つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

新上五島町(しんかみごとうちょう)地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

パンチのきいたネーミング

「あごんちょび」
まず、どうしても気になるのが、この商品名。

初めて耳にする言葉。なのに、どこかで聞いたような気もします。

あごんちょび、アゴンチョビ、チョビ……!? アンチョビ?

そうです。
あご(トビウオ)でつくったアンチョビだから、あごんちょび。五島列島(ごとうれっとう|長崎県)北部の新上五島町にある「虎屋」(南慎太郎社長)が開発した、島の新たな特産品です。

素材は島の宝物

あご、ツバキ油、海塩。

あごんちょびには、新上五島を代表する3つの島素材が、ぎゅっと詰め込まれています。これらの素材、島ではとても平凡なもの。でも、そのありふれた3つを組み合わせることで、これまでになかった逸品が生まれました。

まず3枚におろしたあごを肝と一緒に塩漬けし、熟成。塩抜きしたあと、ツバキ油とオリーブオイルをミックスした油と一緒に瓶詰めすれば完成です。

すべての工程が手作業。完成まで約3カ月半を要します。

イワシを原料とし、塩味が強く調味料的な使われ方をするアンチョビに比べ、味はとてもまろやか。ミネラル豊富な自慢の自家製海塩を使っていることに秘密がありそうです。また、あごを使うことで、魚の旨みがよりこってり濃厚に。味に深みをもたらしました。

その発想の斬新さや高い品質が評価され、「平成27年度 むらおこし特産品コンテスト」(主催:全国商工会連合会)では、最優秀賞にあたる経済産業大臣賞を受賞。一気に全国区へと駆け上がりました。

パンやクラッカーにのせてそのまま食べたり、パスタに使ったりと「洋風」が定番。けれども、白米にシソやゴマと一緒に合わせた「和風」混ぜご飯も捨てがたい……。

料理人や主婦の手によって、レシピはどんどん広がりを見せています。
お値段は、1瓶1,296円(税込)です。

虎屋を導く創業者理念

虎屋を引き継ぐ南こころさん(左)と南慎太郎さん(右)

虎屋は約30年前、五島うどんの製麺所として産声を上げ、のちに製塩業にも乗り出しました。

創業者は、3年前に他界した犬塚虎夫さん。家族のあり方や島暮らしに独自の哲学を持っていた方で、その一家の暮らしぶりは、テレビのドキュメンタリー番組になり、さらに映画化されたことでも知られています。

虎夫さんが亡くなった後、長女・南こころさんと夫の慎太郎さんが虎屋の舵取り役を担うようになりました。

島の自然や恵に、寄り添って生きることを愛した虎夫さん。その理念を引き継ぎつつ、虎屋の新たな看板となる島の特産品をつくりたい。そんな思いを出発点に誕生したのが、あごんちょびでした。

小さな瓶にあふれる思い

東シナ海に浮かぶ離島の小さなお店が、2年がかりで開発したあごんちょび。発売までの長い道のりの沿道には、たくさんの人が声援を送る姿がありました。

インパクトあるネーミングづくりに知恵を出した慎太郎さんの恩師。試食を重ね、あれこれ意見を出してくれた島の人。試作品づくりをお手伝いした南さん夫婦の子どもたち―。商品がヒットしたとき、応援してくれた多くの人が、自分のことのように喜んでくれたといいます。

あごんちょびの小さな瓶には、島の3つの宝物だけじゃなくて、かかわったたくさんの人々の思いが、たっぷりと詰まっていました。

     

離島経済新聞 目次

【島Column】うまいぞ五島

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章の島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。2015年、長崎県・五島列島の新上五島町に「地域おこし協力隊」として移住し活動中。趣味は釣り。

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