つくろう、島の未来

2025年03月12日 水曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。 今回は、地域の未利用資源を活用し新たな食ブランドを生み出すリファインホールディングスが登場。 屋久島の 「縄文牛」 をブランド化する皆さんに話を聞きました。

※この記事は『季刊ritokei』47号(2024年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・ritokei編集部 撮影(メイン)・中島遼  写真提供・リファインホールディングス

右からリファインホールディングスの屋久島事業アドバイザーで 「登山用品レンタルの山下」 を営む山下敏正さん、 食のリファイン推進室の責任者 牧野敬一さん、 屋久島現地スタッフとして働く藤山海里さん、 食のリファイン推進室の横井瑚子さん

畜産の課題解決にも貢献する屋久島生まれの 「縄文牛」

屋久島といえば縄文杉が有名だが、最近は「縄文牛」という新たな特産品が話題になっている。一般的に価値が低いとされる経産牛に、焼酎かすや果実加工品の未利用部分などの副産物を配合した発酵飼料を与えて肥育することで、おいしいブランド牛に育て上げる。この開発を手掛けるのがリファインホールディングスだ。

屋久島で登山用品のレンタルやリバーカヤックツアーを行う山下敏正さんは約15年前、縁あって知り合った同社の川瀬泰人社長から、屋久島の母牛と未利用資源で事業ができないかと相談を受けた。

そこで牛を飼っていた知人や焼酎蔵などに声をかけながら同社と繋ぎ、独自配合の飼料開発をサポートしてきた。捨てられていた未利用資源の活用は、人にも地域にもやさしい。

その上で山下さんは「牛の飼い主も、以前は価格が不安定な上、飼料の価格が高騰し牛飼いを止めようとしたこともありましたが、同社と提携後は安定しつつあるそうです。新たな特産品を確立できれば、島に貢献したことにもなる」と期待する。

縄文牛は味にも定評があり、試食した人の評価も高い。「餌づくりに自信がつきました。私自身も特に脂身がおいしいと感じています」(山下さん)。

未利用資源から生まれる地域の可能性と誇り

同社の主な事業は、化学系有機溶剤のアップサイクル。それがなぜ食を中心とした事業に取り組むことになったのだろうか。

「これからは消費社会に対してサービスを提供するような事業だけではなく、人の生活に寄り添った事業をしたいと考え、いくつかの研究や企画をしていました。そこで社長が日本の食糧自給率の低さを危惧していたこともあり『食』に着目しました」と話すのは、食のリファイン推進室の室長・牧野敬一さんだ。

2019年には宮城県南三陸町で、廃棄されるワカメの茎を活用した発酵飼料をつくり、羊を育てた。飼料販売だけでは事業の成立が難しかったため、屋久島では飼料開発から牛の肥育、ブランディング、精肉販売までを事業化した。

この経験を転用し、奄美群島の沖永良部島でも経産牛に独自開発の飼料を与え、付加価値の高い食肉としての販売を目指し取り組んでいる。「合理性を求めて世の中の製品が生み出されている中で、島には使われていない資源が色々と埋もれている。それを活用できるのは地球や環境にとって良いことだと思います」(牧野さん)

屋久島出身で現地スタッフとして同社に勤める藤山海里さんは 「以前は島のことがあまり好きではありませんでした」と話す。「島を出たくて島外の高校へ進学したら 『屋久島?!』と羨ましがられることがあって。Uターンしてからは、世界中の人が屋久島に憧れ訪れていると知り、すごい島なんだと感じました。島の子どもたちには誇りを持って外に出ていけることを伝えたいです」。そんな藤山さんも今や屋久島の新たな誇りをつくるひとりだ。

事業推進のポイントはお金では買えない信頼

「縄文牛」は地元の人々と企業との連携により実現した事業だが、そこには大きなポイントがあった。

藤山さんは「山下さんがいなければ、この事業は始まりませんでした。島特有の信頼関係は、どんなに大金を積んでも手に入らないもの。山下さんという中心人物から声をかけることができたから、他の方も協力してくれたんです」と語り、牧野さんも「良くも悪くも親しき中にも礼儀あり。関係性は目には見えないので、島の皆さんの意見を尊重しながら関わらせてもらう。地域の価値観を大事にできるよう意識しながら活動しようと心掛けています」と語った。

企業が持つ先端技術と島の人や環境を活かし、その地域に合った食の循環を形にする。こうした事業がさまざまな島で展開されることを願いたい。

リファインホールディングス株式会社
1966年、 有機溶剤の再資源化を目的に設立。 持続可能な社会を実現させるため、 「資源」 「環境」 「こころ」のリファインを事業とし、 社会に貢献。 「縄文牛」 の開発は天然資源循環事業として展開

     

関連する記事

ritokei特集