つくろう、島の未来

2024年12月08日 日曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画です。今回は、自社のサービスを軸に、離島医療の明るい未来に向けて活動するアンター株式会社の中山俊さんに取材。現役の整形外科の医師ながら、医療の現場をつなぐプラットフォームづくりに尽力し、多くの医師たちを支えています。

※この記事は『季刊ritokei』40号(2022年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

取材・小野民 写真・牧野珠美(メイン)

アンター株式会社 代表取締役 中山俊さん。社名のAntaaは、フィンランド語で「与える」の意。

24 時間相談から始まった 医者同士のオンライン相互扶助

「Antaa QA」は、2017年にアンター株式会社がサービスを開始した医師同士が診療についての相談をオンライン上でやりとりできるサービスだ。

登録者はうなぎ登り。特にコロナ禍では、医療の知識をブラッシュアップする研修会等の機会が減ったため、「Antaa QA」の相談だけでなく、勉強会やセミナーのスライドを共有する「Antaa Slide」や動画サービス「Antaa Channel」などのサービス需要も増し、現在では延べ50,000人の医師が利用している(2022年10月時点)。利用料は原則無料。会社の収益は自治体や製薬企業等へのコンサルティングなどで得ている。

今では質問と返答が数多く飛び交うQAのサービスだが、当初は協力してくれる医師を探すのも大変だった。「24時間専門分野である整形外科の質問を受け付けて、寝ている時でも通知が来れば飛び起きる生活を続けました」と語る中山さんは、予想以上の相談件数にサービスが求められていることを確信。

「ただ『協力して』じゃなくて自分が与える側になることで、『じゃあ私も』と名乗りを挙げてくれる医師が増えていきました」と振り返る。

海士町で協定締結「離島医療会議」始まる

中山さんは奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)出身で、離島医療の課題を常に身近に感じてきた。「会社を立ち上げる時に、離島で役立つサービスを育てたい想いがありました。アンターの利用者は20〜30代が中心ですが、中には離島勤務の医師も含まれています」(中山さん)

都会の大病院では診療科の細分化が進むが、離島医療では1人の医師が島民みんなの健康を司り、あらゆる病気やケガを見ることも珍しくない。また、島内に十分な設備が揃わない場合も多い。

「ある島で、胸の痛みを訴える患者の診察を担当した医師がQAに質問を投げかけたことがありました。20分後には複数の専門医から助言を得て、心筋梗塞の予測が立ち、ヘリコプターで搬送。大病院で緊急手術ができたんです。陸続きに頼れる医師がいない状況でこそ、我々のサービスが役立った例のひとつです」と中山さんは言う。

2019年には、アンターのサービスに着目した隠岐諸島(おきしょとう|島根県)・海士町と協定を締結し、離島医療の持続的な体制構築を目指している。同町と共に「離島医療会議」をはじめとした離島医療を考えるイベントを開催するなど、行政の協力も得ながら離島医療について考える基盤づくりを進めている。

テクノロジーを組み合わせて未来の医療を変えていく

離島地域の多くは地理的な制約や過疎化などに直面しているが、だからこそ、全国に先駆けて先進的な医療にチャレンジできる。アンターの他、「離島医療会議」に参加したベンチャー企業のテクノロジーを掛け合わせれば、課題解決の糸口も見つけられるはずだ。

「島民の人生に寄り添う離島医療に従事することは、自分の成長にも繋がりますし、魅力を感じる医師もいます。志を持って離島医療に携わる人が抱きやすい過度な負担やプレッシャーを、アンターのサービスによって軽減できたらうれしい」と中山さん。

さらに「医師の現場に必要なのは働き方改革。特に喫緊の課題として迫る離島のニーズを汲み解決することから、日本全体の医療現場にもいい影響を与えていけたら」と続ける。

今後は、提携する病院や自治体と組んで、アンターのサービスを利用する医師が活躍する機会創出も行っていく考えだ。中山さんの「与える」心意気から出発したプラットフォームは、テクノロジーの追い風も得て、今、離島医療の希望にもなろうとしている。


中山俊(なかやま・しゅん)さん
奄美大島出身。鹿児島大学医学部を卒業後、2011年東京医療センター初期研修医。成田赤十字病院整形外科、翠明会山王病院整形外科を経てアンター株式会社を設立。東京医科歯科大学客員准教授。

【関連サイト】
アンター株式会社
ミッションに「医療をつなぎ、いのちをつなぐ」を掲げ、医者同士がオンライン上でQ&Aをやりとりするプラットフォームをはじめとする、支え合い、学び合うサービスを提供している。

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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