「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、 日本の有人離島全島を踏破しながら、 島の祭りや営みを記録し続けてきた写真家・黒岩正和さんです。かつてウェブ版リトケイの連載「百島百祭」に掲載していた作品の数々が今年1月、写真集として発売された黒岩さん。20年以上に渡り、 島を見つめ続けてきたその仕事について聞きました。
※この記事は『季刊ritokei』49号(2025年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
取材・石原みどり 写真提供・黒岩正和
国指定重要無形文化財の祭り「へトマト」の取材で訪れた長崎県・福江島にて
海外を放浪したのち、まずは国内の100島へ
2025年1月に初の写真集『百島百祭』を出版、東京と大阪で写真展を開催した、黒岩正和さん。これまでに訪れた島の数は延べ1,600以上。いつしか一般人が渡ることのできる全ての有人離島を歩いたひとりになった。
黒岩さんが旅を始めたきっかけは、中学生の時にテレビ番組で観た旅番組。「芸人がヒッチハイクで海外を放浪する番組に憧れて、僕も18歳で旅に出ました」。関西の大学で写真を学び、カメラ片手に海外へ。東南アジア5カ国を流れる大河・メコン川を目指すも、強制帰国となり中断。1年間海外渡航を禁じられてしまった。
海外に行けないなら日本の海の外を目指そう。そう思い立った黒岩さんは、日本の島々を巡り撮影を始める。伊豆諸島や九州の島々、琵琶湖に浮かぶ沖島など、バイクに乗って野宿をしながら島を旅する若者を、島人たちとの出会いが待っていた。
「小豆島では、落とした財布がそのまま交番に届けられたことに感動しました。田んぼに落ちたバイクを引き上げてもらったり、行く先々で野宿を心配した人々に一夜の宿を提供してもらったり、温かい出会いに助けられました」。
旅を終えた黒岩さんは訪れた100島の写真を卒業制作として発表し、学内でも好評を得た。卒業後は写真家のアシスタントを3年間務めて独立し、島・少数民族・海外をテーマに写真を撮り続けている。
広島県・因島「法楽踊り」
「おじゃまさせてもらう」気持ちで郷に従う
やがて黒岩さんは、カメラのレンズを通して、遠く離れた地域に共通点を見出していく。「日本の島には、中国の山岳少数民とも共通する原初的な人の在り方があり、魅力を感じます」。
大切にしているのは、「郷に入っては郷に従う」精神。山岳少数民族の村では、集落に入る来訪者にお酒を飲ませる風習がある。日本でも海外でも、出されたものはありがたく杯を干し、完食する。撮影地には人口数名の島もある。よそ者である自覚を持ち「誰かの家におじゃまする気持ち」で地域を歩く。
「島に渡ったら最初に氏神様に手を合わせ、玄関口である港の風景を撮る」というのが黒岩さんのスタイル。初めて訪れる島では日常の風景を撮り、島人と交流しながら祭りの日にちを聞いて再訪してきた。
祭りはその島のハレの日。勇壮な海上神事や、仮面をまとった来訪神、島の自然と人々の姿―。季節の変化の中で立ち上がる島の彩りを見つめ、シャッターを切る。祭りの夜は島に泊まって地元の人と酒を酌み交わし、祭りの由来や昔話に花を咲かせる。
島々の祭りに通ううちに準備風景から撮影させてもらえるようになり、佐賀県の小川島では写真と海産物を物々交換するほどになった。祭りの高揚と人の輪の中で切り取られた臨場感と温かみが、一枚一枚に込められている。
貴重な記録写真は未来へのバトンに
「百島百祭」のタイトルには、日本の島々がもつ「多様性」の意味が込められている。その名の通り、撮影された島々の祭りにひとつとして同じものはない。20年以上にわたる活動を通し、黒岩さんは祭りや人々の変化も見つめてきた。
「竹富島の種子取祭では、コロナ禍を経て住民たちが無理のない範囲で祭りを継承していこうと取り組んでいます。紀伊大島の水門祭でも、大漁祈願として場をにぎやかす 『競り』の場面でバーコード決済ができる様子が表現されていたんです」。そんな姿に、祭りが人々の暮らしの中で変化しながら受け継がれてきたことを実感するという。
時代と共に移りゆく生き物のような、島の祭り。黒岩さんは近年、それらを記録に残しておくことの重要性を感じている。コロナ禍で一時休止していた祭りを復活させようと、祭りの記録写真を求める島の人々から相談を受けることが増えた。
これまでに休止してしまった祭りも、担い手がいれば再開できるかもしれない。その日のために、撮り溜めてきた写真のアーカイブを整備したいと考えている。
黒岩正和(くろいわ・まさかず)
和歌山県出身。大学卒業後、写真家・溝縁ひろし氏のアシスタントを経て独立。 硫黄島を除く日本の全有人離島をめぐり400以上の祭りを撮影。 写真集 『百島百祭』(光村推古書院)
東京在住、2014年より『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。鹿児島県酒造組合 奄美支部が認定する「奄美黒糖焼酎語り部」第7号。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。ここ数年、徳之島で出会った巨石の線刻画と沖縄・奄美にかつてあった刺青「ハジチ」の文化が気になっている。