「ワーケーションは、コロナ禍からの経済回復のための重要施策」という方針を、菅官房長官(当時)が今年7月に打ち出してから、にわかに注目を浴び始めた「ワーケーション(Work+Vacation)」という言葉。
島でも、余暇を楽しみつつテレワークで仕事もこなすワーケーションに取り組む地域が出始めている。しかし、その現実はどうなのだろう。昨年から、5歳のお子さんを連れて五島列島(ごとうれっとう|長崎県)でリモートワークやテレワークの企画・運営に携わる編集者の鈴木円香さん(東京在住)が、「子連れワーケーション」のリアルについて綴ります。
2歳から娘を五島に連れていくようになって
五島(※)に関わるようになって、かれこれ3年ほどになる。
最初は、移住した友人を訪ねて家族で遊びに行ったのがきっかけだった。今は5歳になっている娘も、その当時はまだ2歳。福江島・高浜のビーチで、よちよちと歩きながら「ホンモノの潮干狩り」をして遊んだ。「ホンモノ」とは、人工的にアサリを撒いていないという意味だ。家族みんな7人で1時間掘り続けて、小さなアサリが10個だけ見つかった。
(※)この原稿では特定の島や行政区に拠らない「五島列島全体」を指す場合に「五島」と表記していますが、「リモートワーク実証実験」や「ワーケーション・チャレンジ」に関する記述は五島市の取り組みを指します。
あとは、地域のおじさんが竹を割って作ってくださった流しそうめんを楽しんだり、贅沢にもサザエを餌に釣り上げたイシダイのお刺身を貪るように食べたりして、2歳の娘は初めての五島を満喫した。
それ以降、五島の写真家さんたちとフォトガイドブックを出版したり、「リモートワーク実証実験」や「ワーケーション・チャレンジ」の企画・運営に携わったりというご縁がいくつも生まれ、娘を連れて何度も五島を訪れた。
そうしているうちに、五島は娘の中で「海がきれいなところ、ママがとにかく大好きな場所」として刻み込まれたようだ。いつまでついてきてくれるのだろうかと内心不安だが、今のところ「ママ、五島に行くけど?」と言えば、「一緒に行く!!!」と即答してくれる。
しかし、親として「子連れワーケーション」はかなりハード
とはいえ、毎回50人規模のリモートワークやワーケーションの企画・運営をしながら、子連れで五島に滞在するのは容易なことではない。いや、ガチの子連れワーケーションは、体力的にも、精神的にも、実はかなりハードだ。
まず、うちの娘に限らず子どもというのは、かなり保守的な生きものである。基本的に、慣れない場所、慣れない食べもの、慣れない宿、慣れない乗物などに対して、ことごとく「いや!」と首を横に振る。
例えば五島には、酒好きにはたまらない「かっとっぽ」という、ハコフグの腹に味噌焼きを詰めた郷土料理があり、そのままの姿で焼かれて出されると、大人としては「おー!!!」とテンションが上がるのだが、子どもの目にはただ「気持ち悪い…」としか映らず、横で不機嫌そうに唐揚げと五島うどんといったコンサバティブなメニューを食べていたりする。
未知なるものを求めて旅に出る大人と、あくまで自分の安全圏で楽しんでいたい子ども。ワーケーションを共にする組み合わせとしては、最初からまあまあハードルが高い。
そのハードルの高さを痛いほど知っているがゆえに、最近菅官房長官(当時)の発言により「ワーケーション」という言葉が急に脚光を浴び、同時に「子連れワーケーション」も推進しようという動きが見え始めた時には、「ちょっと待った!!!」と心の中で声を上げた。
本当にわかってる???
子連れワーケーションが、親にとってどれだけ大変か???
ワーケーションは「Work+Vacation」だから仕事は必ずついてくる。しかし、子どもにとっては親と一緒に出かけるVacationでしかない。コワーキングスペースやコミュニティカフェでPCを開けば、「五島に来てまで、なんでお仕事するの???」と怪訝な目で見てくる。「もっと一緒に遊んでよ!」とハイテンションでせがんでくるし、それに応じていれば、子どもが起きている間に仕事をこなすことはほぼ不可能だ。Workは消失する。
(後編に続く)
【筆者略歴】
鈴木円香(すずき・まどか):一般社団法人みつめる旅・理事。1983年兵庫県生まれ、東京在住。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。アラサー女性のためのニュースメディア『ウートピ』編集長、SHELLYさんがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーター。旅行で訪れた五島に魅せられ、五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、Business Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画運営。その他、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく活動中。
【写真撮影】
廣瀬健司(ひろせ・たけし):福江島在住の写真家。生まれも育ちも五島列島・福江島。東京で警察官として働いたのち、1987年に五島にUターン。写真家として30年のキャリアを持つ。2001年には「ながさき阿蘭陀年 写真伝来の地ながさきフォトコンテスト」でグランプリを受賞。五島の「くらしと人々」をテーマにした作品を撮り続けている。2011年には初の作品集『おさがりの長靴はいて』(長崎新聞社)から出版。
【関連サイト】
「島ぐらしワーケーション in GOTO(GWC2021)」に興味のある方はこちら