つくろう、島の未来

2021年12月07日 火曜日

つくろう、島の未来

島を愛し、鳥を愛する研究者・千葉県立中央博物館研究員の平田和彦さんによる寄稿連載「しまぐに日本の海鳥」。今回は、もともと島好きだったという平田さんが伊豆諸島(いずしょとう|東京都)で海鳥を研究するきっかけとなった、利島(としま|東京都)のオオミズナギドリとの出会い、調査や企画展示など島での活動についてお伝えします。

※この記事は『季刊ritokei』36号(2021年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

九十九里浜の沿岸で餌を食べるオオミズナギドリの群れ(2019年8月撮影・千葉県長生郡一宮町)

国境のない海鳥

島国の日本は、多くの海鳥にとって重要な生息地です。海流や海底地形が生み出す餌場や、繁殖地となる島に恵まれているからです。私はその一つ、利島で繁殖するオオミズナギドリについて、2018年から研究しています。親鳥にGPSで位置情報を記録できる小型の機器を装着し、行動圏などを調べて保全に役立てるのが目的です。

千葉県の博物館に勤める私が、どうして伊豆諸島で研究を?と疑問に思われるかもしれません。実は、伊豆諸島のオオミズナギドリは、房総半島周辺の海域も餌場として利用します。親鳥は繁殖地から日帰りできる近海だけでなく、何日もかけて、より魚が豊富な遠くの海域にも出かけるのです。

地球の多様な環境を利用して暮らす海鳥に、県境も国境もありません。各地のそれぞれに得意分野を持つ各地の研究者が協力し、蓄積した情報をつなぎ合わせた先に、生態の解明や保全の道が拓けてきます。

利島との出会い

私が初めて利島を訪ねたのは、2016年秋のこと。その頃、伊豆諸島のオオミズナギドリの研究と言えば専ら御蔵島(みくらじま|東京都)が盛んで、海鳥研究者の間でも利島を意識する人は私の知る限りいませんでした。

往年は島の南側の急斜面に数十万羽が繁殖したことを示唆する文献があるにもかかわらず、現状については全くと言っていいほど情報のなかった利島。当時、私は青森県に住んでおり、無論研究の計画などなかったのですが、純粋な興味に離島好きという性癖も手伝って、この繁殖地としては無名な島を視察しに行くことにしたのです。

収穫は期待以上でした。過去に調査地として実績のある粟島(あわしま|新潟県)や御蔵島にも引けを取らない規模の繁殖地であること、繁殖期を通じて研究者が滞在でき、レンタカーも借りられる宿があること、繁殖地の近くまで車道が通っておりアクセスも容易なこと、文献にあった急斜面だけでなく安全な平坦地や緩斜面にも営巣していることなど、調査地に適した条件をいくつも備えていることを確認できました。

オオミズナギドリの巣穴(中央)を確認し興奮する筆者(2016年10月撮影・利島)

共同研究の幕開け

直後の2017年、私は千葉県に転職しました。するとタイミング良く、翌年から伊豆諸島でオオミズナギドリの研究を計画していた新潟大学を中心とするチームに声をかけていただき、共同研究(※)に参加することとなりました。

※(独)環境再生保全機構 平成30年度 環境研究総合推進費 課題番号4-1803「洋上風力発電所の建設から主要な海鳥繁殖地を守るセンシティビティマップの開発」

チームは調査地の選定に苦労していました。というのも、当初期待していた御蔵島はノネコによる被害が深刻で、オオミズナギドリが激減してしまっていたのです。

繁殖地への立ち入りや捕獲を伴う調査は、動物に少なからず負担を与えます。そのため、調査によって壊滅しかねない脆弱な繁殖地は避けたうえで、負担を最小限に抑える努力を尽くす義務があります。加えて、近年の御蔵島はツーリズムの活発化が目覚ましく宿泊施設は繁忙、キャンプも禁止のため、海鳥の研究者が長期滞在できる環境の確保が以前より難しくなっていました。そこで、私は満を持して、共同研究の調査地として利島を提案しました。

間もなく、チームの数人で利島を訪ねました。よそ者が島で研究を始める際に最も欠かせない、住民の理解と協力を求めるためです。困った時に頼れる住民の存在は本当に心強く、有難いものです。住民に教えていただいた情報から、新しい研究の着想を得ることもあります。利島では、めでたく村と教育委員会から研究を応援いただけることになり、共同研究をスタートさせることができました。

繁殖地の親鳥(2020年9月撮影・利島)

巡回展示で伝えたい、島と海鳥の未来

オオミズナギドリが簡単に減少し、絶滅の危機に瀕してしまうことは、御蔵島のカツオドリ(御蔵島でのオオミズナギドリの呼び名)が教えてくれた通りです。今はたくさん繁殖している利島のマトリ(利島での呼び名)にも同じ轍を踏ませないためには、マトリの価値や尊さを多くの人々が共有し、その存在にみんなで関心を寄せることが大切です。

数ある研究機関の中で、市民に身近な教育機関でもある博物館。私がその学芸員を志したのは、自然や文化といった地域の魅力を多くの人に伝え、地域を好きになってもらいたかったからです。私は学芸員として、マトリと共に歩む島づくりを応援できないか、模索していました。

2021年、そのチャンスがやってきました。私が企画を担当し、千葉県立中央博物館で企画した夏の展示『うみ鳥っぷ [umi-Trip] —海鳥とめぐる島の旅・半島の旅—』の内容から、利島と関わりの深いストーリーを抜粋・編集した巡回展示を、9/27~12/3に利島村郷土資料館で開催できることになったのです。

『うみ鳥っぷ』の開催を知らせる利島村郷土資料館の外壁(2021年10月撮影・利島)

展示では、大地の誕生から今の産業や文化が成り立つまでの島の歴史に海鳥の存在が大きく関わっていることや、島で繁殖する海鳥に関する最新の研究成果、島で海鳥が直面する危機やそれに対する先進地の保全活動などを紹介しています。

この展示が多くの住民にとって、どこにでもいるわけではないマトリという隣人に目を向け、利島の魅力を高める教材や観光資源としての可能性について考えるきっかけになれば幸いです。ひいてはマトリの保全と利島の発展を両輪とする好循環が生まれることを期待しています。

早速、反響が出始めています。伊豆諸島を中心とした他の島々から、各島向けにアレンジした巡回展示のオファーをいただいたのです。定期船の待合所で開催するアイデアもいただき、資料館などの展示施設がない島への展開や、観光客に向けた発信にも光が差しています。

国境のない海鳥を架け橋として、各地の離島が世界とつながるネットワークづくりを実現したいと願っています。


【ご案内】うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―

利島村郷土資料館で、令和3年9月27日(月)~12月3日(金)に展示『うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―』 が開催されます。
この夏、千葉県立中央博物館で開催された夏の展示『うみ鳥っぷ』の内容から、利島村で繁殖するオオミズナギドリなど、利島村と関わりの深いストーリーを抜粋・編集した巡回展示です。中央博物館での展示風景、実際に展示した標本や資料の写真も織り交ぜてお届けします。

※利島村の新型コロナウイルス感染症対策に従って、ご来館ください。

離島経済新聞 目次

寄稿|平田和彦・千葉県立中央博物館研究員

平田和彦(ひらた・かずひこ)
1986年京都市生まれ。専門は海洋生態学・鳥類学。これまでに、北海道天売島・青森県大間弁天島(無人島)・新潟県粟島・東京都利島などで海鳥の生態を研究。漁業をはじめとする沿岸域の人間活動が生態系に及ぼす影響や、地域の自然を活用した教育・産業・観光の振興に興味を持つ。好物は、島(日本の有人離島は120ほど探訪・2008-2010年に天売島に住民票を置く)・地産地消・源泉かけ流し・低温殺菌牛乳・簡単に登れて景色の良い山など。下北ジオパーク推進員を経て、2017年より現職。青森県・風間浦村ふるさと大使。

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