つくろう、島の未来

2022年05月22日 日曜日

つくろう、島の未来

島とは何か? この問いに向き合う人へお届けする日本島嶼学会参与・長嶋俊介先生(佐渡島在住)による寄稿コラム。今回のテーマは、社会の潮流によって変化する島の経営環境について。

与那国島で行われている在来馬・ヨナグニウマの乗馬体験風景

「島らしさ」の追求で高みを目指す経営へ

島を巡る経営環境は、島側から攻めを可能にする環境に変り始めた。
「ヒト・モノ・カネ・情報の流動性変化」「小規模・多方向・最終消費者への直送」「無在庫でもcatch of the day(本日のおすすめ)の現物に客が付く」「島ならではの大物釣りや富裕層をターゲットにした特別船レジャーの誘客」「グランピングや遊び・手料理助援が売れる」「山麓雪下ニンジン作り・厳冬釣・冬ダイブ等の逆境愛好家」など、実に様変わりしている。無論、決め手は発信力。もはや卸売り・仲介・他者依存ではない。

離島「経済」の個性とは何か。離島企業の「相対・総体・絶対優位」とは何か。相手側に魅力的と見られるかに迎合が「寄り添う」ことではない。

需要を掴みきれずに悩みを抱くのは古典的発想。「顧客満足」に合わせようとして、掴みきれず、悩める生産者像には古典的姿がある。

救いになる発想は、P.ドラッカーの「顧客の創造」 “create a customer”である。“create customers” や“create market”ではなく、一人ひとりの人間(a customer)の集まりを見つめれば良い。

島で生産するものはロットも大きくはない。ゆえに、見つめるべきは生産者・供給側の提案やまごころが届く相手で良い。その点、自分自身の得心がいっているか、共に働いている仲間が活き活き、励めているかを気にする必要がある。

奄美群島・喜界島では稀少な在来そら豆をつかった加工品も生産。グルテンフリー志向の顧客ニーズも狙う

本物志向・島ロマン・手作り・季節感・物語性等を「伝える手立」は、ITの普及で一気に変わった。手順の容易化・低廉化・スピード化で、条件緩和(facilitate)が進み、己の不振を地域不利性のせいに出来なくなってきた。大手の新商品提案型(ユニクロ会長柳井正氏は「顧客の創造」に拘ってきた)でなくてよい。

島らしさとその「良さ」、島側の作り手・提供者の「届けたい動機」に付き合ってくれる相手と向き合える関係性や表現力が、緩和者(facilitator)の手を借りてでも、上手く構築できれば、次なる飛躍に結びつく。わかりやすい事例を示せば隠岐海士町の「島じゃ常識さざえカレー」等の届け方である。

らしさは、自分(送り手)向けにも、相手(受け手)側にも、大切なポイント。らしくない「紛い物」は見抜かれる。逆に正々堂々と王道を歩むほど固定客が着く。そこでもう一度、原点を確認するための構図(らしさマネジメントの位階性)を記してみた。

図1らしさマネジメントの位階制

図は「人間」発達の多段階説(ここではA.マズローの欲求階層説※)を示している。下位充足で上位に進める。価値(自己実現)経営は、組織員の共有で力になる。それを実現する前提に「らしさ(-hood)経営」がある。

※アブラハム・マズロー。アメリカ合衆国の心理学者。人間の欲求は5つの段階に分類されるという考え方。

島人・田舎・隣人・暮らし・父母・子ども……。これらの自認・自尊・アイデンテイティが満たされるプライド活動には、上に向かうベクトルが作用する。反対に、これらのないものには疑心暗鬼が内向けにも外向けにも作用しかねない。

Our Islander- hood(Liveli-, Country-side-, Parent-, Family-, Neighbor-,Prosumer-……)の想起力でもある。「島らしさ」は、地域個性や、自分らしさにも通底するが、島が島であるベースにも本物志向に気づき直すヒントがある。

海の中に存在するジオの恵み(環海)の上に、隔絶性の社会史(特別性)や狭小性(small is beautiful)の現状がある。それは差別化や相対的優位を見つめ直すヒントでもあるが、総和的に「らしさ」を醸し出す途筋でもある。

島人・島心が島もの・島サービスに具現化されていれば、それも「らしさ」である。プライドに適う「らしさ」は地位資源にもなる。

隠岐ユネスコ世界ジオパークに登録される島根県・海士町(中ノ島)のホテルでは島食材をふんだんにつかった食事が提供される

役割(-ship)が果たせてこそ、地位もセットで構築される。Our Islander-ship(Friend-, Citizen-, Relation-, Partner-, Glocal-, Fisherman-, Entrepreneur-……. )地位役割の前に、安全安心があり、基本的な人間需要がある。そこに真摯に応える大前提は揺るぎない底上げになる。

それらを実現する資源が対人的資源になる。対人的資源(U.G.Foa)は、愛・地位・情報で、個別性から普遍性に認識が高まり使える資源として発達段階で増えていく。使っても費消しない資源。同経済的資源(財・サービス・カネ)とやり取りされるが、完全代替はされない。

前者はおもてなし資源でもある。価値次元まで役割・地位がセットで底上げされる手順にも関わる。従業員やステークホールダー、消費者との意思疎通は、役割関係をより強固にしていく。地位・信用は作り上げるものである。一夜にして崩れる信用では、地位は堅固ではない。

企業や産地の信用・地位は、島価値をも高める。それを高めるパートナー・シップや、その助援力・受援力もまたその総合的自立の条件である。

1980年代に地域主義学者の玉野井芳郎がしまおこし運動のコアは、モノ作りそのものではない。そのプロセスで構築される、「地域アイデンテイティ(ここで言う”らしさ”)形成」こそ真の目的であると、叫び続けた本意もここにある。その上に自己実現=価値の高みが待ち受けている。島価値を多様に高めたい。

島内向けの事業展開でも「島らしさ」が重要

島内むけ企業も別の「らしさ作り」が使命としてある。仮に昔の賑わいに戻れなくても、島らしい優しさや、ショップや便利屋、優しさに包まれたシステムがあれば、暮らしの質は復活・復興に向かう力を得る。

ものづくりの始動や、地域おこし協力隊による活気でも良い。限界集落(好きではない定義と用語だが)に地域と関わるI・Uターンの若者が加わる時に、活力・希望も加わってくる(それは適疎と言うべきであろう)。それらが関係性を持ち、得心の輪で地位資源をなし、地域全体のQOLを押し上げ始める時、地域らしさの蘇生・再生・新生のスパイラルが確かなものになってくる。

小さな島ほど、「らしさ」経営展開への希求度は高い。目に見える変化の基底の部分にこそ、重みと意義と深みのある展開になる。

世界は今すべての主体に、SDGsとそのActionsを求めている。生産者も環境・社会への責任的貢献力が問われている。

究極の消費者・地球(公)益に適う、当事者「らしさ」を、身に着ける。そのハードルは、いきなり異次元や高尚である必要は無い。隗より始めよ!!で良い。

図2 つくる責任・つかう責任に応える島らしさの力と責任

企業も顧客も誇るべき地域(島)も自然も生きものであり、基本はヒトーヒト関係でもある。

その前に「らしさ(個性+得心+役割+比較優位+相応しい自己表現)」の分かる・自信の持てる・究められる自分自身(売り手責任者)であることこそが王道でもある。海・山・川・里・文化・芸能・プロセス・真心・手作り・五感・エコ・自社の誇り……それを「物・サービスに体化」して売る。

その誠意ある手順の「見える化」は、つくる責任・つかう責任に応える島らしさの自己表現+共創の場の提供になる。

離島経済新聞 目次

寄稿|長嶋俊介・日本島嶼学会参与

長嶋俊介(ながしま・しゅんすけ) 鹿児島大学名誉教授。佐渡生まれ育ち。島をライフワークに公務員・大学人(生活環境学⇒島の研究センター)・NPO支援(前瀬戸内オリーブ基金理事長)。カリブ海調査中の事故(覆面強盗で銃創)で腰痛となり、リハビリでトライアスリートに。5感を大切に国内全離島・全島嶼国を歩き、南極や北極点でも海に潜った。日本島嶼学会を立ち上げ、退職後は島ライフ再開。島学52年。佐渡市環境審議会会長・日本島嶼学会参与(元会長)。著書に『日本ネシア論』『世界の島大研究』『日本一長い村トカラ』『九州広域列島論』『水半球の小さな大地』『島-日本編』など

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