つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

日本全国にある有人離島は約420島。すべてまわろうと思いたっても、往復するだけで1週間かかる島もある。早くても数年、ゆっくりまわれば数十年はかかるほど、島めぐりは簡単ではない。旅ライターを生業(なりわい)に日本全国をめぐり「南鳥島以外は行きました」と語る斎藤さんに島について聞きました。※この記事は『季刊ritokei』10号(2014年8月発行号)掲載記事になります。

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(聞き手・鯨本あつこ)

訪れた島では
全部の道を歩いています

最初に行った島は小学生の頃、叔父に連れていってもらった宮城県の網地島(あじしま|石巻市)だけれど、自分で行ったのは礼文島(れぶんとう|北海道)が最初です。やっぱり「端っこ」には行ってみたくて、大学1年の秋に行って以来6年くらい通っていました。学生の頃はバイトで稼いでは、全国各地をめぐった。3カ月くらい島づたいに歩いたこともある。

卒業後はJTBの出版事務局に勤めていたので、地方へ打ち合わせに行く機会を活かして、島めぐりをしてました。たとえば週末に長崎、週明けに熊本と打ち合わせを入れると、土日の間に天草あたりの島をバババババと回れた。350島を超えた頃から、全有人離島をめぐろうと思うようになりました。定期航路のない島などは、決意がないと行けません。

そうやっているうちに南鳥島以外は全部まわりました。

南鳥島も雑誌『旅』の仕事で池澤夏樹さんに南鳥島(みなみとりしま|東京都)へ行ってもらうことになり、本当は僕もついて行く予定だったんですが、業務のローテーションで行けなくなり、泣く泣く……。池澤さんには今でも「南鳥島には、行ってないだろ」って言われますね。

僕は車の免許を持ってないので、1日で歩けるくらいの島が好きです。厳密に課してるわけじゃないけど、1日で歩きまわれるくらいの島なら全部の道を歩くようにしています。グローバルな視点でみれば日本列島全部が島。しかし、内向きな視点でみれば、北方領土、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島を除いた418島を指しますよね。原稿を書く時に線引きはしないけど、自分の胸のうちでは1日で全部歩けるくらいの大きさのものが本当の島ですね。

多少なりとも興味があれば
とりあえず行ってみるのが良い

大きな島が嫌いなわけではないけれど、僕にとっては敷居が高い。あくまで「知った」ではなく「見た」ですが、小さい島だと全部見たような気分になれる。島の場合は島と外側の世界とはっきり分かれているので、なんとなくでも島世界を把握できる。東京とか京都だとどこを見れば見れた気分になれるのか、すごく曖昧です。でも、小宝島(こだからじま|鹿児島県十島村)なら1日で5周くらいできてしまう。自分なりに小宝島というミクロコスモスを理解できたような妄想に浸れる。そんな満足感があるんです。

まだ島に行ったことのない人も、少しでも島に興味があればとりあえず行ってみるのが良い。

特に瀬戸内海などは本土から5〜10分で行ける島もあるので。色々調べて行ってもいいんだけど、先入観なしにぶらっと訪れるのも良い。そしてできれば1泊する。日帰りできる竹富島(たけとみじま|沖縄県)も1泊すれば、夜にはこんなに星が見えるんだとか、オオコウモリって優雅に飛ぶんだなとか、巨大な光に包まれた対岸の石垣島(いしがきじま|沖縄県)はなんて明るいんだろうとか、そういうことが知れる。

そして、地元の人と話をする。通りがかりの人にはなかなか出会わないので、お店の人や乗船券売り場の人、郵便局の人なんかに話を聞いてみる。郵便局は情報が集まってくる場所で、宮崎県の島野浦島(しまのうらしま|延岡市)に行った時午前中に雑節(ざつぶし)をつくる工場を覗いて、午後に郵便局へ行ったら「あんたこの島は2回目で、千葉から来たんだって」と、やおら言われた。工場での雑談が、もう伝わっていたんです。

島の人と話をするのは
自分の身元を明らかにすること

島の人と話をするのは、自分の身元を明らかにすることでもあります。

観光客のいない島ではいろいろと身元を詮索されるから、たとえば「島の写真を撮り歩いている者」などと、自分は何者か伝えると彼らは納得してくれます。僕は島へ10回行くうちの7回は取材じゃないから、そういう時は「あいつは何者なんだ?」となる。地方での打合せの途中に寄っていたサラリーマン時代は、白いワイシャツにジャケットなんて姿なので、余計に怪しまれた。
「詐欺師じゃないか?」なんて(笑)。

もう13〜14年になりますが、日本離島センターの季刊誌『しま』で瀬戸内の島に絞った連載しています。大好きな島はどこかと聞かれれば、礼文島、屋久島、トカラ列島、八重山諸島などを挙げます。それらは豪華な食材をつかったフランス料理のような華やかで濃厚な味わい。

一方、瀬戸内の島々はヒジキの煮物やホウレンソウの白和えみたいな深い味わいです。そのしみじみした味わいが心からいいなと思えるようになったのは、40半ば過ぎてから。ゆっくり丹念に歩くと、瀬戸内の島々には「なんで隠してるわけ?もっと見せてよ、もっと教えてよ!」っていう発見がたくさんある。

瀬戸内の島々の大半はすごく地味だけど、年を重ねると秘められた魅力に気づかされる、小さいながらも自分の世界観を体現した島々です。

島の人口は急に増やせないから
他所から呼んでくるのは良いこと

最近「島プロジェクト」というのを手伝っています。以前、僕の担当編集者だった小林 希さんという女性から、猫と建物の写真を撮るのに瀬戸内海の島をめぐりたいと相談されたことがきっかけで、香川県の豊島(てしま|土庄町)と讃岐広島(さぬきひろしま|丸亀市)を紹介したらすっかり気に入って。あの辺りの島に多い塩飽(しわく)大工がつくった立派な古民家を再生しつつ、田舎のない子どもたちに島ならではの体験をさせてあげたいと。

でも正直なところ、1回訪れただけの彼女の話にどれくらい耳を傾けてくれるのか……と思っていたのですが、一緒に行って島の人に思いを伝えると「古民家はいくつかある」「今から見に行くか」みたいな流れになり、築100年くらいの古民家を使わせてもらえることになりました。やはり、下手に考えるよりも行動することですね。今年の7月に彼女が知り合いの家族や友達を連れて行き、8月にもまた何人か行く予定になっています。

島は船に乗ってもらわないと、利用者が減ってどんどん便数を減らされてしまう。でも島の人口を急に増やすことはできないから、他所から呼んできて利用してもらうのは良い。これまで僕は、取材して紹介するのが基本的な島との関わり方でした。でも、もっと島に足を着けてやらないといけないと思っていた。だからこのプロジェクトには、これからも積極的に関わっていくつもりです。


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  • (お話を聞いた人)

    斎藤 潤(さいとう・じゅん)さん
    1954年岩手県生まれ。東京大学文学部卒業。JTBで旅雑誌を担当した後、旅ライターとして独立。『コーラルウェイ』(JTA)『サライ』(小学館)などへ執筆。著書は『日本《島旅》紀行』(光文社新書)、『島・日本編』(講談社)ほか多数。

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  • (著書紹介)

    『季刊しま』(日本離島センター)での連載をまとめた『島—瀬戸内海をあるく第3集 2007-2008』がみずのわ出版より発売中。詳しくはこちら >> http://www.mizunowa.com/

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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