つくろう、島の未来

2024年06月23日 日曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、離島地域でも見かけることが増えた、海洋プラスチックを素材につくられるプロダクト「buøy(ブイ)」を製造する、横浜市のプラスチックメーカー「テクノラボ」代表取締役の林光邦さんと田所沙弓さんです。

※この記事は『季刊ritokei』45号(2024年4月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・ritokei編集部 写真提供・テクノラボ

代表取締役の林光邦さん(右)とスタッフの田所沙弓さん(左)。世界的にも問題となっている
海洋プラスチックから、付加価値の高い製品をつくりだすことで、地域経済や自然環境に貢献している

代々続くプラスチックとの縁 3代目は海洋プラの道へ

最近、離島地域のお土産におしゃれなものが増えている。なかでも目を惹くのが、カラフルなキーホルダーやコースター。裏を見ると「小値賀島」「保戸島」など、島の名前が書いてある……。これは一体何だ?

その正体はプラスチック。それも海を漂い海岸に漂着した海洋プラスチックが、離島を含む全国各地で採取され、高度な技術で製品化されたものだという。

「buøy(ブイ)」と名付けられたこのシリーズは、横浜のテクノラボが手掛けている。代表の林光邦さんは、祖父の代からプラスチックが身近にあった。

「祖父はプラの研究者でした。戦後、絶縁体をつくるために雲母の研究をしていて、その後、プラが生まれたのです。家の中にはプラの素材や本があって、そんな環境で育ちました」(林さん)。

プラスチックが急速に広まった戦後の日本では、天然素材には叶わない優秀さから、生活のあらゆる場面に浸透していったという。

プラ育ちともいえる林さんは、父が営むプラスチックの成形業を大学時代から手伝っていたが「正直、プラの仕事には関わりたくない」と思っていた。

しかし、大手メーカーの研究所に勤める叔父から、自動車製造に必要な接着剤を製造する事業に誘われ、プラスチックに関わる会社を起業。接着剤は軌道に乗らなかったが、プラスチック業界の隙間を埋める、医療機器や無線機器に使われる小ロットの部品製造が自社の強みとなった。

「うちのごみ使ってください」地域からの声が転機に

転機は美大出身の田所沙弓さんが、大量生産や価格面だけが魅力ではない希少価値の高いプラスチック製品の製造をはじめたことだった。求めたのは、まるで工芸品のように一つひとつ丁寧に、異なる材料を混ぜ合わせながらつくるプラスチック製品。その実験中に海洋ごみの問題に引っかかった。

「海には衝撃的な量のごみがありました。そこで、海洋ごみを使うことで解決策を探れないか……と」。そう話す田所さんは三浦半島へ出かけ、自らごみを拾い始めた。けれど、製品化するには十分な量が集まらない。

「ごみが集まらない!と騒いでいたら、ビーチクリーンをしているボランティア団体の方に『うちのごみ使ってください』と言われたんです」(田所さん)。

そこで、ごみを拾っている人から「買わせてもらう」方法を思いつき、全国の離島や沿岸地域の団体と提携。指定のサイズや色味に分類されたプラスチックを買い取ることで、地域経済にも貢献できる仕組みが整った。

国内外に広がるbuøyをごみ問題や島を知るきっかけに

林さん自身も、素材の採取地を知るべく屋久島石垣島、五島列島の島々に、対馬走島などに足を運んできた。そこで出会うのは、とめどなく押し寄せる海洋ごみと毎日のように戦う人々の姿。

林さんはそうした人との出会いに感銘を受けながら、人や地域の情報を、商品に載せて届けたいとも考えるようになった。

海洋プラスチックがアクセサリーや雑貨として活用される例は増えているが、プラスチックには汚染物質を吸着する特性があるため、そのまま使用するのは不安が伴う。

テクノラボはプロの視点で安全性を熟慮。buøyの表面をフィルムでコーティングし、食品用途ではない雑貨として、世に送り出している。色鮮やかなコースターやキーホルダーは、ふたつとして同じ柄はつくられず、買い手の心をくすぐる。

そんなbuøyシリーズの販路は、国内だけでなく海外にも向けられている。日本列島に流れ着く海洋ごみには海外のごみも多く含まれるため、その事実を世界中の人に知ってもらうきっかけづくりをbuøyが担うのだ。

「buøyの回収地域を紹介するホームページは日英の二カ国語にしています。日本に旅行に行くなら、東京や大阪だけじゃなくて島にも行ってみようとか、そんなきっかけになれたらいいなと思っています」(林さん)。

【関連サイト】

>>海洋ごみから生まれたプロダクトbuøy


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