つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

世界中を旅しながら小説を書く作家・池澤夏樹さんの作品には「島」が舞台に物語が展開していく作品も多くあります。池澤さんに「島」について伺いました。タブロイド紙『季刊リトケイ』9号に掲載されたインタビューのロングバージョンを3回に渡りお届けします。

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(聞き手・鯨本あつこ/写真・野村裕治)

住んでいる人にとっては、そこが世界の真ん中

鯨本

今号は観光特集なのですが、池澤さんの昔のインタビュー記事で「ハワイが観光地なのではなく、ハワイに観光地があると考えたほうがいい」とおっしゃっていました。それはどこの観光地も同じでしょうか?

池澤さん

ハワイの島も全部回りました。多分、ギリシャで気づいたんだな。僕は実はギリシャにいた頃、日本人観光客相手にガイドをして生活費を稼いでいてね。空港に旗を持って行って観光バスに乗せて、そうやって稼いだお金で島に行くでしょ。一応言葉がしゃべれるから、観光コースを外れられるんですよ。その方が全然面白いわけ。お決まりコースを外れると美味しいものは食べられるし、話も聞ける。ハワイもそう。ワイキキはほんの一部でしかなくて、ちょっと足を延ばせばいろんなものが見られる。

鯨本

見る人によって土地の見方は全然違いますよね。多くの人は知らないものを見に行く感覚で行くんですよね。そうすると、たとえば瀬戸内海の島も1島1島が全然違う。そういったところも見て回ると面白いですよね。

池澤さん

「中心」と「辺境」という図式で見るでしょ? 東京にいる人は中心は東京が真ん中だと思ってるし、どんな島でもそこに住んでいる人にとっては、そこが世界の真ん中なんですよ。そういう視点を持っていないと。

鯨本

自分の家を出てどこかの観光地に出掛けようとするときは、もちろん自分の家が基点なんですけど観光地に行ったときは、その場所を中心にするような視点を持ちたいですね。

池澤さん

うん。腹が立ったのは沖縄本島の南部戦跡で、各県ごとに慰霊碑があって「地の果てまで来て戦って死んだ人々」と書いてある。勝手に来たくせに「地の果て」と言うのは失礼だと。

鯨本

確かに「果て」ではないですね。

池澤さん

あんたたちが来なかったら戦争なかったよ、って。

鯨本

たくさん視点を置いたほうが良いんですね。池澤さんは今はどちらにお住まいなんですか?

池澤さん

今は札幌。沖縄とフランスで暮らして札幌に戻りました。

鯨本

フランスには島は…。

池澤さん

あんまりないね。モンサンミッシェルはあるけど陸と繋がってるから。潮が満ちると島だけどね。

鯨本

お話が右往左往してしまいましたが、最後に一言お願いします。

池澤さん

島の話、読んでください。たくさん書きましたから。


(お話を聞いた人)

池澤夏樹(いけざわ・なつき)さん
1945年北海道生まれ。世界中を旅しながら詩集や小説等を執筆。『スティル・ライフ』で芥川賞、架空の島を舞台にした作品では『マシアス・ギリの失脚』は谷崎賞を受賞。毎日新聞の連載小説『アトミック・ボックス』が2014年2月に発売された。
公式ホームページ http://www.impala.jp/

(著書紹介)

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『アトミック・ボックス』(毎日新聞社)
瀬戸内海の島で生まれ育った娘が、知らない顔を持っていた父親の罪を負って、島から島へ逃げるポリティカル・サスペンス。「核」をテーマに震災後に書かれた話題作。

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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