つくろう、島の未来

2024年12月11日 水曜日

つくろう、島の未来

東西南北3,000キロメートルに点在する島々からなる日本。そんな島国の姿を確認するために人は地図を広げます。
今回登場する小林知之さんは、ある時は「地図・地理」が大好きな地図地理芸人、ある時は地図会社の広報担当、またある時はテレビ番組の構成作家など、活躍の場は多岐に渡ります。島の魅力や楽しみ方を地図地理の観点から探るべく、小林さんに話を伺いました。

聞き手・鯨本あつこ

※この記事は『季刊ritokei』42号(2023年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

ritokei

小林さんは地図上で日本列島を見る時、どんなところにおもしろさを感じますか?

小林さん

まず、世界には「オーストラリア大陸よりも小さければ島」という定義があるので、地球上にはたくさんの島仲間がいます。島の大きさでいえば、本州も世界第7位なのでけっこう大きめの島なのです。

日本って小さな国だと思いがちですが、日本列島を動かしてヨーロッパに重ねてみると、意外と広大なことに気がつきます。

ritokei

確かに、日本列島全体だとヨーロッパを覆うくらい大きいですね。

小林さん

世界には海のない国はたくさんあるけれど、島国に住む日本人にとっては海があることは当たり前です。

けれど、都会に住んでいるとなんとなく島に住んでいる感覚は持てなくて、地図で日本列島を見て「あ、日本って島国なんだな」と思ったりしますよね。

ritokei

離島地域に住んでいる人には、島で生きる感覚が当たり前ですが、本州のように大きめな島に住んでいるとその感覚は持ちにくいですよね。

ちなみに小林さんは最近、伊豆大島(いずおおしま|東京都)に行かれていたそうで。

小林さん

はい。子どもと一緒に行ったんですが、島って単純にわくわくしますよね。船に乗ってだんだん島に近づいていくとき、宝島に行くような感覚で無条件にわくわくできる。

天候によってはたどり着けないことがあるというのも良くて、ゆっくりと船の速度で島に近づいていくと、だんだん島が見えてきて「その土地に行く!」という実感が湧いてきます。

地図を見る時も、指でなぞって距離を感じるようにしているんですが、島に行くときはそれを全身で体験できるのが、すごく楽しくて。それを子どもにも体験させたかったんです。

ritokei

良いですね!島ではどんなことを感じましたか?

小林さん

牛乳を買いに行った時に、大島にも牛がいるんだとおどろいて、その後、東京に帰ってスーパーで買い物をしていたら、淡路島(あわじしま|兵庫県)の牛乳が売っているのを見かけました。

それで島と牛乳の関係が気になって調べてみると、島で牛乳を飲みたければ牛を育てた方が良いんだ!ということに気がつきました。

ritokei

確かに、冷蔵輸送が難しかった頃は牛を育てるほかなかったわけですしね。

小林さん

それに、牛は体温が高くなると弱ってしまうので、風が当たる環境の方が育てやすいらしく、なるほど、牛は島での飼育環境に向いているんだなあと思いました。

人が暮らし、農業があり、漁業があり、畜産業がある。島は生活するために必要なものを全部抱えているわけです。

東京から島に行くと、バカンス気分で現実を忘れることもできますが、「生きる」という現実にも直面させられる、その二極がすごいと思います。

ritokei

牛乳以外ではどんな現実に直面されましたか?

小林さん

ごみ処理問題や、人手不足の問題など。お金の問題では、伊豆大島で立ち寄ったお店の人が「大島は東京都だから時給が高いんだよね」と困っていました。

大島は東京都に所属するので島でもアルバイトに高い時給を払わなければならないですね。

ritokei

離島のイベント「アイランダー」にもいらっしゃるそうですね。

小林さん

アイランダーはめちゃくちゃ楽しいですよ!地図はもらえるし、知らない島のことも教えてもらえるし。

島に興味があってもなかなか行くことはできないので、地図を見て行ったつもりになって楽しむんです。

ritokei

アイランダーのブースでは地図もよく配っていますもんね。

小林さん

(20万分の1の三宅島地図を広げながら)地図は記号でできているので、記号を読み取りながら楽しめるんです。

ここに家が建っていて、ここの人たちはこの道を通って、ここから船に乗るのだろうな〜と想像します。

ritokei

地図を眺めながら、ここは栄えそうだなとか……。

小林さん

そうそう。ここがいいかな……それともこっちかな……やっぱり湾は欲しいよね!みたいな(笑)。

ritokei

湾があると栄えますよね(笑)。地図で島を楽しむ方法がみえてきました。

小林さん

地図を読む楽しみは小説を楽しむ感覚とも近いんです。

(伊豆大島の地図を広げながら)これは1950年代の観光マップですが、こういう地図には島の人たちが「ここを見て欲しい!」という推しのポイントが記されているので、なるほどここがおすすめなんだなと想像しながら楽しめます。

持参した島の地図を広げる小林さん。地図地理の視点で楽しむ島の魅力やときめき方をたくさん教えてくれました
ritokei

(小豆島の地図を広げて)瀬戸内海も島だらけですよね。

小林さん

僕の名刺には三角点(※)の地図記号を載せているんですけど、三角点の石柱って、ほとんどが小豆島産の花崗岩なんです。

三角点は動いてはいけないので、全体の3分の2は地面に埋まっている。だから見た目よりもずっと大きいんですが、それが島でつくられているなんて驚きですよね。

※正確な位置を求める測量を行うために、位置の基準となる点の場所を示したもの。測量に使用される石柱は、国土地理院が日本全国に設置している

ritokei

小豆島(しょうどしま|香川県)には立派な湾がありますしね。地図を見ると、島でつくったものを安定的に運び出すことができたんだなと納得できます。

小林さん

日本列島はかつて、北前船のように船を使った交易をして栄えてきた歴史がありますしね。

ritokei

地図で島をなぞりながら、ここに行ってみたい!と思う島はありますか。

小林さん

島の先に大陸があるような、ここが日本の果てだと思えるような島を訪ねて、その風を感じてみたいですね。

他国は脅威ということだけでなく、歴史的にポジティブなつながりもあると思うので。

ritokei

国境の島は国境離島とも呼ばれていますが、そうした島々をつたって大陸の文化が日本に運びこまれてきた背景もありますしね。

小林さん

島には楽しいことも、ワクワクすることも、大変なことも、全部あるんだろうなと思います。

都会人は自然の脅威に備えなくても生きていけるけど、人としてちゃんと生きている感覚を持っているのが島の方々だと思います。

島では当たり前のことに、こっちからしてみると憧れる。僕が島に住んでいたら自慢したくなりますね。

ritokei

島に住む一人ひとりにとっては、地図の上でも自らの中心はそれぞれの島なんでしょうね。

小林さん

地図は自分のいるところが中心になるんです。世界地図で、日本の人は日本が真ん中にある地図をイメージするけど、アメリカの人はアメリカが真ん中の地図で、中心が変わります。

島の人にとっては島が中心で、東京に住む僕にとっては東京が中心で、周りは埼玉とか神奈川になるんです。

ritokei

とはいえ、天気予報などの簡略化された地図だと島は端折られがちです。

小林さん

天気予報はそうですね。悲しい気持ちになっている島の方も多いと思います。

ritokei

地図地理のプロの視点で、日本の島の概要やおもしろさがしっかり伝わる地図をつくれるとしたら、どんな地図をつくりたいですか?

小林さん

例えば、北海道、本州、四国、九州を外してつくるのはどうでしょう。川だけが載っている地図もあるんですが、川だけなのに日本列島が浮かびあがってみえるんです。

だから、島だけしか描かれていないんだけど、日本列島が見えてくるような地図があったらおもしろいですよね。

ritokei

良いですね。そうなると島の方々と一緒に、島に行ってみたくなるような地図をつくりたいですよね。

小林さん

島の人たちと、島の人たちにしか分からないことを盛り込んだ地図をつくれたら楽しいと思います!その島の特性に合わせた、おもしろかわいい地図をつくりたいです。

地形図だとすべて均等に表現するのですが、観光マップのような地図は、見せたいものをピックアップできるから、つくり手の意思みたいなものが出ておもしろいんですよね。

ここから着くんだ、ここに行くんだ、どう巡るんだろう、と想像してワクワクする。そんな地図をつくってみたいです。

お話を伺った人

小林知之(こばやし・ともゆき)さん
1980年東京生まれ。子どもの頃から地図にはまり、中学時代にはお笑いコンビ「火災報知器」を結成。高校時代にお笑い大会で優勝し、太田プロダクションに所属しながら大学で地理学を学び、高校社会の教職免許と地図地理検定資格を持つ異色の地図/地理芸人。ライブ、コラム、構成作家など多方面で活動。
アウトドア雑誌『ランドネ』(エイ出版)で地図コラム「机上トレッキング」を好評連載中。2021年『いつの間にか覚えてる!世界の国が好きになる国旗図鑑』刊行。2児のパパ

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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