つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、漁業にまつわる事業を展開する「フィッシャーマン・ジャパン」や海を伝えるメディア「Gyoppy!」を立ち上げ、運営する、ヤフー株式会社の長谷川琢也さんの登場。きっかけとなった東日本大震災から10年の節目に、活動の現在地を聞いた。

※この記事は『季刊ritokei』35号(2021年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

文・小野 民 写真・Funny!平井 慶祐

お話を聞かせてくれたヤフー株式会社 長谷川琢也さん

東日本大震災をきっかけに海辺のまち石巻市との関わり

日本の漁業やそれらを取りまく環境に関わる事業に幅広く関わる事業を行う「フィッシャーマン・ジャパン」や、海や環境の課題を軸に展開するメディア「Gyoppy!」を立ち上げ、並走し続けている長谷川琢也さん。今やすっかり、「海の人」だが、そこに至る道のりの起点は、自らの誕生日に東日本大震災が起こったことだった。

2011年、震災後にボランティアとして東北沿岸部に赴き個人の活動を継続するうちに、社員であるヤフー株式会社の事業としても被災地と関わる道筋をつけた。ECサイト「復興デパートメント」の立ち上げを行い、2012年に開設した復興支援の専門部署「ヤフー石巻復興ベース」の現地担当社員として現地で暮らすようにもなった。

復興ベースのある宮城県石巻市は、水産業のまち。その営みを支えている漁師たちに出会い、彼らの生き方に惹かれていった。

「日本は、海に周囲を囲まれた『島国』だということも強く意識するようになりました。間近に海がある暮らしで海とどう向き合い、生きていくか。その問いにずっと向き合ってきた漁師だから、彼らと共に活動していきたいと思いました」(長谷川さん)

2014年に石巻の漁師たちが中心になりフィッシャーマン・ジャパンを立ち上げる。漁師13人、魚屋3人に事務方の長谷川さんなどが加わったチームは、「群れない」と言われる漁師の世界に新風を吹き込んだ。

ぶれない旗を振り続け全国区へ

「海と人をつなぐ仕事を、持続可能なビジネスとしてやっていく」。目標は大きかったが、その分活動はブレやすかった。結成半年で危機を感じ、喧々諤々の話し合いの末、活動理念をつくったことが功を奏したと長谷川さんは言う。「水産業をカッコよくて、稼げて、革新的な新3K産業に変える」、「フィッシャーマンを1,000人増やす」。フィッシャーマン・ジャパンが手がける事業は、新3Kの2つ以上にあてはまるものと決め、展開。今やその活動は全国区となった。

各地で実績を積んできたフィッシャーマン・ジャパンの引く手は数多だ。特に、漁業の担い手確保や育成を担う「TRITON PROJECT」は、さまざまな地域から熱視線を注がれている。その切実さは離島地域では特に顕著だ。「私たちの『漁業をなんとかしたい』という想いの根幹が、島にはちゃんと伝わっている実感があります。島は資源が限られるからこそ漁業の技術に長けていたり、『これしかない』とマイナスで語られていた海産物の価値を磨くことで観光になったりするんです」(長谷川さん)

北九州市の藍島(あいのしま|福岡県)では「藍の鰆プロジェクト」として、船上放血神経締めの技を持つ漁師らによる、料理人に向けたサワラのブランド化を展開。北海道利尻島(りしりとう)では、地元漁師たちと漁業の課題解決のために立ち上げた「NORTH FLAGGERS」で、担い手定着事業や渚泊の運営をサポートしている。

こつこつ積み上げ大きな波に乗って変えていく

長谷川さんの活動は多岐にわたるが、もうひとつ2018年に海の課題に特化して立ち上げたヤフーのウェブメディア「Gyoppy!」を軸にした、情報発信にも注目したい。フィッシャーマン・ジャパンで培ってきたことに加えて、自分が取材する側になって知り得た海にまつわる好事例を蓄積することで、さらに広く課題に立ち向かえるようになった。

フィッシャーマン・ジャパンのビジネスが拡張していくことは、海や漁業を取り巻く状況が全国的に厳しさを増していることも意味する。漁業法や、トレーサビリティに関する法律が変わるなど、今、水産業は潮目にある。

「私たちの活動は、『いいじゃん!』というノリでやってきたらコレクティブインパクト(※)になっていた。この流れのままで、日本だけでなく世界の海や環境問題にも気負いすぎずに立ち向かっていきたいです」

※個別アプローチでは解決が難しい社会課題に対して、複数のプレイヤーが協働することで解決につながっていくこと


長谷川琢也(はせがわ・たくや)さん
1977年3月11日生まれ。ヤフー株式会社に所属しながら『Gyoppy!』プロデューサー、FISHERMAN JAPAN事務局長等を担当。この春からはヤフーの企業版ふるさと納税関連事業を担当。
https://twitter.com/hasetaku

【関連サイト】
FISHERMAN JAPAN
東北、三陸の漁師を中心に2014年に結成されたチーム。現在は全国に展開し、漁業の課題を解決する様々なブロジェクトを手がけている。

Gyoppy!(ギョッピー)
ヤフー株式会社が運営する、海や環境課題への関心を喚起することに特化したメディア。

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。 日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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