つくろう、島の未来

2024年12月14日 土曜日

つくろう、島の未来

スマホやパソコンなど誰でも簡単に使えるインターネットが身近になった今、ICTという「情報と通信の技術」があることで、島の暮らしがどのように変わるのか? ICTをフル活用しながら奄美大島と本土の2拠点生活を行う、勝眞一郎教授の連載コラムです。

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島に住まいはありますか?

日本は人口減少時代に突入。各自治体とも人口減少の抑制を最重要課題として位置付けています。もともと人口が少ない島の場合、人口減少は小中学校など教育機関の閉鎖や、祭りの廃止に直結します。コミュニティーを存続させるために、島内人口の維持はとても重要な課題です。

国土交通省と公益財団法人日本離島センターは、毎年秋に全国の離島が集結する「アイランダー」というイベントを開催していますが、そうした場に出かけると、ブースを出店している各島の方々が、島に関心のある移住希望者に向けて熱心にアピールされている姿がみられます。

移住希望者の立場になってみましょう。たとえばアイランダーのような場で、「素敵な島だな」「行ってみたいな」と思う島があっても、現実的に島に住まいを移すためには、仕事と住まいが必要。「仕事はありますか?」「住まいはありますか?」という2つが大きな課題になります。

今回はそのひとつ、島での住まい探しについてICTを絡めて考えてみたいと思います。

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不動産屋に行って住まいは見つかるのか

私は5年ほど前に奄美大島に移住をしましたが、その時にまず、訪問したは不動産屋さんでした。

島の規模によっては不動産屋が存在しない島も少なくありませんが、ある島ではまず不動産屋さんですよね。しかしながら、島は物件が少なく、若干お高め。

都市部であれば不動産屋さんで希望の地域や広さ、価格帯を伝えると次から次に該当物件が出てきます。これは、「レインズ」と呼ばれる不動産流通情報システムで情報が共有されているからです。しかし、島の物件情報は、このシステムではほとんど紹介されていないのです。

また、島の物件は「田舎だから安いのでは?」と考えがちですが、実際のところどの島でも、そんなに安くはありません。物件の流通量が少なく、転勤族の方たちが借りてくれる貸し手市場なのでしょう。

私の場合、相談した不動産屋さんはとても親身になって、空き物件を探してくれましたが、なかなかすぐには見つかりませんでした。これは、ほかの移住者、ほかの島においても聞かれることです。仕事を持って移住しようとするフリーランスの方でも、住まい探しには苦労されているケースはめずらしくありません。

どうすれば、住民の住まいネットワークにつながるのか

では、どうやったら物件を見つけられるのか?
私の場合は結果的に、私の知り合いの知り合いの不動産屋さんの、さらに知り合いのJA職員の友達の弟さんの家の2階をお借りすることができました(長い!)。

実は、島の物件探しではICTのネットワークよりも、この「知り合い」のネットワークがとても重要です。「もともと島の人で、今度島に帰ってきて、あそこで働く人が家を探しているらしい」という話が、ネットワークを通じて不特定多数の島人に流れます。そうすると、「そういえば、あそこの家が空いていたな。」ということで話が伝わります。

カギは、最初に相談する知り合いです。「あの人が言うことだから大丈夫だろう。」と思われている島の方に、いかにしてつながるかがポイントですが、どうやってその最初の人とつながるか?これには、田舎で暮らすときにワールドワイドで通用するアプローチがあります。

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まず、一緒にご飯を食べ、酒を飲み、話をすることです。メールやテーブル越しの打ち合わせでは関係ができません。会話の中では、自分ができること、できないことをオープンにすること。特に困っていることを打ち明けましょう。

人間というのは、困っている人はサポートしてあげなくてはという心を持っています。特に温かい心を持った島人と信頼関係を築くことができれば「オレが紹介してやるよ。」ということになります。

ちなみにこういう時に最も敬遠されるのが、「自分は都会でバリバリやってきたんで、自分のことは自分で何でもできます」というタイプです。やってみるとわかりますが、島では周りの助けを借りないと物事は進みません。お金を出せばあらゆるものが手に入る都市部とは少々勝手が違うのです。

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ICTで物件が見える化される

これまでのところ、島の物件情報にICTの活用は進んでいません。しかし、離島地域には移住支援や空き家対策など解決すべき問題もある。そこで今後は、主に物件を供する側から、次のような新しいICT活用が出てくると予想されます。

まずは、Google マップ™に代表されるインターネット上の地図情報です。どこの家が空いているなどの情報の基本になります。土地活用の観点から、公的機関により土地所有情報を更新するプラットフォームが提供されることが期待されます。

次に、話題のIoT(モノのインターネット化)。IoTを導入すると、電力や水道の使用状況から空き家状況を知らせることが可能になるため、物件情報の見える化が今後進んでいくでしょう。

島側からすると、不動産の流動化は重要課題です。建物は使わずに放置しておくと、あっという間に傷んで使われなくなってしまいますが、空いている家や部屋を貸したり、売買することによって、建物の利用が高まり、集落に人が暮らすようになります。

物件情報の共有だけでなく、貸す側と借りる側の評価などICTのサービスの得意とするところなので、島の物件探しでもどんどん活用していきたいですね。

島に住んでみたいという方は、まず島に出かけてみて、島人に希望や悩みを打ち明けることから始めてみてはいかがでしょうか。

     

離島経済新聞 目次

【連載】島の暮らしとICT

ICT(Information and Communication Technology)技術で、島の暮らしはどう変化してきて、これからどう変化するのかを探る、サイバー大学教授の島×ICTコラム。

勝眞一郎(かつ・しんいちろう)
1964年生。奄美市名瀬出身。NPO法人離島経済新聞社理事、サイバー大学IT総合学部教授、奄美市産業創出プロデューサー、バローレ総合研究所代表。著書に『カレーで学ぶプロジェクトマネジメント』。現在は奄美大島と神奈川県の藤沢の二地域居住。

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