新上五島町(しんかみごとうちょう)地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。
ふっくらフワフワ
長崎県・五島列島の北部にある新上五島町。中通島(なかどおりじま)、若松島(わかまつじま)など7つの有人島からなるこの町には、昔から食べ継がれてきたまんじゅうがあります。
その名も「ふくれまんじゅう」。「ふくれもち」とも呼ばれます。
小麦粉に卵などを混ぜ、練り上げて丸く平らに広げたあと、あんこをのせて包みます。島に自生しているサルトリイバラという植物の大きな葉っぱの上に載せ、蒸籠(せいろ)でふっくらと蒸し上げればできあがり。
とてもシンプルで素朴。ですが、はむっと口にしたときのフワフワ感、どっしりと甘みがあるあんこは飽きが来ないおいしさがあり、島人に根強い人気があります。
この「ふくれまんじゅう」が島に根付いた背景には、実はカトリック弾圧の歴史があると言われています。
「聖体」に見立てて食べられていた?
新上五島町は人口約2万人。4人に1人がカトリック信者で、現役の教会が29もあります。
その昔、五島地域には、禁教による弾圧を逃れカトリック信者が本土からたくさん移り住みましたが、島においても信仰を隠す「潜伏」生活を余儀なくされました。
カトリックでは、ミサなどの祭儀でキリストの「体」である「パン(=聖体)」が神父の手で信者に与えられますが、禁教期は神父が島におらず、ミサを開くことは叶いませんでした。そのため、信者は「魂の糧」とも言われる「聖体」を口にする事ができませんでした。
そのような厳しい環境のなか、信者はパンと同じムギを原料とする「ふくれまんじゅう」をつくり食べることで、「聖体」を口にしたような気持ちになっていたのではないか―とも言われています。
島の加工所を引き継ぐIターン者
新上五島町で、今年に入り「ふくれまんじゅう」づくりに励んでいるIターンコンビがいます。それが岡本幸代さん(34)と竹内紗苗さん(33)。
2人は、島の既存の加工所を引き継ぐ形で事業に乗り出す予定ですが、「ふくれまんじゅう」を主力商品のひとつと位置付けています。
今夏、まんじゅうをつくり始めたばかりの頃は、ふくらみすぎて大失敗。悪戦苦闘しながらも、めげることなくサツマイモやスモモをあんに使った新商品開発に挑戦するなど意欲に燃えています。
加工所を運営し、2人にまんじゅうづくりを指導している海辺逸子さん(57)と山添康子さん(66)も、最近では「2人のまんじゅうは、もう完璧! 安心して任せられます」と太鼓判です。
「祈りの島」の文化 絶やしたくない
お祝い事の際につくられることが多いふくれまんじゅうですが、今では家庭でつくられる機会もめっきり減ってしまいました。
岡本さんと竹内さんはカトリックではありませんが、カトリックと深い関わりがあり、「祈りの島」とも呼ばれる新上五島町の歴史を伝えるふくれまんじゅうの文化が薄れていくことを心配しています。
竹内さんは言います。
「島には、島の歴史を物語る食文化がいくつもあります。ふくれまんじゅうも、その一つ。私はこの島が好きで、島の大切な文化がなくなると残念です。祈りの島の文化を伝えるため、これからもふくれまんじゅうをつくっていきたいと思っています」