島とは何か? この問いに向き合う人へお届けする日本島嶼学会参与・長嶋俊介先生(佐渡島在住)による寄稿コラム。第3回目のテーマは、島の実情を知る上で重要な「統計」について。
第3回 島統計の読み方と成り立ち
正しい統計数値を基に島の理解を深めることは、全ての基本である。事実を確認した上で発言をし、事実という共通の土俵に立つことで、初めて、議論を深めることができる。
でも、統計にも癖がある。統計を読み解くにはある程度の読解力が前提となるため、統計の成り立ちや理解も含めて、島に住む身として、知って欲しいこと、一緒に考えて欲しいことが多々ある。
ちなみに、文部科学省も高校普通科を再編して、地域探求学科などを設ける案を検討している。島の高校生が地域を考える素材としても、統計データが身近にあることは一層重要になるだろう。
[表1]は一見どこにでもあるデータにみえるだろう。『離島統計年報』(日本離島センター)に収録される法指定離島の統計データから拾い、「離島計」として、見やすく計算したものである。全国の小規模離島を含む統計と、その集計値が読める公表データは便利でありがたい。
重宝しているが、一般には余り知られていないこともある。この統計に収録される島はいわゆる法指定離島のみ。本土と橋でつながる架橋島は離島ではないため、架橋島を含めた諸数値を入手することは困難である。国勢調査の結果ですら市役所ホームページで直接探しても、なかなかたどり着けない。
地区細分の中に隠れていたり、分かれていたり、担当者が集計し直してようやく分かることもある。例えば粭島(周南市)は約1,750島を収録する『シマダス』(日本離島センター)にも数値は出てこない。
データを基に世界を正しく見る本『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(写真2)が2019年に出版され、ミリオンセラーとなっている。
例えば「世界の平均寿命は?」という質問。思い込みや偏見があると、事実が曲げられ、間違いを見過ごす原因となる。こうした質問を各国で行い、それぞれの調査で正解率が低くなる事情を分析した同著は、どうすれば人が視点を改善できるかを、示している。これが、データリテラシーである。
島にまつわるデータは多様にある。例えば、「過疎と老人」、「医療や福祉」、「観光」…….それらの実態が気になったら、個別の島だけでなく、離島全体や全国値も比較して欲しい。『離島統計年報』には時系列の表も一部あり、必要があれば過去のデータにアクセスすればいい。
離島振興法が施行された1953年以降は、島別に集計されたデータがあり、ある程度の項目は確実にある。こうしたデータを読めば、たとえ高校生でも、いろいろな「事実」に気づくことができるだろう。
事実は小説よりも奇なり。幾つか例示しよう。
【面積(A)】離島の陸域面積に比べて、自然公園は58%。海域公園(※)もある。小笠原では自然公園が陸域面積を超える島もある。
(※)海中・海上を含む海域の景観や生物多様性を保全するため国立・国定公園内に指定される保護区
【海岸線(B)】B÷Aの値が大きい程、海との関係が深い。災害リスクもあるが、海との関係性は島らしさの魅力の一つ。海岸線延長が長い島は断トツに対馬で、その分、漁業就業者比率も高い。
【最高標高】1,000mを越える島は限られるが、屋久島の宮之浦岳は九州本島の最高峰をも越える。次が国後、利尻、そして択捉と続く。
【人口(国調2015年)】住民基本台帳に登録の無い島にも、人が住んでいる。東京の南鳥島や硫黄島は典型例で、『離島統計年報』からも外れる。山口県の彦島、次いで淡路島なども人口は多いが架橋島のため外れる。東京湾岸にある人工島も桁違いに人口が多い。このように島の統計データから抜け漏れる島のデータは、国土地理院の地図情報が頼りになる。一方、国調では住民「ゼロ」でも『離島統計年報』に掲載される島もある。口永良部島は2015年10月1日に火山噴火で、一時的に全員が島外避難となった。この時、口永良部島の人口がゼロとされていたらどうなるか。暮らしのデータが無くなると、島の明日に響く。
【30年間の人口変化±(国調1985年対比)】全国+5.0%に対比して離島振興法指定地域は-38.1%。その他離島(沖縄・奄美・小笠原)は-16.8%。相対的に指定離島人口比は7割から6割減少している。
【人/世帯】世帯数÷人口が2.0を割る島には超若者島と超高齢島がある。医療福祉と就労構造の事情等が背景にある。割ることで見えやすくなる。
【年少比率】島から学校が消える? 島の未来に不安? こうした数値も目に見えるが、なかでも最も離島らしい人口事情は20-24歳比率といえる。法指定離島の20-24歳比率で女性はわずか1.7%。全国の女性4.5%。人口ピラミッドのくびれ率でいえば2.6倍になる。
学校でいえば、法指定離島のうち高校の無い島は88%。中学校が同49%、小学校が同40%。その一方、保育園対比幼稚園率はけっこう高い。未来世代を大切にする暮らしぶりが諸データに現れる。
【老年比率】が低い島は、福祉医療の事情にもよる。老年比率が高い島は必ずしも「限界集落」状態とは言えない。福祉医療が整っていることから、都市部で暮らしていた出身者が帰ってくることが可能なため、老年比率があがる誘因もある。数字のヒトリ歩きは要チェック。
佐渡は女性の44%が高齢者。歯科を除いても医師84+非常勤医師131人。島を支える現役世代には移住者も多く抱えて元気である。一見、医療過疎的な沖縄の多良間島には、人口1,200人に対して保健師が4人、かつ保育所1カ所+幼稚園1カ所という例もある。
一方、小笠原諸島(父島および母島)の老齢化率は14.5%。「若者の島」の印象が強いが、後期高齢者比率は2.7%(佐渡は24.0%)であり、高齢者の移動や専門治療(診療所は父島・母島に各1カ所、医師は計4名)の不安がその背景に浮かぶ。
【観光客】この統計は、交通機関の乗客数から集計しているため、工事等の関係者出入りの数字も含まれる。法指定離島は夏季集中、沖縄地方など観光が盛んな島は、周年型でサービス産業の成立条件が異なる。宿泊日数の平均は0.36人日。宿泊日数の低さにも課題がある。
【産業別就労者比率】島が小さい程、同時に多様な仕事に従事する人が多く、夫婦でも手分けする。妻が店を営業し、農産物の出荷もし、夫が網の魚を外し、土木もし、秋には食品加工にも従事。国勢調査を読み解くと、妻が小売業、夫が製造業というのも島ではつきものの話である。
それでも全国対比をすれば意外な事実に気づくであろう。「海業」や「6次産業度」という評価軸があれば、島の利点を活かした先端地性への推移や展望も開かれる。過疎では無く適疎指標があれば、持続可能性不安も緩和される。
一般に公開されているが見つけにくい行政データは数多い。都道県の離島振興計画をはじめ、各種10年計画の下調査も熟読されず、ご用済みになりやすい。
これらがデータベース化されていると検索の網に引っかかる。地区別のアンケート調査は多方面・多分野でなされている。
基礎データへのアクセス容易性は、親切なガイド・リスト・担当を設置することで解決する。地元・足場・テーマに合ったデータ集を、島人自身が身近に持ち、話す。学校にもミニデータ集とアクセスガイド板を常備する。それだけでも島の未来に根拠が増す。
欲しいデータを手に入れる力=自力+工夫+受援力(+支援能力)が要。さらに言えば、自前のデータづくりにまで進め、(本来は別の意味だが)「ファクト」「データ」は「フル」になると気づいて欲しい。
大学生には役場とも相談して、データの使用ルールを守り、行政用の地域情報データベースも活用して、多様な分析にまで進んで欲しい。
成果物(手順の公開も含む)の公開、図書館等での蓄積も大切な仕事になる。次の人への橋渡しにもなる。宝の持ち腐れが一番もったいない。