新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。
「撮影会」必至。珍味中の珍味
その料理が観光客のテーブルに運ばれると、例外なくどっと歓声が沸き起こります。
興味津々な眼差しで口先から尾びれまでじっくり観察された後は、スマートフォンでの「撮影会」がお決まりの流れ。
長崎県・五島列島を代表する漁師めし。それが、ハコフグのみそ焼き「かっとっぽ」です。
目に焼き付くその姿
かっとっぽの最大の特徴は、やはりそのインパクトあふれる外見でしょう。
材料となるハコフグは、とても個性的。魚なのにほぼ全身が固い甲羅で覆われ、その外見はまさに箱。お魚博士「さかなクン」のトレードマークでもある帽子のモデルとしてもおなじみです。
すねたようなおちょぼ口に、小さなひれでせわしなく泳ぐ姿は愛らしく、観賞魚としても人気です。
ですが、珍妙な姿に進化してしまったのが運の尽き。ひっくり返しても座りがいいので、そのままお腹の皮を四角く切り取って内臓を取り出し、体を「食べられる器」として利用されるはめになってしまいました。
だれがこんな食べ方を発見したんでしょう。漁師めしらしく豪快というか、遊び心満載というか、無駄がないというか……。ちょっぴりかわいそうな気もします。
写真提供:五島ダイビングセンター・ナイスばでぃー
真の魅力は味にあり
外見にばかり注目が集まりがちですが、かっとっぽが五島で愛されてきた理由は、何といっても味の良さにあります。
旬は秋から冬。空っぽにしたお腹に、みそや刻んだネギなどを詰め直し、お好みで酒やみりんを加え焼き上げれば完成。
甲羅の内側の身を箸でこそぎながら、みそとよく混ぜていただきます。これが絶品。
プリプリの身に甘みのある香ばしいみそがマッチして、濃厚なうまみが口に広がります。
めしの共によし。酒の肴によし。五島に来て、かっとっぽを食べない手はありません。料理屋でのお値段は、1匹1,500円前後です。
元々はキモを使った調理法が主流でしたが、肝臓を含む食用部分に毒性をもつ個体が現れたため、かっとっぽの材料として親しまれてきた肝臓(※)は、現在食用が禁止されています。素人調理は危険なので、絶対にやめましょう。
※ハコフグは、食品衛生法により「筋肉」と「精巣」のみが可食部位として定められています。
地元にあふれるエピソード
今回、五島の漁師さんなどにかっとっぽの話を聞いて回ったところ、いろいろなエピソードに出会うことができました。
「初めて島に来た客には、かっとっぽを出して驚かせるんだ」
「うちでは『大人の食べ物』でね。子どもの頃は食べさせてもらえなかったから、かっとっぽの火の番をするふりをして、お腹に指を突っ込んでなめたなあ」
「泳いでいるハコフグをモリで突いたりして、遊びながら獲ったのを食べた」
「頭が悪い奴は『このかっとっぽが!』と言われていたらしい」(内臓が大きく外見のわりに身が少ないため?)
話題は尽きず、みなさんとても楽しげに話してくれました。地元で愛され、長い間食べ続けられているからこそ、いろいろな逸話が生まれるのでしょう。
五島でかっとっぽを食べる際は、姿や味を楽しむだけではなく、地元の方の話にも耳を傾けてみてはどうでしょうか。