つくろう、島の未来

2024年10月10日 木曜日

つくろう、島の未来

島とは何か? この問いに向き合う人へお届けする日本島嶼学会参与・長嶋俊介先生(佐渡島在住)による寄稿コラム。第10回目のテーマは、世界的な問題でもある海洋プラスチックごみについて。

海のプラごみに立ち向かう島人の実践力と覚悟

海ごみは美観・景観的にも大きな問題であるが、それらを除去する義務は、1907年生まれの米国生物学者、レイチェル・ルイーズ・カーソンが著書『センス・オブ・ワンダー』でも指摘したように、未来世代に対する動義的責任である。

特にプラスチック(以下プラ)は、マイクロ(5mm以下。略記はμ)単位・ナノ(マイクロの1000分の1以下。略記はn)単位の問題であることが恐怖である。今回は、地球市民のひとりとして、海のプラごみに立ち向かう島人の実践力と覚悟を考えてみた。

人工素材であるプラが発明されたのは1907年。軽量・強靱・薄膜加工は至便。大量廉価の石油化学技術で、プラ製品は全球を余す所なく席巻した。極地・深海底にもマイクロプラ(μP)が、細胞・血液・空気(エアーゾル)にもナノプラが浸透。現在、自然界に人工物が投入される時には環境アセスメント(環境影響評価)が(ワクチン認可並みに)必須とされているが、それは過去の大失敗からできたルールでもある。

レイチェル・カーソンが『沈黙の春』で指摘したDDT(※1)や、オゾンホール観測でフッ素系温室効果ガスは、共に製造使用禁止になった。これほどのものには本来なら製造物責任や、投入・使用前の審査が必須であろう。

※1 ジクロロジフェニルトリクロロエタンの略。現在は使用が禁止される有機塩素系の殺虫剤

プラに話を戻せば、既にそのごみが全球にあふれ、多次元の人間・生態系危機を招いている。プラごみ発生源の8割は陸。日本の河川マイクロプラ汚染は、海洋マイクロプラ汚染度に既に等しい。プラリサイクル(総使用量の削減には繋がるがそれ)も最後は海。海のプラごみ対策や、その対応の鍵、解決の途筋は[自然+社会]の方程式にある。

さらに詳しくは、※2の情報ソースを参照してください。

※2 ①NHKスペシャル「プラスチック汚染の脅威:大量消費社会の限界(2030 未来への分岐点・3)」2021年2月28日②チャールズ・モア『プラスチックスープの海(原題Plastic Ocean)』NHK出版2012年③重化学工業通信社・石油化学新報編集部『海洋プラごみ問題解決への道』2019年④秋道智彌・角南篤『海と人の関係学②海の生物多様性を守るために海はだれのものか』西日本出版社2019年⑤レイチェルカーソン『沈黙の春』1962年『センス・オブ・ワンダー』(1956年)等を参照してください。

自然法則から島・海ゴミ対策を考える

[方程式1] 難分解性(低エントロピー) 

まず、最新研究で自然に還るまでに最大1,300年かかるとされるほどの分解困難性。壊れにくいプラごみは、動物拘束・消化器系破壊・ゴーストフィッシング(放置仕掛け海底放置で餌・捕食者悪循環永続)等の殺生を繰り返す。

また美観・景観的にも迷惑物として堆積を続けるが、それらも最後はマイクロプラに細化され全球を巡回し、極端に回収困難になる。誤飲誤食で魚類生体は痩せ細り、体内で詰まれば獣・魚・鳥・海中ほ乳類は殺傷されるか痩せ細る。

ナノプラになれば、細胞壁をもすり抜けて、生体環境に副作用を及ぼす。付着添加物(臭素系難燃剤・劣化防止紫外線吸収剤等)次第では、遺伝子・神経系障害すら発生する。樹氷からも空中を漂うナノプラが確認されている。細胞レベルの大きさに抗う生命化学/物理化学的措置や魔法はもはや無い。

[分ければ資源=低エントロピー]分別は再資源化コストを下げる。ナノプラの前にマイクロプラ、マイクロプラの以前のプラ回収における強い措置が不可欠であり有効である。

[方程式2]食物連鎖濃縮(エコ循環則)

直接の摂取より、捕食上位者の方が、有毒有害物は濃縮摂取され、毒性は倍加する。地球上における捕食の頂点は人とその食材。原因者である人間は、全生物の体内におけるプラ循環に責任がある。

[バイオマス生産の優先順位]バイオマス循環では、Ⅰ 食料(food)⇔Ⅱ 飼料(feed)⇔Ⅲ 繊維(fiber)⇔Ⅳ 肥料(fertilizer)⇔Ⅴ 燃料(fuel)になる転換が、自然界に優しい手順。プラ代替自然系素材では無害分解が肝要で、それによりⅣから(Ⅲ・)Ⅱ・Ⅰに近づける。

プラの再利用はⅢと無害Ⅴ(脱PCB)にのみ道が開かれている。化石系厄介者プラの微生物分解無害化が可能であれば、地球未来には光明。それでも食材系には慎重な判断が原則であり、それ以上は審査が要る。

[方程式3A]プラ(p)⇔マイクロプラ(μP)⇔ナノプラ(nP )の(質量保存則)

難分解性プラは細化しても等量のマイクロプラになる。低温焼却はPCB(ポリ塩化ビフェニル)系有毒有害物にもなりかねない。高温焼却でも炉コスト・燃費・温暖化ガスの問題があり、埋めてもやがてマイクロプラになって地中にたまり、最後は海に至る。

[3R+α: 材料(Input) ⇔処理(Throughput) ⇔生産(Output)]質量保存則では3段階のいずれも有効。Outputからのリサイクルやリメイク回収でも、究極はOutputに戻るが、その循環の分だけ総使用量は減らせる。究極の最善解は、使用禁止(Reject)/抑制(Reduce)・代替商品選別(Refuse権)のInput対応である。

されど個人の素材選択力をあげることは至難の業である。カプセル肥料や漁具は、故意作為でなくても嵐・洪水・津波(※3)で海に放散される。農・漁業共にエコ産業のつもりでも、加害者たりうる。生活者はさらに然り。一次マイクロプラ(μP)は、洗剤・洗顔料・歯磨き粉等にプラスチックビーズとして紛れている。二次マイクロプラ(μP)は、衣類洗浄・タイヤ摩擦等からも発生する。

※3 末尾参照

図は長嶋俊介『生命系経済からライフ経済への転換』生活経済学会誌(№53, 2021.3)を本テーマに合わせて再作成したもの。社会・経済的なプラ対策の構図。ゴミ問題の本質は物質文明にあるが、それに抗する文化力の問題でもある。 ①特集:人新世/地質年代が示す人類と地球の未来(『現代思想』2017年12月号)青土社 ②中村尚司・鶴見良行編著『コモンズの海』学陽書房1995年 ③寺島紘士『海洋ガバナンス』西日本出版社2020年 ④長嶋俊介「低プラスチック日本列島:沿岸・海域と地球環境」『会計検査資料』№666, 2021.4 ⑤長嶋俊介・高月紘『家庭廃棄物を考える』昭和堂1991年で、さらに考えを深めて実践につなげていただければ幸甚である

総括的解は明瞭に発生抑制・回収(しかも共に初期)にある。低炭素社会対策には、加えて、植林や珊瑚やバイオ生産性(炭素吸収性)の高い措置がある。プラに秘策は無い。持続可能性SDX(DX:デジタル・トランスフォーメーション+SDGs大飛躍のその先の)大転換 (技術+仕組み+連帯+実践)の総合力を待たねばならない。

必要になるのは、【A 製造物責任】、【B 市場淘汰(倫理的市場)での3R(Reduce/Reject/Refuse +Reuse/Remake/Upcycle+ Recycle/Waste separation/Quality emissionの複合的大展開))、【C 倫理的消費者】、【D 大洋ガバナンス】、【E 自然保護・保全】、【F エコ・ジオ教育】、【G ライフ優先倫理+行動】それぞれの、一歩一歩の小さな積み上げである。それら一つひとつはSDX実現に向けた最低限の必要条件である。十分条件はそれらの相乗効果的X(大転換)である。

当事者性のある島人の努力

島人の努力は非力ではない。当事者性がある。島からの呼びかけは響く。SDGs的連携は、隗(かい)より始めよでもある。

島の海岸には目に見えてプラレベルの異物が次々集まる。公益性があり、無主物は正当に公に(法律上も国費)公費で処理すべきであるが、もっと強く、官民連携でのマンパワー確保も求められている(生活者・消費者も加害原因者である)。島が海のプラごみ問題に立ち向かうための社会教育・環境教育的発信や、実践センター的役割を担うことも相応しいポジションである。島外者の理解と協力も欠かせない。

佐渡一般廃棄物処理基本計画では、SDGsの目標④教育、⑥安全な水・トイレ、⑦エネルギー、⑨産業技術革新、⑩平等、⑪住み続けられるまちづくり、⑫つくる責任つかう責任、⑬気候変動、⑭海の豊かさを守ろう (Life Below Water)、⑮陸の豊かさも守ろう (Life on Land)、⑰パートナーシップを、計画書表紙に掲記しているが、加えて目標③の「すべての人に健康と福祉を」を、すべての生きものの「ライフの質」と読み替える時に、より普遍性の高い取り組みに高められていくことになる。

東日本大震災で流出したがれきは約500万トン。うち約150トンが太平洋を漂流。北太平洋東西ごみベルトの所在が確認されている。その位置の概要は、岡田紀代蔵『海洋プラスチックごみを清掃』(『Ocean News letter』465,2019年12月)参照。北太平洋東西ごみベルト(Daily Mail,06Feb.2008)の図(下図にある2つの「rubbish patch」)として、そして太平洋すらごみスープ「rubbish soup」になりかけていると警鐘を発している。

海底瓦礫約350万トンのうち回収済みは3%に過ぎない。海洋研究機構は、無人探査機等で調査を続けているが、海底でも潮流等を受けて「動くがれき」とその拡散が進んでいる。

     

離島経済新聞 目次

寄稿|長嶋俊介・日本島嶼学会参与

長嶋俊介(ながしま・しゅんすけ) 鹿児島大学名誉教授。佐渡生まれ育ち。島をライフワークに公務員・大学人(生活環境学⇒島の研究センター)・NPO支援(前瀬戸内オリーブ基金理事長)。カリブ海調査中の事故(覆面強盗で銃創)で腰痛となり、リハビリでトライアスリートに。5感を大切に国内全離島・全島嶼国を歩き、南極や北極点でも海に潜った。日本島嶼学会を立ち上げ、退職後は島ライフ再開。島学54年。佐渡市環境審議会会長・佐渡市社会教育委員長。著書・編著に『日本の島事典』『日本ネシア論』『世界の島大研究』『日本一長い村トカラ』『九州広域列島論』『水半球の小さな大地』『島-日本編』など

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