島とは何か? この問いに向き合う人へお届けする日本島嶼学会参与・長嶋俊介先生(佐渡島在住)による寄稿コラム。第7回目のテーマは、世界中で達成が呼びかけられているSDGsと、島ライフ(島の暮らし)について。
国内外の島々にみるSDGs
SDGs(※)は聞きなれた言葉になっている。これを自分ごと・島ごととして取り組む姿勢も大切である。
※「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2000年に採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)の達成期限を迎えた2015年に、国連(加盟193ヵ国/196ヵ国中)によって採択された、2030年までの15年間で新たに達成すべき国際目標(「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」)。17の目標と169種のターゲットで構成されている
新潟県佐渡島(さどがしま)の教育関係者の間では「佐渡ヶ島Sa/Do/Ga/shima大好き」とか「素敵」と呼び掛けてもいる。Global+Local=Glocal(※)として取り組むとき、島社会の歩みがどう変わるのか、今回は考えてみたい。
※グローカル。地球規模の視野で考え、地域視点で行動する(Think globally, act locally)」という考え方
地球全体の持続性課題は、人間(生理/生存)・経済(暮らし/日常)・環境(生涯/共生)のライフ活動全体に及ぶ。
SDGsでは、①貧困、②飢餓、③健康・福祉、④教育、⑤ジェンダー、⑥水・衛生[以上①~⑥人間存在の保障]、⑦エネルギー享受、⑧経済成長・雇用・働きがい、⑨産業・技術革新の基盤、⑩国内・国家間不平等是正、⑪住み続けられるまちづくり、⑫つくる責任つかう責任[⑦~⑫経済持続の保障]、⑬気候変動、⑭海のゆたかさ、⑮陸の豊かさ、⑯平和・公正(紛争地)、⑰グローバル・パートナーシップ[⑬~⑰広義環境の質的保障]。の17分野で課題が整理される。
もともと「持続可能性」とは、持続性に疑問符が付いた言葉「sustainable?」である。このままでは未来が不安。次世代に確約できないという意味であり、持続可能性を追求する行動には、「実践」「連携」「教育」の有効性が問われる。
島での「実践」では、当事者性のある課題が発信力を高める。
大海の一滴でも、響く。島嶼国での地球温暖化・ビーチクリーン・脱炭素・脱プラスチック・植林・廃棄物3R(削減・再利用・再資源)管理は、全球的な呼びかけにふさわしい。
沖縄県の八重山諸島(やえやましょとう)では発泡スチロールの海岸漂着ごみを油化し、同じく沖縄の伊江島(いえじま)では多繊維サトウキビ(糖質の収量が一定で繊維が多い)で液体燃料を生産する実証実験が行われた。海外の熱帯・亜熱帯島嶼での太陽光発電生活(100%自給)や、マングローブ植林での津波・高潮防災力強化などはその典型例である。食糧自給的豊かさ(Subsistence-affluence)は伝統的ライフスタイルだが、未来志向的な地産地消の先鞭でもある。
島と島の「連携」も持続力を強める。
被災や困難に直面する島々の相互かつ直接的な支援では、互いのニーズに敏感になることができる。阪神淡路大震災では、兵庫県旧家島町(現・姫路市)の家島群島(いえしまぐんとう)への水船が活躍した(その11年前まで男鹿島(たんがしま)には海底送水は届いていなかった)。東京都の三宅島(みやけじま)の雄山噴火による火砕サージでは、御蔵島(みくらじま)が救助に向かう動きがあった。青ヶ島(あおがしま)の噴火では還住(※)に至るまでの半世紀あまりを八丈島(はちじょうじま)が責任的に寄与した。
※青ヶ島では天明5(1785)年の大噴火により全島民が避難し無人島となったが、八丈島での避難生活を経て全ての島民が青ヶ島に戻り、1835年の検地竿入れをもって正式に復興を果たした。この歴史を民俗学者の柳田國男が1933年に『青ヶ島還住記』として記し、「還住」の言葉が定着した
マーシャル諸島の缶類リサイクルには台湾の業者が協力した。パラオの海洋保護域政策はミクロネシア全域に影響を及ぼしている。
日本海では島根県の隠岐諸島(おきしょとう)、新潟県の佐渡島・粟島(あわしま)、山形県の飛島(とびしま)の海ごみ連携が、親睦を深めている。
瀬戸内海・豊後水道の島々を巡回する診療船済生丸(さいせいまる)は1962年に運航を開始し、阪神淡路大震災時には救援医療船としても活躍した。岡山12島15地区、広島13島19地区、香川20島36地区、愛媛20島23地区を担当する。
内科一般や一般検診(小児科・予防接種等)に加え、結核検査・ガン検査(肺/喀痰/胃/前立腺/子宮/大腸/乳)・泌尿器科検査、基本健康診査、特定診療科(眼科・耳鼻咽喉科・整形外科・皮膚科の健康・医療相談等)が定期的に地区を訪れる。
1970年代、済生丸を島で見かけた時には光明が射し、80年代には船内に浴槽があるだけでも話題を集めたが、現在では高齢者対応のエレベーターもあり、バリアフリー設計である。
島での「教育」はどうか。
学校教育では環境・消費・保健・社会・理科・家庭科など、いろいろな切り口から可能だが、防災のような「くりかえし」「見える化」「テーマ学習」が有効となる。
家庭・学校・社会・社内・生涯の学習・教育充実での取り組みも欠かせない。地域が小さい程、課題は具体的に見えやすい。学習成果を活かすと、地域が動く。実践が見えると子どもも動く。
大分県の姫島(ひめしま)では空き缶を有料で買い取るデポジット運動が、島民・商工会連携で1980年頃から続けられているが、子どもの島内美化行動にもつながり、地域アイデンティティにすらなっている。
冒頭のグローカルに関連して、”Think Globally, Act Locally(地球規模で考え、足元から行動せよ)”という標語があるが、ほぼ球体である地球は、どの地点も「地球のど真ん中」だともいえる。島の沿岸には海が円く見えるポイントがある。そこに立つと、足元の行動価値がわかる。
「島の命の豊かさ」⇔「水球(地球の2/3は海)の命の豊かさ」⇔「人類史の足元の痕跡と未来への責任」…….。そこに思いめぐらすホモサピエンスの島人(大陸も水に囲まれた島大陸)は、脱人新世Anthropocene(人間中心主義の物質文明的罪ぬぐい)の、リーダーとなりうる存在だ。
もし力が足りなければ、「Ⅰ国際・国内・地域連携」「Ⅱ産官学・公共民連携」「Ⅲ政府内連携(公助力・政治力発揚)」「Ⅳ全地球市民への呼びかけ(メディア力発揮)」に問いかければよい。「隗より始めよ」Practice what you speech. First come, first served. Start from small things. 「水球(地球)の大事は、島のだいじ」⇔「島のだいじ」は「地球のだいじ」。 「島よりはじめ」よう(※)。
※筆者は佐渡市環境審議会・社会教育審議会責任者でもあり、自身に対する激!実践・教育・連携の問いかけでもある。
後者は八王子市が車を供与し、派遣市職員が自ら回収業務に当たり、現場で課題の一つひとつを解決していった(右は当時の普通の光景で、問題は深刻であった。物・装置を供与するだけではだめで、人が人とかかわり現場で一緒に考え実践していかないとなかなか前進しない)。
成功例は一日にしてならず。