つくろう、島の未来

2025年05月03日 土曜日

つくろう、島の未来

人口減少や高齢化が急速に進む今、人材不足が深刻化しています。2月15日、鹿児島市で行われたイベント「島祭」では、有人 28島・約15万人が暮らす鹿児島離島で活躍するキーマンが多様なテーマでトークを展開。「事業承継と人材育成」 について語った、与論島の村上竜雄 (むらかみ ・ たつお)さん、沖永良部島の金城良太郎(かなき・りょうたろう)さん、徳之島の大保健司(おおぼけんじ)さん、屋久島の荒木政孝(あらき・まさたか)さんの話に耳を傾けてみましょう。

編集・ritokei 編集部 写真・松田浩和 (屋久島)

左から与論島の村上竜雄さん、沖永良部島の金城良太郎さん、徳之島の大保健司さん、 屋久島の荒木政孝さん

屋久島と奄美群島のキーマンが語る「事業承継と人材育成」

村上

まずは自己紹介から。僕は13年前に与論島に移住して家族でカフェ&ゲストハウスを営むかたわら、経済産業省の認定経営革新等支援機関として主に人材育成の面で中小企業の支援をしています。

東京で会社を経営していましたが長女が生まれたことを機に移住しました。島の皆さんのおかげで、幸せに子育てさせていただいていましたが、島に入れば入るほど多様な課題があることに気付かされて、今は仲間と一緒に、与論島にイノベーターを100人増やせるよう「与論イノベーんちゅ」という人材育成事業も行っています。

金城

僕は有限会社坂元鉄工所と、事業を引き継いだ安田印刷をやっています。鉄工所と言っても、相談がきたら何でもやる最後の砦のような会社。沖永良部はカーボンニュートラルの脱炭素先行地域なので、下請けで風車をつくらせてもらったり、保育園にプールを設置したりしています。

商工会青年部活動もやっていて、『スラムダンク(THE FIRST SLAMDUNK)』の上映会をしたり、花火師の資格所有者として青年部の皆と花火を打ち上げたりしています。

大保

僕は「とくのしま伊仙まちづくり協同組合」という行政と一緒にやっている人材派遣会社を運営しています。特定地域づくり事業協同組合は島根県の海士町からはじまって、全国に108あるうちの7つが鹿児島の離島にあります。

もともと離島が好きで70島くらい巡って、5年前に徳之島に移り住みました。子どもが島で生まれて、自分に何ができるのかを考えた時に、将来、子どもが島に帰ってこられるように土壌づくりをしています。

荒木

株式会社アイランドコーポレーションの荒木です。2010年に横浜から屋久島に移住して、ぷかり堂というお土産店をやっています。移住前は旅行会社に勤めていて、屋久島ツアーの企画担当者としてお客さんを送客するうちに、島の事業者に声をかけてもらい移住しました。

屋久島がいつまでも旅行を楽しめて、観光業を営んでいける島であるために、住民やより広く屋久島全体にその利益が巡る循環をつくっていきたいと考えて活動しています。それをより大きな仕組みからアプローチするために屋久島観光協会と商工会の理事もやっています。

また、他の島の人と協業する離島間連携という仕組みで、特産品開発などを行う「SANROKU株式会社」を屋久島を含めた3島の事業者で立ち上げました。

黒字なのに辞めなければいけない?地域に迫る人口減少の波

村上

事業承継とか人材育成って、人によっては遠い話だけど、身近に差し迫った課題だと思うんです。「仕事はあるけど人がいない」とか「黒字なんだけど辞めなければ ならない」とか、奄美群島内でもよく耳にします。良太郎くんは安田印刷の事業を承継してますが、それぞれの立場から、事業承継とか人材ってどう映っていますか?

金城

沖永良部島にはもともと有限会社安田印刷という会社があって、印刷機の修理で鉄工所でも関わっていました。ある時、商工会にいたら深刻な雰囲気の電話がかかってきて、「1カ月後には閉めたい」と話している会話をそばで聞いたんです。

島唯一の印刷屋さんで、行政の仕事もあって名刺も発注できていた。商工会の理事会でもどうにかできないか話したものの、社長の意向が迫っているし、最終的に「誰も手をあげないなら僕がやります」と。法人としては閉めたいということだったので、個人事業として固定のお客さんと印刷機等を受け継ぎ、2024年6月からはじめました。

荒木

事業承継については屋久島も高齢化や人口減少が続いていて、産業が縮小している現状があるので、何かしらやっていかなければいけないと思っています。

農作業できない雨天時にECサイトを構築。マルチワークの思わぬ効能

村上

事業承継って重要なんだけど、重たいし面倒だからなんとなく後回しになって、切羽詰まって動き出すと無理が出てきてしまう問題ですよね。人材を紹介する側の大保さんはどう感じていますか?

大保

僕は人材派遣の仕組みをつかって移住者と事業者をつないでいて、これまでトータル20人以上がUIターンで入ってきています。新しい風は吹いているし、 人材不足解消にはなっているけれど、そういう人が根付いて事業承継していくまでの間をどうやってつないでいくかが課題。徳之島でも黒字なのに担い手がいなくて「閉めようかな」という声は聞こえてくるので、待ったなしの課題だと感じています。

村上

協同組合に良い人材が入ってきた時に、良かったなと思う想定外のインパクトはありました?

大保

おっ!と思ったのは農業分野に派遣された人が、雨で作業ができない時に派遣先の農家さんがずっと困っていたECサイトをつくってあげていたことです。農家さんの売上アップにもつながっていましたね。

なくしてしまった事業を再び始めるのは難しい

村上

いいですね。事業承継といえば親族内承継が理想ですが、それができない場合は従業員、そして第三者となりますよね。良太郎くんはどちらもやっていますが、なぜ継ごうと思ったの?

金城

鉄工所はもともと瀬戸内町出身で船の機関士だった祖父がはじめた事業で、ゆくゆくは継ぎたいと思っていたため、7年前に島に帰ってきました。

鉄工所は軌道にのってきたので違う事業をしようかなと思っていた時に、安田印刷の話が出てきたんです。誰も手をあげないし、商店街の一等地にお店を持てるだけでもプラスになるんじゃないかなと思って引き継ぎました。

村上

与論でも数年前に最後の本屋さんがなくなって、何とかできそうなのにできない現実があったんですよね。一度、なくしてしまった事業を再び始めるのはすごく大変。都会での事業承継と島の事業承継は意味合いが違いますよね。

金城

沖永良部だと先輩が副業しながらタイヤ屋さんをやっています。仮にタイヤ屋さんがみんな辞めてしまったら、誰もが自分でタイヤ交換しなければいけない時代がやってくるから、役場も知らんぷりできない。だから商工会からも町に働きかけ、 バックアップしてもらえるよう動いてもらっています。

大保

うちはマルチワーク型なので、働き手は色々な事業者と知り合えて、顔が広がっていくと信頼貯金も貯まり 「あの人がんばっているね」という声が人伝いで入ってきたりします。人不足で大変なところもあるけど、外から来る人が活躍できる場所もたくさんありますよね。

荒木

屋久島でも商店街の空き店舗を承継する人がいない問題があります。なぜかといえば、みんなが店舗兼住宅だから。引退した持ち主が住んでいることや、トイレが自宅側にあるなどの問題があるから。だから単純に人を呼べば良いんじゃなく、改装するなどのアクションが必要だと感じています。

みんなの暮らしに必要な事業を駅伝のように継いでいく

村上

事業承継といっても、島だと単なるビジネスモデルの承継ではなく、みんなの生活に直接影響がある島の環境文化全体の話ですよね。

事業が島という生態系の一部なら、事業を始めるにしても、起業してスタートダッシュでスケールして……という感じではない。長距離走というよりも、駅伝のようにつながっていくことが大事で、島に必要な仕事がつながっていくよう、それぞれが役割を演じるのがいい。

そう考えると、重たい事業承継じゃなくて「あと5年誰かやらない?!」みたいに事業を役割や居場所として考えられるかもしれない。島にいると島の一部になれてしまうというのもダイナミズムですよね。

金城

そういう動きをフォローしていくような人になりたいですね。

大保

確かに。 事業承継もやわらかく捉えて、自分自身が環境文化の一部としてつながっていけるような人を育てていきたいと思います。

荒木

事業の大小問わず、島にある職はすべてが尊く、継いでいかないといけない。島に住んでいるものたちの使命を胸に、島でたのしく生きていきたいですね。

村上

語り尽くせないですね(笑)。ありがとうございました。

『島祭 – Shimasai-』
2025年2月14~15日、日本最大の離島人口を誇る鹿児島離島のキーパーソンが集い、 鹿児島島嶼地域の持続可能なエコシステム形成に向けて開催されたイベント。13島130名が参加し、20を超える基調講演やトークセッションが行われた。(主催:東シナ海の小さな島ブランド株式会社)





     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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