スマホやパソコンなど誰でも簡単に使えるインターネットが身近になった今、ICTという「情報と通信の技術」があることで、島の暮らしがどのように変わるのか? ICTをフル活用しながら奄美大島と本土の2拠点生活を行う、勝眞一郎教授の連載コラムです。
ガイドという仕事
道案内をする人、すなわちガイド。ガイドといっても、種類はさまざまです。観光のガイドもいれば、登山のガイド、サーフィンのガイド、そして私のように学問のガイドをする者もいます。共通するのは「案内を求める人」が迷わないよう、自らの知識と経験を使ってゴールまで道案内をするという役割です。
人を案内するには、多くの知識を必要とします。さらに、その力量があるかどうかの試験が課せられることもあります。プロ・アマ問わず、ガイドの方々は、それぞれの専門分野について体系的な知識と危険な状態の回避策について、日々研鑽を重ねています。
近年、島の観光分野でも、ガイドの種類が増えてきました。自然を解説するネイチャーガイドやエコツアーガイド、文化を解説するカルチャーガイド、集落を解説する集落歩きガイドなどテーマに応じてバラエティ豊かです。
今回はそうした島の観光ガイドにおけるICTの利用について考えてみたいと思います。
情報を楽しむための知識
人は、目や耳から入ってきた情報を全て処理するわけではありません。必要な情報と必要でない情報に大別し、必要でない情報は受け流して、脳での処理を放棄するわけです。
「必要な情報」と思われたものは、脳のなかで「理解」のプロセスへと進みます。
少し話はそれますが、たとえばサッカーの試合をテレビで流れているとき、サッカーに興味がない人にとっては、ただの映像として受け流す対象です。「どことどこの試合か?」などということは意識しません。
サッカーに興味がある人は、画面を通して試合を観ています。ルールはもちろんのこと、プレーや選手の動きについての知識が豊富な人は、観る観点も豊富。ボールを持っているプレーヤーの動きだけでなく、先を読んだ他の選手の動き、監督の指示の特徴なども観て楽しんでいます。
こうした人に解説してもらいながら試合を観ると、試合は数倍楽しくなります。理解できると快感につながるからです。
逆に、サッカーは好きだけどもサッカーに関する知識があまりない人は、漫然と試合を観て、「頑張れー!」「惜しい!」「勝った!」などというレベルです。これはこれで楽しいのですが、深みがありません。得た情報を楽しむには、興味だけでなく知識が必要なのです。
観光ガイドとICT
ここで話を戻すと、観光ガイドでもサッカー観戦と同じことが考えられます。
その土地が誇る観光地に、ガイドマップを頼りに自力で訪れてみたところで、それほど深く味わえないことがあります。でも、同じ場所を専門ガイドに案内してもらうと、見えていなかったものが見えてきたり、聞こえていなかった音が聞こえてきたりします。
その場所の歴史的背景、植生の特徴、気候や地形など、ガイドの解説を通じて観る自然や構造物は、観光客にとって感動的なものに変わります。
最近のガイド業界では、タブレット端末の活用も増えています。例えば、「つぼみの状態の花」と「咲いた状態の花」など季節によって観られる植物の違いや、鳥の声、立っている場所を上空から見た映像などを見せてくれる方もいます。小さな昆虫や、聞き逃してしまう滝の音など、自分たちでは見過ごしてしまう見所を楽しめるように導いてくれるのです。
他方、自分の案内する一つひとつに感動するお客様を見るガイドの方々は、どこか誇らしげな顔をしていたりしますね。
このように、観光ガイドの分野では、自分の知識を蓄積する分野だけでなく、お客様にプレゼンテーションしたり、時には位置情報を確認するためのGPSを使ったりとICTの活用が進んでいます。
ガイドへの事前リクエストも楽しむポイント
旅先ではガイドの用意したコースをそのまま楽しむのも良しですが、私のおすすめは自分なりに訪問先を事前に勉強して、ガイドさんにリクエストを出しておくこと。そうすることで、旅はもっと楽しくなります。
「この時期の、この動物の、こういう生態を見たい」「この角度からの滝を見たい」など、自分の関心のあることを事前に伝えておくと、ガイドの方も事前に準備をしてくれます。
特に初めてお会いする方だと、その人はどんな興味があるのか、何に感動するのかなどガイドの側でも不安なものです。事前に興味の対象を伝えておくことによって、より満足度の高いガイドサービスを受けることができます。
島は、何もないようで、実にたくさんのコンテンツが詰まったエリアです。そうした島を楽しむために、次の旅ではぜひガイドの方に案内をお願いしてみてください。