つくろう、島の未来

2024年10月06日 日曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、大阪を拠点に独自の切り口で離島・地方の問題解決を図る「アイランデクス株式会社」を立ち上げ、代表取締役を務める池田和法さんが登場。2018年の創業以来、離島専門の引越し業務を中心に急成長を遂げているビジネスについて聞きました。

文・小野民 写真・編集部

※この記事は『ritokei』29号(2019年8月発行号)掲載記事です。

池田和法(いけだ かずのり) アイランデクス株式会社代表取締役。1987年、愛媛県生まれ。神戸大学大学院在学中に自営業を始め、2018年にアイランデクス株式会社を創業。現在も主に現場となる島々を転々としながら年間100日間はリモートワークで業務を行う。

「離島への引越しは高い」常識を疑ったことで開けた道

池田和法さんは、持ちかけられ
た相談を持ち前のバイタリティで解
決していく。アイランデクスを立ち上
げたきっかけも、まさにそんな理由からだった。

ある時、池田さんは
大阪に暮らす知人夫婦から、故郷・奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)にUターンするための引
越し費用が60~70万円もかかると
聞いて驚いた。

池田さんには学生時代に汽船会社でアルバイトした経験があった。そこで、引越し費用の捻出に困っていた2人に「池田さんならいくらでできる?」と聞かれ、かつての経験をもとに工夫した結果、35万円ほどの原価で運べることが分かり、実際に奄美大島へ家財を運ぶことができた。

常識と思われていた高額な引越し費用を大幅に減額できたのは、船で荷物を運ぶ相場感や、起こりうるリスクなどがある程度想定できたから。神戸大学在外中は神戸商船大学を前身に持つ海事科学部の学生たちと仲が良く、すっかり「船好き」になっていたことも起業を後押しし、アイランデクスを設立。以降、主に離島地域の困りごとを解決する企業として成長していくこととなった。

(提供:アイランデクス株式会社)

困っているのは、引越し業者も同じだった

「運送会社は全国にたくさんありますが、離島の引越しを日常的に取り扱うことはほとんどありません。離島への引越しが敬遠される大きな理由は、遠くて非効率だからですが、そもそもやり方が分からないから引き受けたくないのが本音なのだと思います」(池田さん)。

アイランデクスは離島専門となり、島と本土をつなぐ各航路の情報を集約し、船会社と独自のパイプを持つことで、コストを下げることに成功。設立からわずか1年で、奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)、宮古島(みやこじま|沖縄県)、石垣島(いしがきじま|沖縄県)、屋久島(やくしま|鹿児島県)、佐渡島(さどがしま|新潟県)への引越しがサービス化され、今後も規模を拡大していくという。

(提供:アイランデクス株式会社)

「周りからは『離島の引越しなんて月に1、2件でしょ?』と言われてきましたが、おかげさまで年間5,000件以上のお問い合わせをいただきます。現在は島に車を運ぶサービスの需要も増えています」(池田さん)。口コミで客は途切れず、全国に67拠点、離島に11カ所の協力会社がいる状態だ。

池田さんを含む常勤のスタッフは5人。副業や非常勤でサポートにあたるスタッフを含めると、20人ほどの体制で会社を運営している。

自然には敵わないから人が対応できる最大限を

高価なもの、思い出が詰まったものを運ぶ引越しの責任は重大だ。「安全に荷物を運ぶことが最優先。きちんとできたときには喜んでもらえるし、感謝されるのがやりがいです」と池田さん。ただし離島専門ならではの苦労も大変なものだ。

(提供:アイランデクス株式会社)

「天候はもちろん、島のお祭りや行事も影響しますから、陸続きの引越しでは
想像もできないリスクがあることを、
お客さんにいかに知っていただけるか。いつも試行錯誤しています」(池田さん)。

安心を得るためには、船会社と連携し、航路上にある荷物の状況を把握しておくことも大切。

(提供:アイランデクス株式会社)

「困っている人の役に立ちたい」という実直な想いが、多くの協力会社との連携を実現し、依頼者との信頼関係につながっているようだ。池田さんは新しい島へ行くときには必ず、市役所、観光協会、不動産会社へ顔を出すという。そこで行うのは、「御用聞き」。あいさつはもちろん、島の課題を知ることでビジネスにもつながっていく。

最近力を入れていることのひとつに、宮古島全域で取組んでいるシュノーケリング・サップツアー「浮人」がある。島の観光が盛り上がるなか、海の知識や安全性を担保したマリンガイドが不足していることを知り、事業化したという。

「会社が成長して仲間が増えると解決できることも増えていく。自分が好きな海や島に関わって、これからも課題解決を第一にやっていきたいです。引越しのお客さんはUターンの方が多いのですが、彼らの島への想いを聞いているうちに、僕自身、自分の実家や故郷の愛媛県に興味を持つようになりました。それは離島に関わり始めたときは予想しなかった自分自身の変化ですね」(池田さん)。


【関連サイト】
アイランデクス株式会社

2015年、島の物流を担う会社として産声をあげ、2018年より株式会社に。離島専門の引越しや車両運搬、不動産事業、デザイン事業や地域活性など多岐にわたる事業を展開している。

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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