つくろう、島の未来

2024年04月27日 土曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、北九州市を拠点に石ケン素地100%の「無添加石けん」にこだわるパイオニア企業「シャボン玉石けん」より、離島地域のプロジェクトを手掛ける取締役営業本部長の松永康志さんです。

※この記事は『季刊ritokei』44号(2023年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・ritokei編集部 写真提供・シャボン玉石けん

松永康志さんは外資系グローバル企業でマーケティングを担当したのち、2009年にシャボン玉石けんに入社。全国を飛びまわりながら、サステナビリティを追求するプロジェクトを推進している(写真・榮留宏太)

健康な体ときれいな水を守る。シャボン玉石けんを島へ

スーパーやドラッグストアに並ぶ商品群の中、にっこり微笑みかけてくる女の子のマークがある。その商品を世に送り出すのは、1910年創業のシャボン玉石けん。同社が無添加石けんの製造・販売を始めた1974年は、合成洗剤が広がり続ける時代だった。もとは同社も合成洗剤を製造していた。

しかしある時、合成洗剤の問題に気づいた2代目社長は時代に逆行。売上が100分の1に下がり、17年間も赤字が続くなか無添加にこだわり、今や環境未来都市を掲げる北九州市を代表する企業に成長。そんな同社で行われている離島関連プロジェクトに注目したい。

担当する松永康志さんは、離島について「縁がつながった」と話す。プライベートでは家族と共に屋久島(やくしま|鹿児島県)や五島列島(ごとうれっとう|長崎県)、壱岐島(いきのしま|長崎県)、対馬島(つしまじま|長崎県)などへ、仕事では同社が協賛する屋久島オープンウォータースイミング大会や、座間味島(ざまみじま|沖縄県)でのSUP大会などにでかけてきた。

「社長も海に潜るのが好きで島や海を愛しているので、社員旅行でも宮古島(みやこじま|沖縄県)に行ったんです」。2021年には、宗像市の離島・地島(じのしま|福岡県)の住民や山口大学などの産官学民と連携し、全島民が3カ月間、石けん製品を使い、環境調査を行うという大規模な実証実験が実現した。

島まるごと石けん生活 3カ月間の結果は?

「宗像市は昔から石けんを積極的に推進しており、環境学習にも力を入れられていました。そこで私が、家庭排水の環境影響の調査をさせていただきたいと宗像市に相談をしていたところ、数年後に『地島ならできるかも』という話をいただいて実現しました」。

地島の人口は約140人で、天皇献上品の天然わかめが採れる島としても知られている。海の恵みを糧に生きる人にとって、海の環境保全は気になる問題だが、果たして石けんがどう作用するのか。

島内の2集落でそれぞれ住民向けの説明会を開き、漁協や学校、各家庭で、台所用洗浄剤や洗濯用洗浄剤、ボディソープやシャンプーなどの一式を石けん製品に切り替えるプロジェクトがスタートした。

3カ月間の結果は“良好”だった。下水処理場内の微生物を解析すると、量・種類ともに増加。水の汚れを処理する能力が高まり、海に流れる処理水がよりきれいな状態に変わるなど、石けんが環境負荷を減らすことがデータにはっきりと現れたのだ。

「島の皆さんにとっては生活を変えることになるので、簡単なことではありませんが、実験前と後での意識調査でも環境意識が高まる結果となりました」。

将来は科学者になりたい 子どもの夢にも関わる仕事

実験には地島小学校も協力し、ハンドソープやハミガキ粉などを使っていた。実験期間中、子どもたちに環境学習を行うと、その後のレポートに「今まで私にはパティシエになりたいという夢がありました。しかし、石けんを学んで科学者になってみたいと思うようになりました」という言葉が。「子どもの夢にまで影響すると知って身が引き締まりました」。

松永さんは子どもの頃、いつも芦屋町の海岸でピンクの貝殻を拾い遊んでいた。しかし今はその海辺にもごみが目立つ。「子どもたちにきれいな環境を残してあげたい」というシンプルな気持ちが、松永さん自身の根っこにもある。

深刻化する海洋ごみ問題に関連して、2022年には小値賀島(おぢかじま|長崎県)で、九州産業大学の伊藤敬生さんやプラスチックメーカーのテクノラボなどが連携し、海洋プラスチックの石けんケース「mu(.ムー)」を開発した。ケース内にはシャボン玉石けん。島を美しくする活動に同社の石けんが選ばれている。

最近は五島市役所が同社のハンドソープを採用。人気商品の売上の一部は屋久島環境文化財団などの団体に寄付され、きれいをつくる輪として循環していく。

松永さんは言う。「今年は小値賀島と与論島(よろんじま|鹿児島県)でもサステナビリティに関する講演をさせていただきました。環境を考えるとは『体験すること』だと思います。海や島に行くだけできっかけになるはずです」。

【関連サイト】
シャボン玉石けん株式会社
https://www.shabon.com/


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