つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

ライフペイントアーティスト、踊絵師として国内外で活躍する神田サオリさんは、2013年より奄美群島のヨロン島で「月酔祭」というお祭りを開催しています。島との出会いや、お祭りをつくりながら感じていることについてお話を伺いました。※この記事は『季刊ritokei』10号(2014年8月発行号)掲載記事になります。

聞き手・鯨本あつこ 写真・大久保昌宏 月酔祭の写真・大月信彦

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ー神田さんの活動を教えてください。

出会いによって動かされて、育ててもらいながら受け取ったものを、自分の大好きなことでお返しするというスタンスで、「ライフペイントアーティスト」という肩書で創作をしています。その中で、今一番夢中になってやっているのが、踊り絵師としての活動で、踊りながら絵を描いています。

踊りもちゃんとしたステップを学んで踊るというよりも、感情や喜びといった自分の中で沸き立つ感情を身体で表現していて。もともと緻密な絵を描いていたんですが、自然な流れで踊りながら描くことにだんだんなってきて。いろんなミュージシャンの方とセッションするなかで得たバイブレーションに、自分の大好きなことで応えたいと思ったときに、だんだんキャンバスをはみ出して、手で描くようになって、踊りながら描くようになりました。

ーヨロン島で「月酔祭」を開催されていますが、このご縁は?

ヨロン島出身の「かりゆしバンド」という世界中を旅するご夫婦がいて、はじめて出会ったのは3年前ですが、昨年インドのお祭りで共演させてもらったんです。それまで島には私ひとりで2回くらい行ってたんですが、セッションをきっかけにもう1度行こうと思ったのが昨年の8月。かりゆしバンドのてっちゃんから「ヨロン島の自然を守りたい」という話を聞いて「外から旅行に来た私が感じたままのことを島の人たちに話して欲しい」といって観光課の方に引き合わせてくれたんです。

ーそこからお祭りの話に?

そうですね。すごく突然の流れだったんですけど、とにかくきれいなヨロンのビーチに寝転がって、満点の星をみて感動した話とか、出会った場所によって動かされて絵を描いている話をしていたら、観光課の方が急に「満月の光で描きませんか?」って言ってくださり、すぐさま「良いんですかっ?」と。その方はかなり気軽に誘ってくれて、飲み会の延長で月のある日にちょっと描くくらいいのノリで言ってくれたらしいのが、私の中でその瞬間、一気にビジョンが見えてしまって、絶対この方に歌ってもらって、この方に踊っていただこう!ってキャスティングも見えてしまい。「月酔祭というお祭りとしてやらせてくれませんか?」という話になって2ヶ月で準備して、10月19日で開催したんです。

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ー実際の「月酔祭」はどのようなものになったんですか?

ちょうど開催日の前後に大きな台風が来て、被害も大きかったのでお祭をすること自体が島の皆さんにとって嬉しいことじゃないかもしれないと思ったんです。島のみんながボランティアで島を助けているときに、お祭りに手を煩わせるのはどうなんだろうと。だけど観光課の方が「もちろんそうだけど台風は毎回やってくるものだし、台風で何かを諦めることはしたくない」と言ってくれ、開催することになったんです。

ただ、大変な状況だから大幅に告知することは控えて、入場料をいただくのも止めて、スピーカーも使わずにアンプラグドにすることにして。大変な最中で島の方がちょっとでもホッとしてくれるちっちゃな宴としてできれば十分だねという話になりました。

みんなで工夫して当日に向けて動いていたら、本番にはギフトのようなお月様が出てくれて強風だった風も当日は凪いできて……。そのうちに、島のみなさんにもお祭りをみんなでやろうという空気が広がって、ちっちゃいながらもスピーカーも「やっぱり使いましょう」って言ってくださり。当初計画していたよりもよっぽどいい形でお祭をやらせていただくことになったんです。

告知もほとんどできていなかったのに、口コミでおじいおばあも、みんなもどんどん集まって来くれて、みんなで砂の上で座り「お月様でたね」「すごいねー」と感動して。私は本当になにかに突き動かされている最中の出来事だったので、最後はお月様に感謝して大泣きしてしまって。そしたら夕焼けのときからずっと座って見ていてくれたおじいおばあの3人組が「あんたー楽しかったよ-」って声をかけてくれて「ありがとうございますー!」みたいな。なんかすごく大事なことをさせてもらったと強く思いました。

ー2013年の台風ではヨロン島の被害が大きかったんですが、それでもすごく明るいですよね。

みなさん、色々あっても外から来てくれる人に「よく来てくれたね」って迎え入れてくれる、それがすごいなと本当に思います。私は恋をしちゃった感じに近くて、今も早く行きたい。9月行けるかな、10月行けるかなって考えているんです。

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ー「月酔祭」は今年2年目でしたね。

昨年の月酔祭の終わりに、観光課の方があいさつで「来年も月酔祭よろしくお願いします」と言ってくださったんです。観光課の方たちも、みなさん喜んでくれて、来年は島の夏開きにやって欲しいというオファーを昨年末にいただいて今年もできることになりました。今年の開催は7月で、満月であることがまず大事なんですが、台風が来ないように早い時期が良いということになったのにまた台風が来たっていう(笑)。

ーそれでも満月に恵まれたんですね。

大変だったんです。1週間前から入るはずが、また飛行機全部飛ばなくて、鹿児島で待機して。当日までほんとにできるかどうかも判断できなくて、DJ機材も私の絵の具も出演者も届かないという。だけど昨年もそれを乗り越えたメンバーだったので「大丈夫!」と。結果、本当にすごく良いお月様になりました。お祭をみんなで作ることは大事なことを確認することなんだなって思いました。自然の力を改めて感じたり、感謝したり、みんなの気持ちを揃えて、自分にできる得意なことや良いものを持ち寄り合う。すごく大事な場。お祭りをつくりはじめて、今それを一番感じています。

ー大事なことですね。

 昨年の月酔祭は台風の直後で、ビーチにごみが飛び散っていたんです。それでビーチ清掃をしていたら、ホテルの方が手伝いに来てくれて、「大変だけど、台風がないと海の中もかき混ざらないし、起きたことに対してはできることをやっていくしかないんだよね」という話をしてくれたんです。それで、「こうゆうことはやっぱり楽しくやらなくちゃダメなんだよねー」って盛り上がりながら清掃して、砂を全部ふるいにかけたら、さらさらになったんです。そしたらビーチと仲良くなった気がして。自然も、やっぱり自分が本当に大好きになることが大事なんだなぁと思って。ただ盛り上がりたいからお祭りをするわけじゃなくて「ほんとにこの場所が大好き!」ということを、いろんな方向から味わうためにお祭りという機会があるんだと、その時に思いました。

ーすごく素敵です。そんな中で忘れられないエピソードはありますか?

月酔祭のお話をいただく前に、エメラルドグリーンのヨロンの海を見たくてレンタカーを借りて島を走っているときに、自分にとって大事な歌手の友達の歌がフッと頭のなかに浮かんだんです。宮良牧子さんという石垣島ご出身の方で、牧子さんの唄をこの景色を見ながら聞きたいと思ってFacebookでメッセージをしたら「会いたいね」という話になって、その時牧子さんは妊娠中だったんですが、観光課で「満月の光の下で絵を描きませんか?」って言っていただいた時に、月明かりの下でお腹の大きな牧子さんがサンゴの赤ちゃんが生まれる歌を歌っている図が、パッと浮かんじゃって。牧子さんに連絡したら「それは絶対行ったほうが良いと思うから行くね」と言ってくれて。月酔祭の当日、お月様の下で歌ってくれた彼女の歌詞がお祭りを象徴するものになりました。

“人々は祈りをこめて
命 幸あれと手を合わす
美らさ 美らさと囁いて
満月が誘った夜
よいし よいしと海が抱き
サンゴの子供達が生まれるよ”
(サンゴぬファーの物語より)

このお祭りでは全部、大事なことを確認させてもらっているんだなと改めて思いました。だから島に元々ある良さを感じてもらえるお祭りを作りたい。自分たちが砂さらいをしたときに感じた喜びを外から来た人にも感じてもらえたら、人が来れば来るほど島の自然が守られるようになる。そうなったら良いなと思います。


インフォメーション

神田サオリ沖縄&石垣LIFE PAINTツアー
2014年10月25日石垣島リゾート、26日 石垣/BAR NOBU
2014年11月3日沖縄県芸、8日 南城/天空の茶屋
詳しくはwww.saorian.comに随時情報アップします。


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  • (お話を聞いた人)

    神田サオリ(かんだ・さおり)さん
    ドバイ(アラブ首長国連邦)育ち。世界の美しさとともに日本への憧れを強烈に体験。世界中を旅しながら、場所や人との出会いに全身で感応し、エネルギーを表現し続ける。テレビCMへの出演や、Dragon Ashをはじめとするミュージシャンとのコラボレーションも多数。

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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