4月に施行された「有人国境離島地域保全特別措置法」で「特定有人国境離島」に指定された五島列島(ごとうれっとう|長崎県)の新上五島町(しんかみごとうちょう)では、地元の漁業協同組合が日々水揚げされる鮮魚を「五島箱入り娘」と名付け、ブランド化を図っている。漁業者の高齢化や漁獲量減少に立ち向かう取り組みについて、担当者に話を伺った。
東京都中央区の築地市場(画像提供:新上五島町観光物産協会)
高齢化や漁獲量の減少に立ち向かう「五島箱入り娘」
長崎県・五島列島北部の新上五島町は、中通島(なかどおりじま)、頭ケ島(かしらがしま)、桐ノ小島(きりのこじま)、若松島(わかまつじま)、日ノ島(ひのしま)、有福島(ありふくじま)、漁生浦島(りょうぜがうらしま)の7つの島を擁する。
五島列島海域は、日本の南西海域から北東へ流れる黒潮の通り道にある。豊富なプランクトンを求めて季節により様々な魚種が集まる好漁場で、定置網などの漁が営まれている。
新上五島町の上五島町漁業協同組合では、2007年から日々水揚げされる鮮魚を「五島箱入り娘」と名付け、ブランド化を図ってきた。イサキ、ヤリイカ、サワラ、タチウオなど季節の旬の魚介を、年間約8トン福岡や関西、長崎の市場をメインに出荷している。
「五島箱入り娘」として出荷されるタチウオ(写真提供:上五島町漁業協同組合)
鮮魚のブランド化を進める背景には、漁師の高齢化による漁獲量の減少がある。上五島町漁業協同組合 販売事業部の入山博人さんによると、周辺地域では定置網漁が半数以上を占める。「漁師さんも年をとれば、どうしても若い頃のような体力はなくなる。燃油の高騰もあり、人より先に積極的に沖に出て獲ろうという人も減っていきます」(入山さん)。
定置網漁は待ちが主体の漁法ではあるものの、網の定期的な掃除やメンテナンス、将来を見据えた設備投資なども必要。現状のあらゆる経費面を考えると手が回らなくなり、漁獲量の減少につながってしまうのだという。
漁獲量が減っても、ある程度の収入が維持できるよう、さらに漁業の担い手となる若手を呼び込もうと、高付加価値化に取り組んだのが「五島箱入り娘」だ。
水揚げした魚の処理は厳格に規格化されている(写真提供:上五島町漁業協同組合)
上五島町漁業協同組合では、近隣の都市圏の市場に出荷して高値で取引される品質を保つために、水揚げした魚の取り扱い方法や、活け締め、神経抜きなどの処理を規格化。魚種毎に基準項目を審査して5回連続して合格した出荷者を認定し、その後基準項目に反した場合は認定を取り消す厳しい審査によって「五島箱入り娘」の品質を保ってきた。
入山さんは「ブランド化で一番重要な点は、質を落とさない事。四季折々の魚を限りなく新鮮な状態で届けるため技術向上に取り組んでいます。手間暇がかかるのは承知の上ですが、苦労が実り、ブランド商品以外でも全体的な品質向上につながりました」と胸を張る。「五島箱入り娘」ブランドの一般ユーザーへの周知はまだこれからだというが、市場ではその名が浸透してきているという。
新たな取り組みとして、上五島町漁業協同組合では、内閣府が4月に施行された「有人国境離島地域保全特別措置法」で「特定有人国境離島」に指定された島々を対象に実施する実証実験に参加することになった。特措法に基づく交付金を活用し、島々で水揚げされる活魚を築地市場へ出荷する試みだ。
(記事後編へ続く)