、寄付を呼びかけ始めた。きっかけは座間味島(ざまみじま|沖縄)の海で起きた出来事。ビーチで日焼け止めを塗っていた彼女は、地元のダイバーから「サンゴが死んじゃうよ」と教えられ、ショックを受けた。

調べてみると、市販されている日焼け止めの多くに、サンゴを死滅させる有害物質が含まれていることが分かった。美しい海が広がる沖縄で生まれ育った一人として「自分のサンゴを傷つけていた」ことを猛省した彼女は、サンゴを傷つけない日焼け止めの開発に乗り出した。

彼女の発想はインパクトを携えて社会に届いた。多くのメディアが取り組みを報じ、80日間で約250人から354万円の支援金が集まり、夢は実現となった。

そんな物語の主人公、呉屋由希乃さんは、人懐っこい笑顔で「普通のウチナンチューよー」と笑い、意外にも「もともと島にも環境問題にも興味があったわけじゃなかった」と口にした。

沖縄市で生まれ育った呉屋さんは、20代前半はパーティープロモーターとして、渋谷や六本木の華やかな世界で活動していた。その後、ニューヨークに渡り、個人バイヤーとしてアパレル用品のネット販売に携わったのち沖縄に戻り、アパレルショップを経営。

イラストレーターとして活動する友人が慶良間諸島(けらましょとう|沖縄県)で開いていたワークショップを手伝いに出掛けたことが、島と環境問題との出会いになった。

西表島で大量のゴミに遭遇「どうしたら拾えるのか?」

日焼け止めの開発に着手した呉屋さんは、自身が思い描く日焼け止めが日本に存在しなかった理由を知る。「日本を含めアジアでは、自然に優しく、使い心地のよい日焼け止めの原料がなかったんです」(呉屋さん)

2018年5月にはハワイでサンゴに有害な日焼け止めの使用を禁止する法案が可決され、その動きはパラオにも広がっているが、日本での認知度はまだまだ低い。

呉屋さんが発する「サンゴに優しい」というキーワードは、「サンゴに優しくない日焼け止めが存在すること」を逆説的に社会に知らしめる結果にもつながり、2018年には生物多様性アクション大賞・審査員賞も受賞。開発・流通・販売のどれをとっても苦労は尽きないが、呉屋さんの想いに共感し、住民向け説明会を開きながら一緒に商品を広めてくれる島の人などに、勇気づけられてきたという。

「サンゴに優しい日焼け止め」の拡大を続ける呉屋さんは最近、もう1つのプロジェクトもスタートさせた。「マナティ」と命名される誰でも気軽にビーチクリーンを行えるサービスだ。

「3年前、日焼け止めの仕事で西表島(いりおもてじま|沖縄県)を訪れた時に、夕日がきれいな時間だったので車を停めてビーチに降りたら、ペットボトルが落ちていたんです。拾おうと思ったら、大量のゴミが広がっていて……。島に着いたばかりでホテルのチェックインもしておらず、結局、何もできなくて、半分パニックのままその場を後にしたんです」。

旅先でのビーチクリーンは拾ったゴミの処理が問題になることから、簡単に行えないことが多い。呉屋さんは、自身の体験から「どうすればゴミを拾えるのか?」を真剣に考え、実行に移した。

思い描くのは、訪れる人も島人もリスペクトされる世界

マナティには3つのモデルが想定されている。1つは観光客などが500円でマナティバッグと呼ばれる回収袋を購入し、ビーチクリーンを行うモデル。2つ目は、インターネットを介して「拾ってほしい人」と「拾いたい人」をマッチングさせるモデル。3つ目は、島でビーチクリーン活動を行う地元団体等がホスト役を担い、訪れた観光客がホストと共にビーチクリーンを行えるモデルだ。

12月には沖縄県南城市のビーチで実証実験が始まり、今年1月には渡嘉敷島(とかしきじま|沖縄県)でもマナティバッグの取り扱いがスタートした。「私が考えていることはとても単純で、島に行くなら(島を)リスペクトできたほうが楽しいし、島の人もリスペクトしてもらえたほうが嬉しいと思うんです」と語る呉屋さんは、世界中の人と島と、やさしい社会をつくることを夢見ている。


呉屋由希乃(ごや・ゆきの)
1979年沖縄市出身。「海の大事さ」「自分と地球との繋がり」をコンセプトにしたプロダクトを通して発信するジーエルイー合同会社代表。2019年からは、誰もが気軽にビーチクリーンを行えるプロジェクト「マナティ」も展開。
プロジェクトに関するお問い合わせは(gle.goya★gmail.com)
※★を@マークに変えて送信してください

【関連サイト】
ジーエルイー合同会社

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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