つくろう、島の未来

2022年10月01日 土曜日

つくろう、島の未来

島を愛し、鳥を愛する研究者・千葉県立中央博物館研究員の平田和彦さんによる寄稿連載「しまぐに日本の海鳥」。多くの海鳥が絶滅危惧種となっている背景には、海鳥特有の繁殖生態があるといいます。今回は、島に生きる海鳥たちの子育てについて、平田さんが身近な小鳥と比較しながら解説します。

多くの親鳥でにぎわうウトウ繁殖地(2013年4月撮影・天売島)

本連載の第3回〜第5回で紹介したように、島に生きる海鳥たちはさまざまな危機に脅かされています。多くの海鳥が絶滅危惧種となっている背景には、海鳥に特徴的な繁殖生態ゆえに、ひとたび個体数を減らすと回復しにくいという事情があります。海鳥の繁殖がどのように特徴的なのか、身近な小鳥と対比させながら紹介します。

卵はたくさん産まない

海鳥の集団繁殖地。そこは、上空を乱舞する群れが目に映り、威嚇や求愛などの鳴き声が耳に響きわたり、そして海鳥の体や糞、食べ残したエサなどから放たれる独特な香りがぷ~んと鼻をつく、とっても刺激的な空間です。所狭しと多くの個体でにぎわう繁殖地ですが、一つひとつの巣に注目してみると、1組のつがいが育てている雛の数はそんなに多くありません。

1回の繁殖で1羽の雌親が産む卵の数を「一腹卵数(ひとはららんすう)」といいます。一腹卵数は種ごとに異なりますが、海鳥は総じて少ないのが特徴です。中でもミズナギドリ科やウミスズメ科は特に少なく、オオミズナギドリやウトウは1卵しか産みません。比較的多くの卵を産むカモメ科でも、せいぜいウミネコで1〜4卵(2〜3卵が多い)を産む程度です。ただし、ウ科は海鳥の中では例外的に多く、ウミウは4〜5卵、ヒメウは2~6卵を産みます。

海鳥の一腹卵数が少ないことは、他の身近な野鳥と比べるとよく分かります。例えばハシボソガラスは3~6卵、ツバメは3~7卵、スズメは4~8卵、シジュウカラは8~10卵、カルガモは10~12卵といった具合です(以上の一腹卵数は『原色日本野鳥生態図鑑』(保育社)による)。

多くの野鳥にとって、親鳥が雛に餌を与えたり保護したりして「家族」と呼べるような関係でいるのは、卵が産まれてから雛が巣立ってしばらく経つまでの限られた期間です。もちろん、生まれた年が違っても親が同じなら血のつながった兄弟姉妹ではありますが、同じ巣で寝食を共にした親子に限って「家族」と捉えるなら、シジュウカラやカルガモのような大家族を形成する海鳥はいません。一腹卵数が1卵のオオミズナギドリやウトウは、すべての個体が「ひとりっ子」ということになります。

研究用の巣箱の中にいる「ひとりっ子」のウトウの雛(2008年5月撮影・天売島)

子育ては1年に1回限り

近所の軒先で、ツバメが1年に2回繁殖し、雛を巣立たせるのを見たことはありませんか? このように、1回目の繁殖を順調に終えた親鳥が、2回目や3回目の繁殖を試みることが、小型の陸鳥を中心に多くの種で知られています。スズメは1年に3回繁殖することがありますが、仮に1回あたり6羽の雛を巣立たせるとすると、ひと夏で18羽も子孫を残せることになります。

一方、海鳥の繁殖は1年に1回限りです。オオミズナギドリやウトウは、どんなにうまくいっても、1年に1羽ずつしか子孫を残せません。海鳥は、親鳥が卵を産んでから雛が巣立つまでに長い時間を要するのです。

例えばウミネコは卵の期間が24〜25日+孵化した雛が巣立つまでに46日、計2ヶ月以上かかります。ウトウは卵で39〜52日+雛で35〜50日、計3カ月ほどかかります。オオミズナギドリは卵で53〜55日+雛で70〜90日、計4カ月以上に及びます。

巣立ったばかりのウトウの雛(2008年7月撮影・天売島)

そしてアホウドリに至っては卵が孵るまでに64〜65日もかかり、雛はそこからさらに約5カ月間親鳥から給餌を受け、実に計8カ月近い時間をかけてようやく巣立ちを迎えます。多くのアホウドリは毎年繁殖しますが、ここまでの長丁場の子育てはさすがにエネルギーを使うようで、2年に1回しか繁殖しないつがいもいます。

ちなみに、スズメは卵で11〜14日+雛で13〜14日、ツバメは卵で13〜14日+雛で17〜22日で1カ月ほどしかかかりません。なるほど、1年に何回も繁殖できるわけです。

初めての繁殖が遅い

多くの小鳥は生まれた翌年から繁殖できるのに対し、海鳥は繁殖を始めるまでに何年もかかります。カモメ科では3~5歳、ミズナギドリ科やアホウドリ科では7歳以上、個体によっては10歳を超えてから初めて繁殖する種も知られています。

繁殖するには、自分自身だけでなく、雛の分まで餌を捕らなくてはいけません。しかし、広大な海から餌場を探し出し、そこで餌を捕るのは容易いことではありません。海鳥の繁殖開始年齢が高いのは、十分な量の餌を捕るには経験に基づく技術や判断が必要で、それらをたくさん積んでからでないと繁殖を成功させられないからかもしれません。

雛のために、立派なカタクチイワシを2尾持ち帰ってきたウトウの親鳥(2008年6月撮影・天売島)

長生きこそが、子孫繁栄への道

次の世代に自分の遺伝子をできるだけたくさん残すことは、生物にとって最も重要な目標です。一腹卵数が少なく、年に1回しか繁殖せず、しかも初めての繁殖が遅い海鳥たちは、いったいどのようにして子孫繁栄を狙うのでしょうか。

その答えはズバリ、長生きです。短期間にたくさん子孫を残せない代わりに、じわじわと長い時間をかけて、生涯で残す子孫の数を増やそうという作戦です。スズメやツバメなどの小鳥が数年から10年ほどで寿命を迎える頃、海鳥はようやく繁殖を始められる年齢です。では、海鳥は何歳まで生きるのでしょうか。足環による個体識別で明らかにされた記録では、ウ科は20年ほど、カモメ科やウミスズメ科は20~30年以上、ミズナギドリ科は40年以上も生きることが分かっています。

生ける伝説の海鳥「ウィズダム」

極めつけはアホウドリ科です。ウィズダムと名付けられ親しまれている、伝説的な個体について紹介しましょう。ウィズダムは、ハワイ諸島の北西に位置するミッドウェー環礁で繁殖する雌のコアホウドリです。昨年2月、ウィズダムが雛を孵したというニュースが世界中を驚かせました。雛を孵しただけでニュースになるなんて、ウィズダムはいったい何者なのでしょう?

実は、ウィズダムは現在知られている野鳥の中で、最高齢記録を更新し続けている個体なのです。ウィズダムが標識されたのは、1956年のことです。その時点で5歳と推定されていたので、2021年には少なくとも70歳ということになります。野鳥が70年生きるだけでもすごいことなのに、しかも現役バリバリで繁殖しているなんて、かっこよすぎやしないでしょうか!

体の大きさは近いが、寿命や1回の繁殖で産む子の数には大きな差があるタヌキ(約10年・3~5頭)とコアホウドリ(約70年・1卵)を対比させた展示(2021年9月撮影・千葉県立中央博物館令和3年度夏の展示『うみ鳥っぷ』での展示風景)

2012年に、ウィズダムが推定60歳を迎えたのを記念して出版された絵本があります。『Wisdom, The Midway Albatross』(Darcy Pattison著・Kitty Harvillイラスト)です。前年にミッドウェー環礁を襲った東日本大震災の津波やその他の困難を乗り越え、ウィズダムが60年以上にわたって生き延びてきたことを示す副題『Surviving the Japanese Tsunami and other Disasters for over 60 years』も付いています。私は、同年にハワイで開催された国際学会「太平洋海鳥会議」に参加した際に販売しているのを見かけ、購入しました。

あれから約10年、今もウィズダムは元気に生きています。これまでに巣立たせた雛は、30羽以上を数えます。この先、どこまで記録を伸ばしてくれるのか、目が離せません。

ひとたび減ったら回復は困難

連載の第3回~第5回で紹介したように、海鳥を取り巻く島や海の環境は、近年急激に悪化しています。そんな中を、全ての海鳥がウィズダムのように、たくましく生き抜けるわけではありません。

想像してみてください。ようやく繁殖できる年齢に達した海鳥が、いざ繁殖を始めた矢先、島でノネコに襲われたら……。親鳥がやっとの思いで育て上げた、その年たった1羽だけの雛が、巣立ったその晩に外灯に誘引されて墜落したら……。

まだまだ生きられるはずだった多くの親鳥が命を落としたり、多くの雛が無事に巣立てないような状況が続くと、海鳥はみるみる個体数を減らし、急速に絶滅に向かいます。海鳥のゆっくりなペースの繁殖戦略を考えると、ひとたび減ってしまった個体数を回復させるのはきわめて難しく、並みならぬ努力と非常に長い時間がかかります。このことは、鳥島のアホウドリの歴史がよく物語っています。

島や海を取り巻く私たちの日々の暮らしが、彼らに絶滅への道を急がせています。私たちは特徴的な海鳥の繁殖生態をよく理解し、手遅れになる前に、末永く海鳥と歩める島の未来を考える必要があります。


【ご案内】うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―

銚子市地域交流センターで、令和3年12月4日(土)~令和4年2月27日(日)に展示『うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―』 が開催されます。
この夏、千葉県立中央博物館で開催された夏の展示『うみ鳥っぷ』の内容から、銚子半島で越冬するカモメ類など、銚子半島と関わりの深いストーリーを抜粋・編集した巡回展示です。中央博物館での展示風景、実際に展示した標本や資料の写真も織り交ぜてお届けします。

※銚子市の新型コロナウイルス感染症対策に従って、ご来館ください。

離島経済新聞 目次

寄稿|平田和彦・千葉県立中央博物館研究員

平田和彦(ひらた・かずひこ)
1986年京都市生まれ。専門は海洋生態学・鳥類学。これまでに、北海道天売島・青森県大間弁天島(無人島)・新潟県粟島・東京都利島などで海鳥の生態を研究。漁業をはじめとする沿岸域の人間活動が生態系に及ぼす影響や、地域の自然を活用した教育・産業・観光の振興に興味を持つ。好物は、島(日本の有人離島は120ほど探訪・2008-2010年に天売島に住民票を置く)・地産地消・源泉かけ流し・低温殺菌牛乳・簡単に登れて景色の良い山など。下北ジオパーク推進員を経て、2017年より現職。青森県・風間浦村ふるさと大使。

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