つくろう、島の未来

2021年12月03日 金曜日

つくろう、島の未来

島を愛し、鳥を愛する研究者・千葉県立中央博物館研究員の平田和彦さんによる寄稿連載「しまぐに日本の海鳥」。第1回は、リトケイ読者にはおなじみの「島」という漢字の成り立ちについて。平田研究員の視点から「島」と「鳥」との切っても切れない関係を紐解きます。

本州最北端・大間崎の目と鼻の先に位置する津軽海峡の無人島で繁殖するウミネコ(2011年5月撮影・弁天島)

「島」の部首は「山」

「島」という漢字。「鳥」と似ているよなぁ? 誰もが一度は、そう思ったことがあるのではないでしょうか。

漢字の成り立ちを探るうえで、注目すべき手掛かりとなるのが部首です。『日本国語大辞典』(小学館)によれば、部首とは「字源主義で分類された漢字の各部で、その部の目印になる、共通要素そのものだけから成る字」とあります。部首には、漢字に込められた意味や特徴がよく表れると言えそうです。

「島」の部首は「山」(やま)です。「山」(やま・やまへん・やまかんむり)を部首に持つ漢字は沢山ありますが、岳・崎・岬・峰・峡・峠・岸・崖など、地形や大地に関連したものが多い印象を受けます。

陸上に暮らす私たちは海の中の様子を直接見ることができませんが、平野や山地のような陸上で見られる起伏は海底にも続いていて、浅い所もあれば、うんと深い所もあります。まわりの海底にくらべて山のように高く(=水深が浅く)なっている所のうち、海面よりも上に出ている部分が、島として私たちに見えています。そう考えると、島は海の山の頂上部と捉えることができ、「島」の部首が「山」であることも、なるほど納得がいくものです。

海からつき出た山のように見える島の断崖(2008年7月撮影・天売島)
絶海の孤島。その正体は、深海からそびえ立つ山の頂上部(2021年4月撮影・鳥島)

「山」の上に載っているもの

では、部首である「山」の上に載っているものは、何なのでしょう。「島」と「鳥」が似ていると感じさせる肝心な部分です。ずばり、答えは鳥です。「鳥」という漢字は、鳥の姿を表した象形文字です。「鳥」の部首は「鳥」(文字全体が部首!)で、それ以上に込められた意味はありません。

『漢字語源辞典』(学燈社)には、「島」という漢字について、「これは鳥の止まる海中の山という意味をこめた派生語であろう」と書かれています。「島」という漢字は、島(=海の山)の上に鳥が載っている様子を表していたのです。

「島」の親・兄弟

「島」は鳥が島に止まっている様子を表しているはずなのに、「鳥」の足(点々の部分)がなくなっているじゃないか! そう思う方に、ぜひ見ていただきたい漢字があります。

それは……「㠀」!

「島」の旧字体、つまり原型と言える漢字です。単純に、「山」の上に「鳥」を載せただけの漢字ですから、ちゃんと、足も付いていますね。

今日ではすっかり見かけなくなってしまった「㠀」ですが、その面影を残す漢字があります。「島」の異字体である「嶋」や「嶌」です。いずれも、苗字などで使われる機会の多い漢字です。例えば島田さんや大島さんのように、「島」がつく苗字の一族で、本家と分家を区別するために、このような異字体が使われるようになっていきました。

「島」には「鳥」がいないのに、どうして「嶋」や「嶌」には「鳥」が入っているんだろう? これもまた、島という漢字の意味を気にしたことのある人の多くが抱く疑問だと思います。実のところは、「嶋」や「嶌」になって「鳥」が入ってきたのではなく、「島」に「鳥」が隠れていたわけです。

なぜ、鳥だったのか

それにしても、「㠀」という漢字をつくった人は、どうして「山」の上に「鳥」を載せたのでしょうか。他の動物では駄目だったのでしょうか。

ひょっとすると、鳥の生態や大きさ、個体数といった特徴がちょうど良かったのかもしれません。広く一般に使われる文字にするくらいですから、だいたいどの島にでもいて、多くの人間がその存在を認識できた動物が選ばれたはずです。

昆虫や哺乳類も、空を飛んだり海を泳いだりして、陸続きでない島に自力で到達できる可能性はありますが、パッとは目に見えないくらいに小さかったり、個体数がそれほど多くなかったりして、あまり気づかれそうに思えません。

その点、鳥の移動能力は言うまでもなくバツグンで、どんな島でも見ることができそうです。さらに、大きさも肉眼で確認できるうえ、群れでいることも多く、遠目にもよく目立ちます。

「島」のモチーフになったのは、一体どんな鳥だったのでしょうか。これについては想像の域を出ませんが、私なら、ウ(鵜)やカツオドリ、アホウドリ、カモメ、ウミスズメといった海鳥の仲間を、思わず「山」の上に載せたくなります。比較的大型で、崖や岩場で集団繁殖したり、夕方に大群で帰巣したりする種が多く、島では特に目立つ存在に思えるからです。

あなたが住む島、訪ねる島には、どんな鳥を「山」に載せたくなりますか?

断崖の細い尾根上に列をなして集団繁殖するウミウ(2008年7月撮影・天売島)
白くて大きなアホウドリの親鳥は遠くからでもよく目立つ(2021年4月撮影・鳥島)

島があるから鳥がいる、「鳥」がいないと「島」じゃない

色々と想像も交えながら、「島」という漢字の成り立ちを考えてきましたが、2つだけ、確かなことがあります。

それは、陸地である島が存在するからこそ、鳥たちがそこで羽を休めたり、餌を食べたり、ときに繁殖したりできること。そして、もし鳥が存在しなかったら、島を表す漢字が「島」にはなり得なかったこと。

切っても切れない、島と鳥とのかかわりです。


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千葉県立中央博物館では、令和3年7月3日(土)~9月12日(日)、夏の展示「うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―」を開催します。

さまざまな海の環境をうまく利用して暮らす海鳥。そんな鳥たち目線で、島や半島の魅力を見つける旅に出かけてみませんか?

展示には、北から南まで、日本各地の島が登場します。離島ファンのあなたのご来館を、心よりお待ちしています!

※休館日や開館情報は、公式ホームページでご確認ください。

離島経済新聞 目次

寄稿|平田和彦・千葉県立中央博物館研究員

平田和彦(ひらた・かずひこ)
1986年京都市生まれ。専門は海洋生態学・鳥類学。これまでに、北海道天売島・青森県大間弁天島(無人島)・新潟県粟島・東京都利島などで海鳥の生態を研究。漁業をはじめとする沿岸域の人間活動が生態系に及ぼす影響や、地域の自然を活用した教育・産業・観光の振興に興味を持つ。好物は、島(日本の有人離島は120ほど探訪・2008-2010年に天売島に住民票を置く)・地産地消・源泉かけ流し・低温殺菌牛乳・簡単に登れて景色の良い山など。下北ジオパーク推進員を経て、2017年より現職。青森県・風間浦村ふるさと大使。

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