内閣府は、4月に施行された「有人国境離島地域保全特別措置法」で「特定有人国境離島」に指定された島々を対象に、特措法に基づく交付金を活用し、活魚を築地市場へ出荷する実証実験を実施。6月から出荷が始まった。実証実験に参加する、長崎県新上五島町(しんかみごとうちょう)の上五島町漁業協同組合の担当者らに話を伺った。
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築地市場での競りの様子(画像提供:新上五島町観光物産協会)
「活魚」は収益を圧迫する高い輸送コストが課題
長崎県の五島列島(ごとうれっとう)海域は黒潮の通り道にあり、豊富なプランクトンを求めて魚が集まる好漁場である一方、漁師の高齢化による漁獲量の減少が課題となっている。
新上五島町の上五島町漁業協同組合では「五島箱入り娘」など魚を締めてから出荷する「鮮魚」のブランド化に加え、生きたままの魚を市場まで届ける「活魚(かつぎょ)」も取り扱っている。
水揚げした魚を生きたままの状態で市場へ届ける活魚は、セリにかかるまでの間に尾やヒレのスレなど魚の傷みが発生しやすいことや、海水に漬けた状態での輸送が必須となるため、長距離の場合は特に、輸送コストの高さが収益を圧縮してしまうことが課題となっていた。
上五島町漁業協同組合の入山博人さんは、「活魚は主に福岡や関西、長崎の市場に出していますが、輸送コストが大きいため、市場に電話をしてその日の相場を確かめ、漁師さんに情報提供をして活魚として出荷して見合うかどうかを判断してもらう。市場・漁協・漁師の三位一体のつながりが大切なのです」と語る。
特措法で輸送コストや事業経費をカバー
内閣府は、こうした活魚の輸送コスト軽減を図るべく、今年4月に施行された「有人国境離島地域保全特別措置法」を受け、国境離島地域の活魚を東京の築地市場へ流通させる実証実験を計画。上五島町漁業協同組合も、この実証実験に参加することになった。
特措法に基づく交付金を活用すると「生鮮農水産物の輸送費の80パーセント」や「新規創業や事業拡大にかかる経費の75パーセント」が補助される。実証実験では、交付金を活用した流通の仕組みづくりを目指し、離島地域から築地市場への長距離輸送上の課題が検証された。
実証実験では、複数の産地で獲れた魚を取りまとめて築地市場に送る「活魚ネットワーク」を構築。上五島、下五島、壱岐、対馬を合わせた長崎4島と、種子島(たねがしま)、屋久島(やくしま)を合わせた鹿児島2島、佐渡島(さどがしま|新潟県佐渡市)を、それぞれ築地市場と結んだ。
各島から届く活魚コンテナを、長崎4島は福岡市場で、鹿児島2島は鹿児島市場で取りまとめ、築地市場まで混載して輸送することでコスト圧縮を図る。各島からの海上輸送費は、特措法に基づく交付金で費用を軽減する。
築地市場に運ばれた活魚。魚種とともに島名も表記される(画像提供:新上五島町観光物産協会)
6月2日、新上五島町から築地市場へ向けた活魚の初出荷が行われた。新上五島町では、上五島町漁協から声のかかった漁師らが、この日に向けて相場の高い魚種を中心に約90kgを生簀(いけす)に集め、活魚コンテナで出荷。漁協のある中通島(なかどおりじま|長崎県上五島町)から博多港まで定期フェリーで運ばれた活魚は、港でトラックに積み替えられ、活魚車で築地市場に届けられた。
入山さんは、活魚出荷には生きた魚を届けるが故の難しさもあると語る。「通常我々は水揚げ状況に応じて活魚出荷を行いますが、今回の実証実験では出荷日に合わせて魚を用意する。水揚げ当日に出荷する活魚と、数日ずれた活魚では?……違いが想像できるでしょう」。
また、島から送り出した先の魚の扱いについては、船会社や運送会社を信用して任せるしかない。入山さんは、「今回の流通面においては地元の船会社が気を配って丁寧に取り扱ってくれたが、他の会社ではなかなかそうはいかない。活魚流通の仕組みを成功させるには、漁協・船会社・運送会社の信頼関係構築と連携が不可欠。今後も連携を密にして取り組みたい」と話す。
内閣府の実証実験では、他にも離島地域から集めた鮮魚を、本土市場から安価な市場定期便を活用して築地市場へ運ぶ「鮮魚ネットワーク」や、離島地域から集めた青果や加工品などを都内飲食店や量販店などへ届ける「離島セレクトBox」などに取り組み、効果や課題を検証している。
一連の実証実験を進める株式会社ハレの担当者は、「実証実験は各地の地域商社が、都市部でスムーズに取引するための地盤づくりに向けた取り組みです。今後は、各離島とワンストップで取引を可能にする仕組みづくりにも取り組みたい」と話した。