「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回登場するのは、一般社団法人離島振興地方創生協会の理事長であり全国スーパーマーケット協会の副会長も務める千野和利さん。その手腕を活かして手掛ける離島振興の取り組みについて伺った。
※この記事は『季刊ritokei』34号(2021年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
取材・小野 民
お話を聞かせてくれた一般社団法人 離島振興地方創生協会 千野和利さん
長崎県との縁がつながり初めての島巡りへ
新卒で阪急百貨店に入社してからおよそ半世紀。千野和利さんは、小売業の最前線に身を置き続けてきた。2019年に70歳で阪急オアシスの代表取締役会長兼社長を退任。直後から、阪急オアシス時代にパートナーシップ協定を結んでいた長崎県のシニアアドバイザーを務めた。
長崎といえば日本一多くの有人離島が集まる島嶼県である。まずはその目で地域の実情を確かめるべく、初めて島を巡った千野さんは、農業、漁業、6次産業の生産現場を目の当たりにし、想像以上に疲弊している現状を実感したという。そこで離島振興へ長期的に力を注ぐことができるよう、一般社団法人 離島振興地方創生協会(以下、愛称のJAPAN FOOD ISLANDの略でJFI)を自ら設立した。
「総合的なコンサルティングチームをつくって、各地の生産者、行政、民間企業と協力して地方創生に寄与したい」。そんな千野さんの想いに共感した多くの企業や団体からの賛同も得ながら、2020年4月にJFIは東京に事務所を構えた。
月一の島通いで見えてきた地方創生に必要な重点政策
折しも法人のスタートとコロナ禍が重なった今年は、事業もさぞ混迷を極めそうなもの。しかし千野さんに聞けば、「前年に長崎県のシニアアドバイザーとして月に1回島に通って、やるべきことを考えておいたことが功を奏しました。重要政策として、『バリューチェーンの構築』『生産基盤の整備』『生活基盤の整備』への取り組みに集中したことで、実は当初の計画より先に進めた感覚があるんです」と言う。
JFIの理事には、食品販売業界や各省庁のOBなど経験豊富な人材が名を連ねるが、かけだしの団体ではある。「いかに島の魅力を発信していくか。マンパワーは限られますが、出張にカメラマンを同行させて生産現場を撮影し、我々が取り組んでいることをウェブサイトで時差なく発信しています」
東京から長崎までは約1,200キロメートル。まずはどんなところなのか知ってもらうことが重要だと考えての戦略でもある。島で直接耳にしてきた生産者の想いや、人々の魅力的な笑顔や風景があふれるJFIのウェブサイトは、ぜひとものぞいてみてほしい。
離島から先進事例を 営みを支える草の根の取り組み
ウェブサイトに並ぶ「カタチになったこと」というコンテンツを見ると、五島列島(ごとうれっとう|長崎県)のキビナゴやサツマイモを使った冷凍食品の商品化をはじめ、島産品フェアを複数実現させるなど1年に満たない期間ながら着実な実績が積み上がっている。
「印象深いのは、JFIの正会員でもある株式会社サンクゼールが開設した『久世福e商店街』。産直型のeコマースを始めるにあたり、島の産品を目玉にしたいと考えてくださり、一緒に島を回り、40ほどの生産者を訪ねました。目利きのバイヤーが現場で商品価値を認め、直接商談をする。その経験を島の人たちが喜んでくれたのです」
島であることをハンデとせず、今後はアメリカや東南アジアなど、世界への販路拡大にも着手していく予定というJFI。同時に行政や教育機関と共に、生産者、特に若手の経営者を育てる「五島夢プロジェクト」にも着手しているが、そこにはJFIの多彩な会員たちの協力が欠かせない。直近では、銀行員による事業計画書の書き方講座も企画されている。
重点戦略の1つになっている離島地域における「生活基盤の整備」にも、通信、エネルギーをはじめとした130社を超える会員団体の存在が、明るい展望を抱かせてくれるようだ。
「長崎の離島でプロトタイプをつくることができたら、次は奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)へ、いずれ全国の離島地域、地方へと水平展開していくことが目標です。私の仕事の集大成として、腰を据えて取り組んでいきたいですね」
千野和利(せんの・かずとし)さん
昭和47年大学卒業後、㈱阪急百貨店に入社。平成11年取締役、同13年㈱阪急オアシス代表取締役社長、同29年代表取締役会長兼社長を経て、令和2年4月より現職。一般社団法人全国スーパーマーケット協会の副会長も務める。
【関連サイト】
一般社団法人 離島振興地方創生協会
「『離島振興』と『地方創生』を目指し、日本を豊かな『食列島』にする」という目標を掲げ、2020年4月に設立。さまざまな業界の有識者が理事として参加し、総合コンサルティンググループとして実績を積んでいる。正会員71社、賛助会員63社(2021年1月時点)の会員が参加し、その分野も多岐にわたる