つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

「撮影会」必至。珍味中の珍味

その料理が観光客のテーブルに運ばれると、例外なくどっと歓声が沸き起こります。

興味津々な眼差しで口先から尾びれまでじっくり観察された後は、スマートフォンでの「撮影会」がお決まりの流れ。

長崎県・五島列島を代表する漁師めし。それが、ハコフグのみそ焼き「かっとっぽ」です。

目に焼き付くその姿

かっとっぽの最大の特徴は、やはりそのインパクトあふれる外見でしょう。

材料となるハコフグは、とても個性的。魚なのにほぼ全身が固い甲羅で覆われ、その外見はまさに箱。お魚博士「さかなクン」のトレードマークでもある帽子のモデルとしてもおなじみです。

すねたようなおちょぼ口に、小さなひれでせわしなく泳ぐ姿は愛らしく、観賞魚としても人気です。

ですが、珍妙な姿に進化してしまったのが運の尽き。ひっくり返しても座りがいいので、そのままお腹の皮を四角く切り取って内臓を取り出し、体を「食べられる器」として利用されるはめになってしまいました。

だれがこんな食べ方を発見したんでしょう。漁師めしらしく豪快というか、遊び心満載というか、無駄がないというか……。ちょっぴりかわいそうな気もします。

写真B

写真提供:五島ダイビングセンター・ナイスばでぃー

真の魅力は味にあり

外見にばかり注目が集まりがちですが、かっとっぽが五島で愛されてきた理由は、何といっても味の良さにあります。

旬は秋から冬。空っぽにしたお腹に、みそや刻んだネギなどを詰め直し、お好みで酒やみりんを加え焼き上げれば完成。

甲羅の内側の身を箸でこそぎながら、みそとよく混ぜていただきます。これが絶品。

プリプリの身に甘みのある香ばしいみそがマッチして、濃厚なうまみが口に広がります。

めしの共によし。酒の肴によし。五島に来て、かっとっぽを食べない手はありません。料理屋でのお値段は、1匹1,500円前後です。

元々はキモを使った調理法が主流でしたが、肝臓を含む食用部分に毒性をもつ個体が現れたため、かっとっぽの材料として親しまれてきた肝臓(※)は、現在食用が禁止されています。素人調理は危険なので、絶対にやめましょう。

※ハコフグは、食品衛生法により「筋肉」と「精巣」のみが可食部位として定められています。

地元にあふれるエピソード

今回、五島の漁師さんなどにかっとっぽの話を聞いて回ったところ、いろいろなエピソードに出会うことができました。

「初めて島に来た客には、かっとっぽを出して驚かせるんだ」

「うちでは『大人の食べ物』でね。子どもの頃は食べさせてもらえなかったから、かっとっぽの火の番をするふりをして、お腹に指を突っ込んでなめたなあ」

「泳いでいるハコフグをモリで突いたりして、遊びながら獲ったのを食べた」

「頭が悪い奴は『このかっとっぽが!』と言われていたらしい」(内臓が大きく外見のわりに身が少ないため?)

話題は尽きず、みなさんとても楽しげに話してくれました。地元で愛され、長い間食べ続けられているからこそ、いろいろな逸話が生まれるのでしょう。

五島でかっとっぽを食べる際は、姿や味を楽しむだけではなく、地元の方の話にも耳を傾けてみてはどうでしょうか。

     

離島経済新聞 目次

【島Column】うまいぞ五島

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章の島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。2015年、長崎県・五島列島の新上五島町に「地域おこし協力隊」として移住し活動中。趣味は釣り。

関連する記事

ritokei特集