つくろう、島の未来

2021年10月23日 土曜日

つくろう、島の未来

島を愛し、鳥を愛する研究者・千葉県立中央博物館研究員の平田和彦さんによる寄稿連載「しまぐに日本の海鳥」。第2回では、海鳥たちがなぜ島を目指すのか、海鳥の繁殖にとって欠かせない島の居心地を、平田研究員の視点から考察します。

ネコやキツネのいない島で雛を育てるオオセグロカモメ(2014年6月撮影・弁天島)

海鳥たちはなぜ島に?

多くの海鳥が、一生のほとんどの時間を海で過ごします。そんな彼ら・彼女らは、いったいどんな用があって、島にやって来るのでしょう?

まず、海岸で甲殻類や小魚を狙うカモメや、岩礁で翼を広げて乾かすウ(鵜)のように、食事や休息が目当ての鳥がいます。少し大きな島だと、河口や池沼などの淡水で体を洗う海鳥も見かけるかもしれません。

沼の淡水で体を洗うウミネコの群れ(2009年10月撮影・利尻島)

でも、食事や休息なら別に島にこだわる必要はありません。むしろメインの餌場はもちろん、塒(ねぐら)だって海上であることがしょっちゅうです。

竹芝桟橋を出港して伊豆諸島(いずしょとう|東京都)に向かう夜、高まる上陸への思いを潮風に乗せるべく、真冬でも構わずビール片手にデッキに出てしまう読者の皆さん。羽田空港の沖合に差し掛かる頃、海面にプカプカ浮いているカモメ類の群れに遭遇したことはないでしょうか。例えばあれも塒(ねぐら)です。

食事や休息ではなく、どうしても陸地でしかできないことがあります。それは、繁殖です。巣を営んで、卵を産んで、抱いて温めて、雛を孵して、巣立ちを迎えるまで育て上げる。さすがの海鳥も、その間だけは陸地を頼らざるを得ません。

しかし、それだけでは島が選ばれる理由にはなりません。世の中にはもっと広い陸地があるというのに、なぜ海鳥たちは、わざわざ島で繁殖するのでしょうか?

それはズバリ、島の居心地が良いからです!子育ては安心できる環境で──この思いは、すべての生き物の親に共通するのではないでしょうか(人間にとっても、離島留学や移住の決め手となる大切な要素ですよね!)。

島は海鳥に餌場をもたらす

漁師さんの仕事の厳しさを物語るように、広い海のどこにでも魚がいるわけではありません。ましてや、巣から通える範囲でえさを見つけなければならない繁殖期の親鳥は、本当に大変です。我が子の健やかな成長を願い、旺盛な食欲を満たすために奮闘する親の姿は、人間と海鳥の垣根を越えて相通ずるものです。

そんな親鳥にとって助かる条件を備えた繁殖地があります。人間に例えると、家と職場が近い離島の暮らしのような環境です。

沖縄本島の北西部の羽地内海(はねじないかい)は、本部(もとぶ)半島と屋我地島(やがじしま|沖縄県)に囲まれた海域です。島と半島によって外海から隔てられ、浅く穏やかな環境は、アイゴなどの成育に適しています。アイゴの稚魚は、沖縄県の郷土料理で有名な「スクガラス」の原料としても親しまれている魚です。

これらの稚魚は小型の海鳥であるアジサシ類の大好物で、羽地内海では海面に飛び込んでえさを捕るアジサシ類の群れがよく見られます。屋我地島の周辺にはエリグロアジサシとベニアジサシの集団繁殖地が点在し、国の鳥獣保護区に指定されています。アジサシ類のように繁殖地の近くでえさを探す海鳥にとって、すぐそばにこのような環境を備えた島は、非常に好都合です。

繁殖地の一つに、「トゥイヌシ」と呼ばれる小島があります。地元の言葉で「鳥の巣」という意味だそうです。古くから、屋我地島の人々にとって海鳥が身近な存在であったことを伺わせます。

トゥイヌシで繁殖するエリグロアジサシ(2020年6月撮影・屋我地島)

島はお城のようなもの

繁殖期の海鳥が心配なのは、天敵の存在です。海鳥たちにとって壊滅的な脅威となるのは、親鳥や雛を襲うネコやキツネ、雛や卵を狙うネズミなどの哺乳類です。大きな陸地には海鳥の捕食者となるこれらの動物がゴロゴロ棲んでいるのに対し、島にはもともとほとんどおらず、安心して子育てできる環境なのです。

先月の連載「しまぐに日本の海鳥(1)」では、「島」という漢字で「山」の上に載っているのがどうして「鳥」なのかを考察しました。その中で、哺乳類が少ないことも、理由の一つとして挙げました。哺乳類は泳いで海を渡らないと島に到達できないうえに、運よく上陸できても、繁殖相手や環境がそろっていないと定着することはできないからです。

最近では2018年、利尻島(りしりとう|北海道)で106年ぶりにヒグマの上陸が確認されましたが、結局2カ月足らずで島を去ったと考えられています。哺乳類が自力で島に分布を拡げることが、いかに難しく奇跡的なのかを感じさせるニュースでした。海に隔てられた陸地である島は、世界最強のお堀に囲まれた城郭のようです。

さらに、島のまわりは波による侵食を受けて、切り立った崖のようになっていることがあります。こうなると、もし天敵が泳いで島まで到達できても、上陸することはできません。あたかも、城郭の周囲を守る城壁のようです。

このお堀と城壁の防御力を、海鳥たちがいかに頼りにしているのか、よく示している場所があります。例えば、浦戸諸島の野々島(ののしま|宮城県)と桂島(かつらじま|宮城県)の間にある無人島、柏木島です。人やネコの暮らす野々島からは、ほんの数十メートルしか離れていませんが、ウミネコの集団繁殖地になっています。少しでも海に囲まれていること、そして険しい地形であることは、大きな安心のようです。

野々島の目と鼻の先にあるウミネコ繁殖地の無人島(2018年8月撮影・柏木島)

貴重な陸地をめぐる、人と海鳥の住み分け

海鳥が繁殖する島は、無人島ばかりではありません。果たして海鳥たちは、人が住んでいる島でも居心地が悪くはないのでしょうか?海鳥の繁殖地が国の天然記念物に指定されている天売島(てうりとう|北海道)(天売島海鳥繁殖地)と粟島(あわしま|新潟県)(粟島のオオミズナギドリおよびウミウ繁殖地)を例に考えてみましょう。

天売島では緩やかな斜面から平地が続く島の東側の海岸に沿って、北から南まで集落が連続的に分布しており、その中に畑も点在しています。同じく粟島でもやはり、平坦な島の東部に内浦、南西部に釜谷の集落があり、北側の海成段丘面(かつての海底が隆起してできた平地)が広がる牧平と呼ばれるエリアが畑として利用されています。

これに対し、海鳥は両島ともに、日本海の荒波による侵食を受けてできた険しい斜面が続く西側で繁殖しています。天敵を寄せ付けない断崖は、まるで巨大な城壁のようです。風光明媚な海岸線には外周道路や展望台こそ設けられていますが、そこから離れたエリアには(許可を得た海鳥研究者などを除いては)基本的に人が立ち入りません。つまり、同じ島の中でも、人と海鳥は異なるエリアに住み分けていると言えます。

険しい島の西部は海鳥たちの楽園(2008年5月撮影・天売島)
人工物がほとんど見当たらない島の西海岸(2011年6月撮影・粟島)

私がこれまでに訪ねた他の多くの有人離島でも、貴重な平地はまず学校のグラウンドやヘリポートに優先的に割かれ、集落は港の周辺や比較的なだらかな斜面など島の一部にかたまっていて、そのまわりに畑などの農地、そのさらに奥にあまり人が立ち入らず利用されていない山林や崖地が広がっている印象を受けました。

すべての島に当てはまるわけではありませんが、火山活動や波浪による侵食で生まれた地形が人による開発を阻み、有人島における海鳥の繁殖を可能にしていると言えます。そうして守られてきた海鳥繁殖地が、島を特徴づける観光や教育の資源として活かされ、島の魅力を高めています。

人間が住み着くより遥か昔から続く島の歴史を物語る地層(2009年5月撮影・天売島)

【ご案内】うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―

千葉県立中央博物館では、令和3年7月3日(土)~9月12日(日)、夏の展示「うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―」を開催します。

さまざまな海の環境をうまく利用して暮らす海鳥。そんな鳥たち目線で、島や半島の魅力を見つける旅に出かけてみませんか?

展示には、北から南まで、日本各地の島が登場します。離島ファンのあなたのご来館を、心よりお待ちしています!

※休館日や開館情報は、公式ホームページでご確認ください。

離島経済新聞 目次

寄稿|平田和彦・千葉県立中央博物館研究員

平田和彦(ひらた・かずひこ)
1986年京都市生まれ。専門は鳥類学・海洋生態学。これまでに、北海道天売島・青森県大間弁天島(無人島)・新潟県粟島・東京都利島などで海鳥の生態を研究。漁業をはじめとする沿岸域の人間活動が生態系に及ぼす影響や、地域の自然を活用した教育・産業・観光の振興に興味を持つ。好物は、島(日本の有人離島は120ほど探訪・2008-2010年に天売島に住民票を置く)・地産地消・源泉かけ流し・低温殺菌牛乳・簡単に登れて景色の良い山など。下北ジオパーク推進員を経て、2017年より現職。青森県・風間浦村ふるさと大使。

関連する記事

ritokei特集