つくろう、島の未来

2021年10月24日 日曜日

つくろう、島の未来

島を愛し、鳥を愛する研究者・千葉県立中央博物館研究員の平田和彦さんによる寄稿連載「しまぐに日本の海鳥」。第3回に続き、島で暮らし繁殖する海鳥たちをおびやかす危機について、平田研究員が考察します。

真っ暗な大海原に照らされる御蔵島港と、遠くに輝く三宅島坪田地区の町明り(2020年10月撮影・御蔵島)

何万年、何百万年という地球の活動によって育まれてきた、海鳥たちが安心して暮らせる島の環境。ところが、近代以降の100年、200年というわずかな期間に、島は人間の影響を受け、海鳥にとって必ずしも安住の地ではなくなってきています。
変化する島の環境と、そこに暮らす海鳥が抱える危機について、前回に引き続き紹介します。

海鳥を引きつける島の町明り

大都会のネオンに比べれば、島の町明りは確かにささやかなものです。しかし、海に囲まれた島のまわりには他に光がなく、光を遮る構造物もありません。そのため、離島の町明りは存在感が際立ち、生物や生態系にも思いのほか幅広い影響を及ぼします。

夜に巣立つミズナギドリ類の雛の中には、巣立って間もなく町明りなどの人工光に誘引されてしまうものが少なくありません。そうした雛は、光のまわりで方向感覚を失ったまま飛び続けて体力を消耗したり、建造物にぶつかったりして地面に墜落します。ミズナギドリ類は地面から飛び立つのが苦手で、一度墜落してしまうとなかなか再び飛び立つことができません。

伊豆諸島の利島(としま|東京都)や御蔵島(みくらじま|東京都)、京都府の冠島(かんむりじま)などでは、オオミズナギドリの飛び立ちの下手さを象徴する生態が観察されます。繁殖地から直接飛び立てない鳥が、わざわざ高い木に登ってから、樹上から落下するように大空に羽ばたいていくのです。

繁殖地から飛び立つのに適した木は限られており、
そこではオオミズナギドリが行列をなして上を目指す(2020年9月撮影・利島)

墜落した海鳥の末路

墜落した雛たちは、なかなか飛び立てず地上を徘徊するうちに、そのほとんどがノネコなどの天敵に襲われるか、交通事故に遭って命を落とします。

新潟県粟島(あわしま)は、日本海側を代表するオオミズナギドリの繁殖地として、国の天然記念物に指定されています。この島でも、オオミズナギドリの巣立ちの時期になると、町明りへの誘引が発生していました。

2011年と2012年の秋、当時大学院生だった私は粟島に1ヶ月ほど住み込んで、この問題について研究に取り組みました。墜落する雛の数は、年や日によって大きな変動がありますが、多い時には一晩で500羽以上もの雛が落ちてきた夜もありました。

保護した墜落個体を港の岸壁から放鳥する(2012年11月撮影・粟島)

調査では、個体数のカウントと同時に墜落した雛の保護も並行して行いました。墜落した雛を見つけては一目散に駆け寄って、とにかく保護します。そうしないと、間もなくノネコに見つかって、噛まれたり引っ掻かれたりして、殺されてしまうからです。

それぞれの研究テーマを抱えて島で共同生活していた他大学の学生や、島の中学生たちにも協力してもらい、手分けして、港から細い路地までくまなく巡回してまわります。

集落の至る所に転がる、ノネコに捕殺されたオオミズナギドリの死体(2012年11月撮影・粟島)

一度通った道も、しばらく時間をおいて通ると、さっきまでいなかったオオミズナギドリがうずくまっていたり、すでにノネコに殺されていたりしました。

500羽以上が落ちた晩は、まだ生きている鳥を探して夜通し走り続け、空が白ばむまで休む暇は全くありませんでした。

漁船の漁火も海鳥を誘引する

粟島では漁業も盛んです。大謀網漁が行われ、古くから鯛などが特産でしたが、ブリもよく揚がります。ブリは大謀網漁のほか、漁灯を焚いても漁獲されます。漁灯を焚くブリの漁期は、10月下旬~11月中旬にピークを迎えるオオミズナギドリの雛の巣立ちの時期とちょうど重なり、この漁灯にも巣立った雛が誘引されて漁船に墜落することがあります。

漁船への墜落は、3つの問題を引き起こします。まず、船の油が羽毛に付着することです。オオミズナギドリは地面に掘った巣穴で育つからでしょうか、床下などの船内の狭い隙間にすぐに入り込んでしまいます。こういった場所には機械油がたまっており、体にこびりついてしまうことがあります。

すると、羽毛の撥水能力が失われ、ぷかぷかと浮かぶことができず体が海に沈んでしまったり、海水が体温を奪い、最悪死に至ったりします。また、羽毛についた油をくちばしで取り除こうとする際に、誤飲して中毒してしまう可能性もあります。

油によって羽毛を汚染された個体は、うまく泳げず体力を消耗する(2011年11月撮影・粟島)

次に、船に乗ったまま帰港してしまうことです。ようやく巣立って洋上に飛び出せたのに、漁を終えて漁灯が消されたあとも船内にずっと留まることで、再び岸に帰されてしまいます。漁師さんも、可能な限り捕まえては相当な数の鳥を海に放しているそうですが、それでも狭い隙間に入り込んだ個体にまで対応することは難しいようです。

最後に、岸に運ばれてしまった個体は、やはりノネコに殺されてしまうことです。昼間は巣穴の中にいた時のように船内の隙間に隠れていた個体が、日が暮れて夜になると、巣立ちの時と同じように外に出てきます。そこを、ノネコにやられてしまうのです。

ノネコに捕殺され、漁船の上に散乱した
オオミズナギドリの羽毛と死骸(2011年11月撮影・粟島)

有効なライトダウン

島の町明りが引き起こすこの現象は、粟島のオオミズナギドリだけでなく、ミズナギドリ類の大規模な繁殖地がある太平洋のハワイ諸島や大西洋のカナリヤ諸島など、世界中の各地で問題となっています。ミズナギドリ類には希少種も多く、その被害はきわめて深刻です。光に誘引される個体をどうにか減らすことはできないのでしょうか。最も直接的な方法は、海鳥を誘引する光源を消すことです。

日本でも対策に取り組んでいる地域があります。粟島では、私たちの研究がきっかけとなり、たくさんのオオミズナギドリを誘引していた内浦地区の公園の外灯が、巣立ちの時期には消灯(ライトダウン)されるようになりました。

オナガミズナギドリやシロハラミズナギドリが被害に遭っている小笠原諸島(おがさわらしょとう|東京都)では、光を拡散しにくい光源への付け替えが進められているほか、ミズナギドリ類の巣立ちがクリスマスのイルミネーションが始まる時期と重なるので、ミズナギドリ類の巣立ち完了を見届けてからイルミネーションを点灯しようとする考えが住民に浸透してきています。

人々の暮らしに身近な外灯やイルミネーションを通じての海鳥保護は、島の住民が海鳥の墜落個体数や巣立ち時期の年変化などを実感する機会につながります。このような活動により、墜落する雛の数を大幅に抑えられるだけでなく、海鳥の生態やその保護に対する住民の関心を高めるといった副次的な効果も期待されます。(後編に続く)

千葉県立中央博物館の企画展『うみ鳥っぷ』の、人工光の問題を扱った展示(2021年9月撮影)

【ご案内】うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―

利島村郷土資料館で、令和3年9月27日(月)~12月3日(金)に展示『うみ鳥っぷ[umi-Trip]―海鳥とめぐる島の旅・半島の旅―』 が開催されます。

この夏、千葉県立中央博物館で開催された夏の展示『うみ鳥っぷ』の内容から、利島村で繁殖するオオミズナギドリなど、利島村と関わりの深いストーリーを抜粋・編集した巡回展示です。中央博物館での展示風景、実際に展示した標本や資料の写真も織り交ぜてお届けします。

※利島村の新型コロナウイルス感染症対策に従って、ご来館ください。

離島経済新聞 目次

寄稿|平田和彦・千葉県立中央博物館研究員

平田和彦(ひらた・かずひこ)
1986年京都市生まれ。専門は鳥類学・海洋生態学。これまでに、北海道天売島・青森県大間弁天島(無人島)・新潟県粟島・東京都利島などで海鳥の生態を研究。漁業をはじめとする沿岸域の人間活動が生態系に及ぼす影響や、地域の自然を活用した教育・産業・観光の振興に興味を持つ。好物は、島(日本の有人離島は120ほど探訪・2008-2010年に天売島に住民票を置く)・地産地消・源泉かけ流し・低温殺菌牛乳・簡単に登れて景色の良い山など。下北ジオパーク推進員を経て、2017年より現職。青森県・風間浦村ふるさと大使。

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