つくろう、島の未来

2024年03月28日 木曜日

つくろう、島の未来

離島に何かを運ぶコストは、本土同士の輸送に比べて高くつく。いわずもがな船か飛行機でしか渡れない離島だから当然のことだと割り切られがちな世界だが、島に暮らす人や島と仕事をする人にとってはやはり頭が痛い。「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は九州山口エリアで離島の引越しを専門に展開する「離島引越レスキュー隊(中村引越しセンター)」代表の中村治久さんと営業の阿比留拓磨さんです。

■離島の引っ越しを専門にしたい!

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福岡市内からほど近い田園風景のなかに突如あらわれる「離島引越し」の文字。その看板を掲げるのが中村引越センターである。

創業は2012年とまだ若い会社が、物流業界の難関である「離島専門」を掲げている理由がとにかく気になる。話を伺うと開口一番に「これがきっかけだったんです」と、代表の中村さんが1枚の写真を差し出した。写真には島の港を離れるフェリーにお別れの紙テープが舞い、たくさんの島人が涙ながらに手をふる姿が写っている。「昨年の春頃、知り合いの紹介で五島列島から九州島内へ引越される方の引越しを担当したんです」。

島に3年間暮らした引越し主と、その家財を積んだトラックとともにフェリーに乗り込み、いざ出発という時に出会った風景に中村さんは感動。たまたま持っていたカメラで写真を撮り、九州に到着後、現像して翌日お客さんの新居に届けたという。

「お客さんがすごく感動してくれて。その時にこんなに喜んでくれる仕事があるなら専門にしたい!島に住まわれている方はほかにもたくさんいるじゃないか!とにかくやりたい!と思い『離島引越』を掲げたんです」(中村さん)。

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■離島の引越しが高いのは手間が2~3倍になるから

社内には壁から天井まで引っ越しを担当した「お客様の声」が貼りめぐらされ、床にはダンベルが置かれている。20代から30代前半の若手で構成されるスタッフ17名のうち、4名は対馬や徳之島などの島出身者という。対馬にルーツのある営業担当の阿比留さんに話を伺う。

「福岡の生まれですが父親が対馬の出身で、夏休み、ゴールデンウィーク、元旦など年3回くらいは島に行っていました。島だと都会のような他人行儀さがなくて、『どこの子ね?』と聞かれて『何軒目の阿比留です』と答えると『あの子ね』という感じで。離島の引っ越しに携われるようになったのははたまたまですが、私自身、対馬に何か携われたら良いなと思っていました。入社して五島列島の経緯も聞いていたので、対馬も行けるかなと思って、島の人に聞いてみるとやはり『島の引っ越しは難しい』という声があったので、じゃあ率先してやるべきじゃないかなと」。

島の引っ越しが難しい理由について「島は手間が2〜3倍になるんです」と阿比留さんが言う。本土内の引越しに比べると、フェリーの予約をとり、とれなかったら2回分抑えて、それでも当日に嵐が来ることもある……と、常に気が抜けない。また、荷物を運ぶ運賃の高さだけでなく、見積もりがとりにくいことにも原因があり「何社か見積もりをとろうとしても門前払いだった」というケースも多いという。

「お問い合わせをいただいて、近くであればすぐにお伺いできるんですが、島の場合はそれをしてあげられないんです。一般的な引越しでは実際に荷物を見ないと見積もりがとれないので、島の場合はなかなか引越しをしてもらえなかったり、できても高かったりするんです」と阿比留さん。引越しシーズンに石垣島から九州島内へ引越す家族の事例では、大手の見積もり金額が80万円と高額だった。それであれば家財を捨てたほうが安くつく場合もある。

リスクはまだある。たとえば、夏期の台風シーズンには引越しを予定しても予定通りにいかないこともある。「6月に種子島から福岡に引越されるお客様の運ぶ予定だったんですが、ちょうど台風が来て。最終的にはトラック1台分の荷物をこちらにあずけてもらって対応し、お客さん自身が動くためのフェリーもこちらで取り直し、喜んでいただけました」。マニュアルに沿ってすすむ大手企業と違い、小さな会社だからこそできるフレキシブルな対応は、柔軟な対応が求められる離島にはぴったりなのかもしれない。

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■お客様に利益が残るよう少しでも安く運びたい

離島専門を掲げてから9ヵ月の間に五島列島、種子島、石垣島、西表島、沖永良部島、上甑島、能古島、姫島などの引越しを担当した。これからが本番の離島引越について「今のところは売上も全然ですが、もっと件数を増やして質を落とさずに安くしたいんです」と2人。

しかしどうやって「安く」することができるのか。「往復と、協力会社との連携です」と中村さん。一般的な離島の引越しでは、1回の引越しで往復分の運賃をとるため高額になるという。行きと帰りの往復で荷物を運ぶことができれば価格を半額にできる。そのために、阿比留さんはお客さんへの提案もしている。

「先日、対馬から大分に引越しをされる方がいて、2日違いで同じ対馬から福岡に引越しをするお客様がいたので、日付けを合わせてもらえれば安くできると提案して、安くすることができました」。毎年春の引越しシーズンなどの繁忙期であれば尚更、複数案件の日付けを合わせて運ぶことができれば、お客様に利益を残せる。まだ若い企業だが、その想いに共感して協力してくれる会社も複数あるという。「以前、物流ウィークリーという新聞にのった記事をみて沖縄の物流会社さんが声をかけてくれて。以来、沖縄は離島も含めて対応ができるようになりました」。

社内にはスタッフの写真とプロフィールが並ぶ。「引越しって過酷なんです。気温が38度あるなかで20〜30キロの荷物をかついで団地の階段を2時間走ることもよくあります。離島の場合はフェリーまで待ち時間があるので、実はスタッフには優しいんです」と阿比留さんが笑う。島で引越しを行うスタッフの携帯から送られてくる写真からは、引越し後にお客様にお風呂を借りたことや、観光案内をしてもらったことなど、スタッフたちの微笑ましい記録はブログにも記されている。

「島のことをもっと知りたいです」「引越しの枠で留めたくない。たとえば、タンスひとつの輸送があるときにも対応したいんです」と語る2人に今後の展望について聞くと「島に支店がほしいくらいです」と中村さん。個人事業主など島で荷物を見に行ってくれる人さえいれば見積もりはずっと容易になる。これから引越しを考えている方に対しては「島からお荷物のご移動がある場合はぜひご連絡をください。引越しで見積もりをとっていただけなかったり、予想以上の高額になったりという経験をお持ちの方にもご満足いただける内容をご提案させていただきます」(阿比留さん)。

さて、気になる離島引越にかかる費用はどのくらいなのだろう。「なかなか難しいなかで作ったんですが、ホームページで参考価格を出せるようにしています」と阿比留さん。「価格を出しているのは本気度です。たかが引越しで満足じゃなくて感動を与えたいんです」と、中村さんが熱を込めた。

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離島引越レスキュー隊(中村引越センター)

福岡県糟屋郡篠栗町篠栗乙犬131 TEL 0120-438-678
詳細は「離島引越レスキュー隊」ホームページからご覧いただけます。
http://www.ritou-hikkoshi.com/

(文・鯨本あつこ/写真・大久保昌宏)

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

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