つくろう、島の未来

2024年12月07日 土曜日

つくろう、島の未来

スマホやパソコンなど誰でも簡単に使えるインターネットが身近になった今、ICTという「情報と通信の技術」があることで、島の暮らしがどのように変わるのか? ICTをフル活用しながら奄美大島と本土の2拠点生活を行う、勝眞一郎教授の連載コラムです。

サーファーはなぜ、島を目指すのか?

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風はウネリを連れて浅瀬に乗り上げ、岸に向かって波を立ち上げる。サンゴ礁の広がる南の島では、潮の上げている時がねらいめで、水温の低い北の島でも、ハイテク素材のウェットスーツとグローブ、そしてブーツを着用すれば身体はホカホカ。四方を海に囲まれる島は「波の宝庫」といえ、「サーファーたちの憧れの場所」でもあります。

かくいう私もサーファーのひとりなので、今回はやや強引ですが「波乗り」をテーマにICTのお話をしたいと思います。

私たちサーファーがやっていることは、来た波に乗り、また次の波を求めて沖に向かうことの繰り返しで、ただそれだけです。

サーフィンはとてもシンプルな遊びですが、2020年の東京オリンピックでは追加種目にも選ばれました。メジャーなスポーツとして、皆さんの目に触れる機会が増えることは、ひとりのサーファーとしてうれしいニュースです。

しかし、いくらインターネットが発達しても、これまでと同じく島が抱える課題は残ります。

サーフィンに必要なものは「波」と「サーフボード」です。海の面している方向によって波があったり、なかったり、大きすぎたりということがあります。島では、その地形を活かして、どこかのポイントで波乗りができます(たまに全面フラットということもありますが)。

多くのサーファーは、いつもTシャツと短パンとビーサンで過ごしたいというライフスタイル願望を持った生き物です(笑)。となると、南の島にあるサーフスポットは、サーファーにとって最高のロケーションということになります。

ネットに強い現代のサーファー

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「良い波」を当てることができる名人は、ポイントとなる海の地形を知っているだけでなく、天気図を読む名人。「この気圧配置だと、これくらいの風がこちらから吹くから今日はあそこのポイントがいい」とピタリと当てることができます。

昔は気象情報を得る手段が限られていましたが、今は天気図だけでなく、上空の風や最新の降水情報が細かく提供されています。なので、現代のサーファーにとって、ICTを活用した気象情報のチェックは欠かせません。

最近では、腕時計に装着されたGPS情報を使って、どのコースをどれくらいの距離、何回波に乗ったかのログ(記録)が取れるサービスも登場。これも、GPSの精度が高くなってきたことと、装置の価格が下がってきたことの恩恵ですね。

さらに、天気が悪く、外に出られない日には、Google Mapの衛星写真を見て、まだ知られていないサーフポイントを探すという人も。ICTがサーフィンを楽しむための重要なツールになっているわけです。

一方、意外と進んでいないのは、SNSでの波情報の交換です。昔からサーファーの間では「しきたり」が重んじられており、波情報は積極的にネット上には公開されません。

行った翌日に「良かったよ」と自慢げに写真をアップするのはアリですが、「今、いいよ!」というのは、サーフィン界ではなんとなく御法度なのです。それは、そのポイントに人が集中するのを防ぐためや、ローカルの人に気を使ってのことだと思います。

ポイントの名前すら書かない人が多いくらいです。足を運んだことがあるサーファーなら写真を見てどこのポイントだかわかるはずで、行ったことのない人にまで広めたくないという心理なのかもしれません。ICTはサーフィンを楽しくしてくれるツールですが、伝統的な「しきたり」分野では、まだまだ浸透していないものです。

島にサーフトリップに行こう!

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最後にICTからは少し離れますが「おまけ」として、島でサーフィンを楽しみたい方に向けた「気をつけたいこと」を3つだけお知らせします。

1つ目はやはり「自然を大切に」。車で移動することが多いと思いますが、駐車場所には十分に注意しましょう。そして、持ってきたものは、必ず持ち帰ること。海に入る前にビーチクリーンをするのも良い習慣です。ゴミは持ち帰る。そこにあるものは持ち帰らない。

2つ目は「地元のサーファーに感謝」。いつもビーチクリーンをやっていたり、環境破壊の工事を阻止する活動をしたりして各地のポイントは守られています。地元のサーファーに感謝して、必ず入る前には挨拶をしましょう。

3つ目は「まずは地元のショップに行ってみる」です。島の海岸の潮の流れや海底の地形は様々です。その島にサーフショップがあるならば、まずは行ってみて、地元の情報を聞いてみましょう。最初の時にはガイドをお願いすると安心です。

知らない土地で、無理をして入って救助されるという話は、珍しくありません。事前情報を十分に集めて、くれぐれも無理はせずに、楽しいサーフトリップを。

     

離島経済新聞 目次

【連載】島の暮らしとICT

ICT(Information and Communication Technology)技術で、島の暮らしはどう変化してきて、これからどう変化するのかを探る、サイバー大学教授の島×ICTコラム。

勝眞一郎(かつ・しんいちろう)
1964年生。奄美市名瀬出身。NPO法人離島経済新聞社理事、サイバー大学IT総合学部教授、奄美市産業創出プロデューサー、バローレ総合研究所代表。著書に『カレーで学ぶプロジェクトマネジメント』。現在は奄美大島と神奈川県の藤沢の二地域居住。

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