スマホやパソコンなど誰でも簡単に使えるインターネットが身近になった今、ICTという「情報と通信の技術」があることで、島の暮らしがどのように変わるのか? ICTをフル活用しながら奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)と本土の2拠点生活を行う、勝眞一郎教授の連載コラムです。
島の医療の現状
医療は、島暮らしにおいて気になることのひとつです。離島は『課題先進地』と言われるだけあって、医療においても課題が山積みです。
まずは地理的特性からくる課題です。離島は本土と海を隔てて離れているため、通院可能な医療機関が限られます。電車を乗り継いで病院に行く……というようなことはできません。緊急時搬送の手段に患者を医療機関まで輸送する「ドクターヘリ」が活躍する島も多く、最近、奄美大島にも導入されました。
地域に専門医が不在無いだと不安なものです。少し大きな総合病院で「皮膚科の検診日は1カ月に1回だけ」というところもあり、島に住み始めたときには驚きました。専門医不在の病院では、基本的に総合医の先生がどんな病気も診てくださっています。
次は、人口の少なさからくる課題です。島に病院が少ない理由は、地理的要因というよりは、人口の少なさ、すなわちマーケットの規模が小さいことが要因でしょう。人がたくさんいれば、沖縄本土のように大きな病院もできるし、数もたくさんできるわけです。
多くの地域で人口減少が進むなか、島では病院の数も医師の数も減少しています。産婦人科がない島では、出産の前から出産後まで本土に宿を借りて過ごす妊婦さんも多くいます。
今回はそうした島の医療分野におけるICTの利用について考えてみたいと思います。
島のお医者さんに求められるスキル
私は医療の専門家ではないので、ひとりの住民として、島のお医者さんに求められるスキルについて、まとめてみました。
1つ目は、コミュニケーション能力です。医師が地元出身でない場合は特に、地域特性の色濃く残る島において、どう住民と付き合っていくかは重要です。地域の一員として組み込まれますから、地域行事から私生活まで家族同様に付き合うことになります。同じ地域に暮らす全員が知り合いという環境で、きわめてプライベートな事情を扱う医療の分野は、心理的にも大変な仕事だと思います。
2つ目は、全ての科を横断しながら、包括的な視点で適切な見立てを行う能力です。一般的な病気の対処はもちろん、特殊な病気の場合の本土の専門医への紹介など守備範囲の広い医療が求められます。しかも医師が一人しかいない場合には、実質24時間365日体制での対応が期待されます。
そして3つめは、地域の医療関係者との連携を行なうマネージャー的能力です。地域の保健や福祉の担当者、看護や介護の関係者と連携をとって、地域内の医療体制を常に改良していく役割があります。組織づくりや研修など、地元の先生方は本当に忙しく働いていらっしゃいます。
島の病院という厳しい環境のなかで、走り回っている先生方には、頭が下がります。
医療分野で期待されるICTの活用
離島医療における課題解決に、ICTの活用が進んでいる分野もあります。
まずは、電子カルテです。まだ、1つの病院医院内での電子化が主ですが、離島地域の先進事例では佐渡で、島内の医療施設や介護施設などでデータを共有しています。今後は、各病院、各ケアマネージャーなどの医療関係者がそれぞれ持っていた医療情報をデータベースで共有し、地域包括ケアという枠組みが進展することが期待されています。
遠隔医療もICTの高度化と報酬制度が確立することで一気に普及が進むと考えられる分野です。専門医への放射線画像や病理画像の転送での診断、医師同士のコミュニケーション、さらには患者から保健師や医師へ直接、測定データを転送するなど、応用範囲は広いです。
また、日頃から私たち自身が体の状態を計測し、病気を防ぐ体質をつくる、東洋医学で言うところの「未病先防」への取り組みにもICTは活用できます。私の周りでも、体重計と万歩計のデータをスマホに飛ばしてグラフ化し、健康維持に取り組んでいる方がいます。ゲーム感覚で自分の健康状態を見える化すると楽しいので、長く続けられそうですよね。
これからIoT(あらゆるモノのインターネット接続)が進展すると、トイレを含むいろいろな場所にセンサーが配置されるので、計測されたデータが医療にも生かされるようになるでしょう。
これからの島の医療
高齢化が進み、人口の減少とともに医師が少なくなる中で、一番大事なのは「病気にならないこと」です。もし病気になっても、不安になったり悩んだりする時間が長引かないことも大事ですね。そのために、島内外の医療関係者と地域のみなさんがつながるICTのチカラでできることは、まだまだたくさんありそうです。