つくろう、島の未来

2024年06月23日 日曜日

つくろう、島の未来

2024年4月20日、リトケイが島の皆さんとつくった本『世界がかわるシマ思考-離島に学ぶ、生きるすべ』( 以下、シマ思考)が発売となりました。

人口減を可能性にかえる本をつくるべくクラウドファディングを実行。270名余りの想いを集め、完成に至った本の出版を記念して、制作委員の中心メンバーであるリトケイ編集長の鯨本あつこと、有川智子さん( 五島列島)、山下賢太さん( 甑島)、黒島慶子さん( 小豆島)が、制作背景や想いについて語りました。

※この記事は『季刊ritokei』45号(2024年4月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

「世界がかわる」そのタイトルにふるえた

鯨本:

ついにシマ思考が完成しました。この本は島の皆さんとつくりたかったので、リトケイ創業当時からの縁があり、デザインや編集の分野でも仕事をされている3人に委員会に入ってもらいました。

黒島:

私は以前、『瀬戸内暮らし』という冊子をつくりながら島の可能性を実感していたので、関わらせてもらってありがたかったです。

山下:

本のタイトルに「世界がかわる」というタイトルがついた時にはふるえました。僕は14年前に甑島にUターンして、その半年後にリトケイにメッセージを送ってたんです。

島で生まれ育ったバックボーンがあっても、新しいことを始めるのも、大切なものを守ることも難くて、心が折れかけていた時にリトケイを見つけて……。

やっぱり小さな島とか、小さな単位が持っている力を信じていたので、グローバル化が進み、色々なものが失われてきた時代に「小さくてもいいんだよ」と背中を押してもらうようなタイトルでした。

鯨本:

よかったです。私は14年前に離島っていいなと思った時からずっと島の人に学んできたので、この本も島に学べるものにしたかったんです。実際、離島地域には人口が少なくても豊かに暮らす人たちがいる地域があるので、そうした例はこれからの日本社会にとっても貴重だと思っています。

有川:

私は「自分を心豊かにするすべ」の章にある「老いて豊かに生きるには」がすごくおもしろかったですね。

普通は行政から与えられるようなサービスとか仕組みを、住民グループが主体的に「こういうのが欲しい」「自分だったらこれができる」と言い出せることがものすごくて。そんな地域が増えていくと、幸せだし豊かですよね。

山下:

この本だと、自分が豊かに暮らすコミュニティの規模を「150人」とも書いていますよね。例えば、ある日突然、災害などで他地域と断絶されて、自分が生きられるテリトリーが「ここしかないよ」という事態になることがあります。

そんな時に重要なのは、娯楽的な趣味思考で集まるコミュニティとは違う地に足ついた物理的なコミュニティで、その中心に自分を置いた時の「世界」が変わる本だと感じました。

本土も、島も違わない

黒島:

私は今、小豆島に住んでいますが、愛知県西尾市の田舎にある夫のふるさとと二拠点居住をしているんです。

そこで感じているのは、いわゆる離島である小豆島も本土の田舎も違わないなということ。小さいコミュニティの中だと、それがどこであっても、心が分かり合える、学び合えるつながりが重要なんですよね。

鯨本:

カタカナの「シマ」は「支え合えるコミュニティ」を意味しているので、離島でも本土でも共通できる概念で、「共同体」ともいえるもの。この本に収録するために行った座談会で、哲学者の内山節さんに改めて「共同体とは何か」と訊ねると、共同体とはその時、その場にいる人たちによってつくられるもののため「常に変化するもの」と教えてもらい、すっきりしました。

離島をみていると人口があまり減らない島もあるんですが、そういう地域は上手に変化しているんです。「うちはこうじゃなきゃいけない」という頑なさを持つ地域は多いですが、今の共同体にいる人たちを中心に置いて、それまでの前提を柔軟に変えていける地域の方が生き残っていける。

ただし、引き継がれてきた文化の中には、その土地特有の風土のなかで生きていくために必要な知恵もあるので、共同体そのものは柔軟でいいけど、大事な知恵は残るといいなと思います。ちなみに皆さんはこの本を誰に読んでもらいたいですか?

山下:

学校の先生たちには読んでもらいたいですし、まったく島に関係ない人、関係ないと思っていた人にも届いてほしいですね。

僕自身、色々な場面で島の話をすることが多いので、講演とかで呼ばれた時に、登壇したデスクの隣に山積みして1冊ずつ買ってもらいたいなと(笑)。

有川:

私は町内の全世帯に回覧板でまわしたい!

山下:

分かる! 僕も思ってました(笑)。

世界がシフトチェンジするために

有川:

五島は今年、小学校が3校も閉校したんです。こんなにも危機が迫っているのに、移住したいという親子に貸せる空き家をなかなかみつけられなくて、悔しくて……。

地域の人も分かっていると思うんですけど、いざ自分が空き家を貸す立場になると、ことなかれ主義になってしまいがちで。島の人は他の島のことを知る機会が少ないので、この本にある他の島の事例を知ることで何か変わるといいなと思います。

山下:

集落の会議でも、人口減少の話が出ても具体的な対策やチャレンジについては誰も語らない。若い人が少ない場所ではなかなか意見しづらいから、状況を変えていくことは並大抵の努力ではできません。

時間を割いて、いろんなものを犠牲にして動くのは本当に大変。改めて世界を変えられるゲームチェンジをしないとダメだなと思っています。ただ、世界を変えるといっても、誰かと戦って変えるのではなく、ちゃんと支持される具体的な選択肢を増やしていきたい。そして、地域側からだけでは時間がかかるので中央政府とも連携できる「シマを行き来する人」を支える仕組みも必要だと思っています。

これまではただ、人が増えていくための構造やシステムしかなかったから、人が減ることが許容されにくい。だから人口減少地域に対して「人が減るならなくなればいい」といった論理がでてくることも理解はできますが、前提条件が変われば世界は変わると思っています。

鯨本:

人口減少地域には、食糧生産を担っていたり、日本の国土を守っていたりする地域が多いので、本当になくなってしまうと都会の人も困るんですけどね……。

本当に大変だけど、人口減少の速度は想像以上なので、早めにシフトチェンジをしなければ、最終的には我々の子どもたちが大変な目に遭ってしまう。そこに気づいた者の責任として、やることだなと感じています。

シマ的発想では「騒音」も「信頼の音」にかわる

黒島:

皆さんの話を聞きながら、みんな自分のシマの悩みを語り合いながら、解決策を探しているんだなぁと深々と感じました。

夫が営んでいる麹店にはインターン生がよく来ていて、みんなが私生活を振り返りながらそれぞれのコミュニティの問題について「なんで分かってもらえないの?!」と話しているんです。この本には、その解決策もいっぱい詰まっているので、今いる組織で悩みを抱えている人にも読んでもらいたいです。

鯨本:

組織もコミュニティでありシマですもんね。

山下:

関係性の問題であれば、都会の中で、どこか満足できないけどそういう社会なんだと思い込んで生きている人に、シマ的な発想でアドバイスができますね。

例えば、その人は自分が出したごみがどこに行くのか、水や電気がどこから来るのか知らないかもしれないけれど、島の人は知っているんです。自分が歩く道をつくる土木作業員も、食べている魚を獲ってくる漁師のことも。だから、夜中に工事の音がしてもそれは騒音ではなくて「○○建設の○○兄ちゃんが深夜作業しているんだな」という信頼の音に聞こえる。

都会では色々なものやサービスがお金で買える分、人やものごととの関係性に温度がなくなってしまう。それで満足できない生き方になっているとしたら、色々な関係性に温度がある島には、関係性をデザインしなおすヒントもいっぱいあると思っています。

鯨本:

確かに。そう考えると改めて、島は希望だと思うんです。

私自身、1980年代に生まれ、どこか薄暗い雰囲気のある社会の中で絶望を感じていた時期もありました。そこでふと島で生きている人たちに出会い、その感覚にふれた時に確かな希望が見えた。

この本はそれを言語化したものでもあるので、なんだかよくわからなくなってしまった世界で、確かな希望を探す人にも読んでもらいたいです。


2024年4月20日発売『世界がかわるシマ思考―離島に学ぶ、生きるすべ』(著・世界がかわるシマ思考制作委員会/編集・離島経済新聞社/発行・issue+design/発売・英治出版/本体1,900円+税)

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「信頼は時間の関数」京大元総長・山極寿一さんと語る「シマ思考」イベント開催!

本の発売を記念し、京都大学元総長で、霊長類研究者として知られる総合地球環境学研究所所長の山極寿一さんを特別ゲストに迎え、リトケイ・鯨本あつこ、issue+design代表の筧裕介さんによる公開対談を行います。屋久島と口永良部島に長年通い続けてきたという山極さん。シマ思考の大切さ、島や小さな共同体の強みや可能性についてじっくりとお話をうかがいます。会場(京都市)からオンライン配信も行いますので、会場参加できない方もぜひお申込みください。 >> 詳細・お申し込みはこちら

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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