つくろう、島の未来

2021年09月19日 日曜日

つくろう、島の未来

島を愛し、鳥を愛する研究者・千葉県立中央博物館研究員の平田和彦さんによる寄稿連載「しまぐに日本の海鳥」。第3回では、島で暮らし繁殖する海鳥たちをおびやかす危機について、平田研究員の視点から考察します。

長い時間をかけて地球に生み出された島の環境(2021年4月撮影・鳥島)

長い時間をかけて育まれた島の環境

前回は、海鳥が島で暮らす理由として、(1)海に囲まれた島には天敵が少ないこと、(2)たとえ有人離島でも多様な地形が存在することで人とのすみ分けができること、(3)餌場となる環境を近くに備えた島もあること、を紹介しました。

海鳥たちが安心して暮らせる島の環境は、火山の噴火や隆起、波浪による侵食といった地球の活動によって、何万年、何百万年という本当に長い長い時間をかけて育まれてきました。ところが、近代以降の100年、200年というわずかな期間に、島は人間の影響を受け、海鳥にとって必ずしも安住の地ではなくなってきています。

問題が深刻化する背景には、離島ならではの理由もあります。今回と次回の2回にわたり紹介します。

温暖化に沈む離島

温暖化が進むと、南極や北極の氷がとけて海面が上昇し、サンゴ礁でできた多くの島のように海抜の低い陸地は、沈んでしまいます。あるいは、波浪による侵食が加速します。

島国では、島の存在が領海や排他的経済水域の範囲にかかわるため、その陸地を守るために尽くせる限りの努力が払われます。日本最南端の沖ノ鳥島が、消波ブロックやコンクリート護岸によって厳重に囲われ、波浪から守られていることは有名です。

海鳥繁殖地の中にも、海抜が低い島があります。例えば、「チービシ」の名で知られる沖縄県渡嘉敷村の慶伊瀬島(けいせしま)は、陸地の大部分が海抜数メートル以下です。この島ではベニアジサシなどが繁殖しますが、海面が上昇すればこれらの海鳥たちは繁殖地を失うこととなります。温暖化で苦しむ海鳥は、南極のペンギンだけではないのです。

大海原にあって、島は貴重な陸地(2013年7月撮影・硫黄島)

重なる漁場と海鳥の餌場

海鳥と人間は、ともに海の食物連鎖の頂点に立つものどうしです。海鳥にとっての餌は、人間にとっての水産物であることも多く、おのずと利用する海域が重なります。すると、望まぬ事故が発生してしまうことがあります。目標ではない動物を漁獲してしまう「混獲」です。

主にマグロなどを狙う延縄漁では、餌のついた針を海に投げ入れる際、針が海中に沈みきる前にアホウドリやミズナギドリ類がその餌に飛びついてしまい、針ごと餌を飲み込んだ鳥が溺死してしまうのです。

主にカレイやサケなどを狙う刺網漁は、ウミスズメ科や一部のミズナギドリ科、カモ科など潜水性の海鳥にとって大きな脅威です。潜って餌を探している途中の海鳥が、網に絡まって溺死してしまうのです。

1970年代から80年代の、北太平洋エリアにおけるサケ・マスを対象とした流し網の被害は特にひどく、年間に何万羽、何十万羽という目も当てられない数の海鳥の命を奪いました。

島のまわりには好漁場が多く、例えば日本の離島でも、北海道東部の無人島・ユルリ島やモユルリ島などで繁殖するエトピリカや、北海道北西部の天売島(てうりとう)で繁殖するウミガラスの多くが、混獲の犠牲になりました。

天売島のウミガラスは、その鳴き声から「オロロン鳥」と呼ばれ、観光資源として島を賑わせました。かつて約4万羽が繁殖し、1960年代には約8,000羽と推定されましたが、2000年代以降は飛来数が20羽に満たない年や、1羽も雛が巣立たない年があるほど危機的な状況に追い込まれました。

その後、ここ数年は飛来数が数十羽、雛の巣立ちも20羽前後の水準で推移しており、環境省や地元関係者の熱心な保護が実りだしています。一方、エトピリカは相変わらず減少傾向に歯止めがかからず、絶滅寸前の状況が続いています。

繁殖地にデコイ(模型)を設置し、鳴き声を流してウミガラスを誘引し、繁殖個体数の回復を図る(2009年5月撮影・天売島)
保護事業の現場で実用されたウミガラスのデコイ(2021年7月撮影・千葉県立中央博物館夏の展示『うみ鳥っぷ』で展示中)

産業と海鳥保全の両立

混獲のように、漁業などの人間活動の裏側で危機に直面している海鳥がいます。これに対し、産業振興と海鳥保全の両立を目指す地域があります。

例えば、天売島のある北海道羽幌町を中心として取り組まれている「羽幌シーバードフレンドリー認証制度」(SBF認証)は、混獲を防ぐよう配慮して漁獲された水産物などを差別化し、付加価値をつける仕組みです。対象は水産物だけにとどまらず、農産物なども認証されています。

地元の「上築有機米生産組合」では、いずれ海に流れる農薬や化学肥料を減らして米づくりが行われ、同じく「オロロン農業協同組合」では、売り上げの一部を地域の環境保全のために寄附しています。

これらの一部は通信販売が行われているほか、ふるさと納税の返礼品にも選ばれており、どこからでも購入することができます。私たち消費者が、このような商品を選ぶことが、取り組みを持続可能にし、活発化させます。今日から、都市部から応援できる、海鳥の保全活動です。

SBF認証を受けた「オロロン米」(2021年7月撮影・千葉県立中央博物館夏の展示『うみ鳥っぷ』で展示中)

【ご案内】うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―

千葉県立中央博物館では、令和3年7月3日(土)~9月12日(日)、夏の展示「うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―」を開催します。

さまざまな海の環境をうまく利用して暮らす海鳥。そんな鳥たち目線で、島や半島の魅力を見つける旅に出かけてみませんか?

展示には、北から南まで、日本各地の島が登場します。離島ファンのあなたのご来館を、心よりお待ちしています!

※休館日や開館情報は、公式ホームページでご確認ください。

離島経済新聞 目次

寄稿|平田和彦・千葉県立中央博物館研究員

平田和彦(ひらた・かずひこ)
1986年京都市生まれ。専門は鳥類学・海洋生態学。これまでに、北海道天売島・青森県大間弁天島(無人島)・新潟県粟島・東京都利島などで海鳥の生態を研究。漁業をはじめとする沿岸域の人間活動が生態系に及ぼす影響や、地域の自然を活用した教育・産業・観光の振興に興味を持つ。好物は、島(日本の有人離島は120ほど探訪・2008-2010年に天売島に住民票を置く)・地産地消・源泉かけ流し・低温殺菌牛乳・簡単に登れて景色の良い山など。下北ジオパーク推進員を経て、2017年より現職。青森県・風間浦村ふるさと大使。

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