つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、新潟からフェリーで150分の日本海に位置する佐渡島(さどがしま|新潟県)を舞台に、割烹着に姉さん被りスタイルで独自の表現を行う覆面音楽ユニット「婦人倶楽部」のプロデューサー・ムッシュレモンさんに、佐渡島との出会いや音楽制作についてお話を伺いました。

※この記事は『ritokei』22号(2017年11月発行号)掲載記事になります。

文・石原みどり 写真・渡邉和弘

「佐渡へおいでよ」の広告に惹かれ、ふらりと島へ

神奈川県で育ち、会社員として働きながら作曲活動を続けていたムッシュレモンさんは、2012年に音楽ユニット「カメラ=万年筆」の名で1stアルバムを発売。翌年、音楽活動に専念するために会社を退職し佐渡島(以下、佐渡)を目指した。

レモンさんが佐渡を選んだ理由は、山手線の車内で見かけた中吊り広告。「佐渡へおいでよ」の言葉に、静かな場所に篭り音楽修行をしたいと願っていた心が共鳴した。

島へ渡り山間部の集落に居を定めると、早速近所の方々が米や野菜を差し入れてくれたという。レモンさんも農作業の手伝いに汗を流して島の方々と親しくなり、山へ山菜採りに出掛けることも。そんな日々のなか、レモンさんは島内の若手住民が集まる場で、ある主婦たちに出会った。

島の暮らしを第一に「婦人倶楽部」結成

音楽好きという主婦たちは、台湾に遊びに行こうと旅行を計画中だった。その時期、現地では小さな音楽イベントが開催予定で、茶飲み話のなか「私たちもバンドをやってみたいね」という一言が飛び出すと、レモンさんは佐渡の暮らしをテーマに4曲を作詞作曲。2014年7月に「婦人倶楽部」として初の海外公演を果たした。

台湾公演の様子

仲間内の遊び感覚で始まった「婦人倶楽部」だったが、台湾での初ライブは好評を博し、帰国後に3曲入CDを制作し、アートワークを佐渡島の少女を撮影した『未来ちゃん』などの作品で知られる写真家・川島小鳥さんに依頼。東京のタワーレコード新宿店と渋谷店で限定販売すると1,000枚が完売した。その後は三越伊勢丹の夏のクリアランスセールCMソングに抜擢されるなど、多くの注目を集めた。

しかしながら、「婦人倶楽部」のメンバーは全員が佐渡在住の一般人。婦人A・B・C・Dと黒子の5名は「あくまでも島の暮らしが第一」とのことで、名前や顔写真などは公表せず活動を続けている。

(c)川島小鳥

作詞作曲は全てレモンさんが担当。佐渡名物の「たらい舟」に乗り遠くへの旅を夢想する『たらい舟に乗って』や、四季折々の島の味覚を歌い上げる『グルメ紀行』など、島の身近な暮らしから生まれる叙情が曲のモチーフとなる。

島内に録音スタジオなどはないため、婦人たちのボーカル録音はメンバーの自宅や地域の公民館を借りて行う。さりげなく野鳥の声が入り込んだりしているのもご愛嬌。子どもをあやす際は録音を中断して休憩するなど、アットホームな雰囲気で制作を進めているという。

佐渡汽船の船長も推薦 アルバム「旅とフェリー」

(c)川島小鳥

2017年7月に発売したアルバム『旅とフェリー』は、表題曲が新潟〜佐渡間を結ぶ佐渡汽船の公式テーマソングに採用され、船長の推薦盤としても認定された。

婦人たちとフェリーで行く楽しい船旅を疑似体験できるようなプロモーション映像が制作され、港や船内ではアルバムジャケットをあしらったポスターが貼られ、曲も流された。

新潟港でのポスター展示風景

都会で話題になったものの、まだまだ佐渡では音楽好きの若者など一部の人のみが知る存在だった「婦人倶楽部」は、このキャンペーンを機に地元でも広く知られるようになった。島外のメディアでも取り上げられ、佐渡を訪れた旅行者らがSNSで発信するなど、レモンさんやメンバーは反響の大きさを感じているという。

楽曲やPVを通し感じてほしい島暮らしの魅力

「佐渡で婦人たちが営む普通の暮らしがおしゃれだと思う」とレモンさんは語る。島内で撮影された映像には、農作業用の軽トラや民家の軒先に下がる干し柿、婦人たちの買い物風景など、島の日常がカラフルに描かれる。そこに流れる楽曲にはレモンさんが島に暮らしながら感じた佐渡の魅力がポップで愛らしいお洒落サウンドへと昇華され、キラキラと輝いている。

PV「たらい舟に乗って」より

「『婦人倶楽部』は佐渡で暮らした経験から生まれた表現。他で同じようなことはできない」と話すレモンさん。その心には、佐渡の婦人たちのように、自然体で暮らしを楽しむ人々の表現が各地から生まれ、地方発のカルチャーが盛り上がる未来が描かれている。


プロフィール/
ムッシュレモン(佐藤 望)
神奈川県出身。2013年夏から1年間佐渡島で暮らし、島で出会った婦人らと2014年に「婦人倶楽部」を結成。作詞作曲プロデュースを担う。

婦人倶楽部
佐渡島の婦人ABCDと黒子による覆面ユニット。2017年夏、アルバム「旅とフェリー」のビジュアルと音楽が佐渡汽船のキャンペーンに起用され、島内外で話題に。

【関連サイト】

婦人倶楽部

離島経済新聞 目次

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