奄美群島(あまみぐんとう)、種子島(たねがしま)、屋久島(やくしま)など、28島の有人離島を誇る鹿児島県には、飛行機で渡ることができる島も多くあります。「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。1人目は奄美群島 沖永良部島(おきえらぶじま|鹿児島県)出身で客室乗務員として空の旅の安心を提供している林美穂さんです。
■島育ちの客室乗務員として空の旅に温かい安心を提供
日本エアコミューター株式会社
客室乗務員 林美穂さん
■機内で拍手が起こる離島便ならではの温かさ
「私にとって飛行機は本土から島にやってくる憧れの乗り物でした」。そう語るのは奄美群島の南西部に位置する、沖永良部島出身の客室乗務員・林美穂さん。幼い頃から林さんは、沖永良部空港に降り立つ飛行機を見て「いつか私も乗りたいなぁ」と想いを馳せてたという。客室乗務員というと華やかなイメージがあるが見た目以上に体力勝負でもある。「フライトは多くて1日に6回。36人乗りの機体だと客室乗務員は1人なので、機内業務を1人でこなすことになります。体力的な部分はもちろん、気持ちのうえでのメンタルの強さも必要ですね」。
さらに、悪天候などで飛行機の発着が遅れる場合、お客さまからの不満を受けてしまうこともある。「ビジネス便では時折クレームを受けることがあります。ですが、離島便では極端に少ない。以前、離島便で機体のトラブルが発生してお客さまを2時間もお待たせしてしまったことがあるのですが、お客さまからはクレームではなく”飛んでくれてよかった。ありがとう”と声をかけていただいたんです」。飛行機は離島に暮らす人々にとって大事な足であることを林さんは実感する。「機内で拍手が起こるのも離島便ならでは。天候が悪く目的地に着陸できるか微妙なとき、無事に着陸すると歓喜の拍手が湧き起こることもあるんです」。
■島民の日常生活の一部であるJAC便だからできるサービスを
日本エアコミューターの客室乗務員では唯一、沖永良部島の出身である林さんは、「いつも、島のみなさんが応援してくれています」と言う。「アナウンスで林と名乗るとお客様が声をかけてくださるんです。“あなたのお母さんの友達なのよ”とか、“名字が変わってないってことはまだ結婚していないのね”なんて言うツッコミも(笑)。気さくに話しかけてくださるので力になりますね」。
林さんが離島の出身であることは、機内でのサービスにも生かされる。「ある時、旅慣れない様子の老夫婦が沖永良部空港から搭乗されたんです。サービス中もすごく遠慮がちで。でも“私も沖永良部の出身なんです”と声をかけたところ、そこから不安なことや質問などを話してくださいました。親近感をお持ちいただけて、お客さまのお役に立てたのが嬉しかったです」。
離島を結ぶ小さな飛行機だからこそできるサービスもある。「島の人は、本州と違って新幹線やバスを選ぶことができません。ですから、飛行機にありがちなピンと張りつめた空気をなくすように心がけています。私たちもできるだけアットホームな雰囲気でJACらしさを大事にしています」。
■いつか島の方言で機内アナウンスをやってみたい
入社14年目の林さんが目標とするのは「良い意味で慣れすぎないこと。日々のモチベーションをキープして、お客さまへの感謝の気持ちを忘れないことを大切にしています。フライトが終わってから次の乗務まで25分間。その間に掃除や準備を済ませるので、あまり時間がありません。でも私にとっては毎日の乗務ですが、お客さまにとっては1回のフライト。決して気を抜くことはできません」。
タイトなスケジュールで行われるフライトに、入社したばかりの頃は島の家族も気にかけてくれていたそうだ。「客室乗務員になったばかりの頃は、祖母が病院へ行くときや、父が出張のときに私のフライトに合わせて搭乗していました。最初のフライトで父から写真を撮られたのは、少し恥ずかしかったですね」。
林さんは離島便では機内アナウンスにもオリジナリティを出したいという。「アナウンスには社内規定があるので今は難しいですが、いつかアナウンスに島の方言を取り入れてみたいですね。それぞれの島で異なる方言をマスターできるよう勉強中なんです」。島で生まれ育ち客室乗務員となった林さんの姿は今、島の子どもたちの憧れとして映っているだろう。
林 美穂(はやし・みほ)
日本エアコミューター株式会社 客室部所属の客室乗務員。入社14年目。沖永良部島出身。「いつも笑顔でJACらしいサービス」を心がけ、現在はJACが所有する“DASH8-400型機”と“SAAB 340B型機”の2機種に乗務している。
(客室乗務員のサービス風景:写真は離島便にて提供されている奄美群島パンフレット)
日本エアコミューター株式会社(JAC) http://www.jac.co.jp/
1983年設立。奄美空港を拠点に喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島を結ぶ4路線で運航をスタートし、1988年に鹿児島空港に移転。現在は日本航空(JAL)グループの一員としてQ400、SAABの2機種で28路線を運航。今年で設立30周年を迎え島人の暮らしを支えている。
メイン写真・石神和哉/文・やましたよしみ